12-Sideトラ:戦車軍団襲来
地上に出て来た僕が見たのは、最初襲撃に遭った時に攻撃を仕掛けて来た機械軍団だった。不細工なキャタピラと大砲をくっつけた機械がいくつも列を成しており、それらが放つ砲弾が地下街を揺らしていた。あれはいったい? あれもブラッドクランの配下か?
「マシンロスペイルとやらが操っている機械人形さ。
面倒なことに、マシンはいくらあいつらをぶっ壊しても痛くも痒くもない。
完全に独立した兵器ってことさ」
「だったらあいつらを潰して、引きずり出す! 変身!」
バックルにキースフィアを挿入し、僕はエイジアへと変わった。姿勢を低くして駆け出す、その背を砲弾が掠めた。さすがに質量がある分銃弾よりも遅いが、その分威力はとんでもなく高い。直撃を受ければエイジアとて一撃で撃ち抜かれるだろう。
小回りは効かなさそうだ、何よりもまずは接近すべし。キャタピラを守る装甲部にはマシンガンが取り付けられており、それが近付く僕を狙った。ジグザグ走行でそれを避け、跳ぶ。本体目掛けて瓦割りの要領で拳を振り下ろす、しかし一撃では破壊に至らない。
「さすがに鋼鉄製、硬いな。
それでも、パワーを収束させればこれくらい……!」
「おっと、そうはさせねえぜ!
こいつらを守るのが俺の仕事だッ!」
砂の中から何かが飛び出し、僕の背にチョップを繰り出して来た。姿勢を低くした前転ジャンプでそれを回避、別の軽タンクに乗り移った。タンクの上には新たな敵が降り立つ、ざらざらした外側の黒い肌とツルツルした内側の白い肌、そして鋭利な歯と同じくらいの殺傷力を持ったスラッシュナックルが特徴的だ。ブラッドクランのロスペイルか。
「俺の名はシャーク。
貴様が来ると思っていたぞ、エイジア!」
「どうやら僕の名はオーバーシアから伝わっているらしいな。
だが、お前のような三下を送り込んで来るところを見ると……
なるほど、こっちの消耗狙いってことか」
「それは俺と戦ってから考えることだな、エイジア。
無人の荒野が貴様の墓場だ!」
等間隔に並んだ軽タンクの上で僕たちは対峙した。と、タンクに装備されたマシンガンが一斉にこちらを向く。そして発砲! 斜め前方に飛び、辛くも銃弾の雨を避ける。だが、避けた先には軌道を既に予測していたシャークが立っていた。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
シャークの拳を真正面から受け止めるなど愚の骨頂、鋭い歯に食いつかれれば死ぬまで離されないだろう。そうなれば僕を待つ運命は刺殺か、あるいは銃殺か。いずれにしろ、一瞬たりとも足を止めてはならない。見たところシャークは鈍重、機動力勝負に持ち込めば決して勝てない相手ではないだろう。攻撃を捌きながら僕は算段した。
そう思った時、シャークは右腕を弓のように引き絞った。フィニッシュムーブの構え、だが隙だらけだ。これを捌き逆に致命の一手とする。だが、シャークの攻撃はこちらの想定よりもずっと苛烈なものだった。彼は全身でこちらに突進を仕掛けて来たのだ。
捌き切れず肩の装甲を抉られた。シャークは軽タンクから倒れ込み、頭から砂に潜っていった。このための予備動作か。シャークの出現地点を予測したいが、しかし敵はそれを許さない。銃弾、あるいは仰角を調整した戦車砲の一撃が僕を襲う。連続バック転でタンクからタンクへと飛び回り、砲撃を回避する。しかし!
「イヤーッ!」「グワーッ!?」
飛び上がって来たシャークの鋭い鼻先が背面装甲を抉った。ジャンプ中を狙われたため僕の体は前方に流れる。前にあったタンクが急停車したため、僕は地面に落ちた。そしてそのタイミングを見計らいタンクが発進! 僕を轢殺せんとする!
「チィッ! ブーストブラスター!」
回避は不可能。僕は炎熱砲を接近するタンクに向け、発射した。光の奔流がタンクを飲み込み、全壊させた。全力を出し切って、ようやく一台。これは想像よりも難儀だ。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
足元が盛り上がるのを感じ、僕は側転でそれを回避した。飛び上がったシャークはその勢いを減じぬまま大きく距離を稼ぎ、自由落下に従いまた砂に戻った。埒が明かない。
現状を分析し、そして理解しろ。
この状況で一番厄介なのはなんだ? それは……
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
手甲を分解、脚甲を強化! 僕は飛び上がり、軽タンクの砲塔を狙って飛んだ! 戦車を全壊させることは不可能でも、砲身だけならば何とかなる! 踏み潰された砲身はひしゃげ、明後日の方向を向いた。僕はそこを足場に次なる戦車の砲塔へと向かう!
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
10を越える戦車の砲塔を破壊! 戦車砲がなくなってもマシンガンがある、執拗に追跡を繰り返すマシンガンを避けながら砲身を潰すのは、正直ホネだ。だがこれしかない、一度やると決めたことはとことんまで貫き通すべし!
「おのれ、貴様!
我が兄弟が作り出した物を簡単に壊してくれおってーッ!」
地中からシャークが飛び出してくる!
しかし、それを妨害する者があり!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
首筋を狙い放たれたバイディングを、シャークは寸でのところで弾いた。それぞれ作用反作用で逆方向に着地したシャーク、そして御桜さんは20mの距離で対峙する。
「結城さん、あいつの相手はあたしに任せておいて!」
「お嬢ちゃんが相手か!?
サメは地上の覇者だってことを教えてやるぜーッ!」
御桜さんは立ち上がり、シャークとの熾烈な近接戦に移行する! 僕はどうすればいい? この戦いを終わらせるために、僕に出来ることはいったいなんだ?
(これほどの数のマシンを遠隔操作するなど、並大抵のことじゃない。
落ち着いて考えろ、僕は以前同じタイプと戦ったことがある。
そいつはどうやっていた……!?)
ローチロスペイルは音によって虫を操っていたし、同じような能力を持った別の奴とも戦ったことがある。その知識を総動員しろ、どうやってこれを操っている?
そして、僕はそれを見つけた。てんでバラバラの位置に付けられた、真新しい金属製のフラッグ。他の部分は統一されているのに、なぜ? それが兵器に必要なパーツではないからだ。僕は地を蹴り水平に飛び、フラッグをへし折った!
同時に、軽タンクは動きを止め、ピクリとも動かなくなった。ビンゴ。僕は次から次へとタンクの上を飛び回り、フラッグを潰して回った! すべてのタンクが動きを止める!
「これで終わりだ、シャーク!
お前たちの切り札はなくなった、大人しく――」
振り返ると、シャークと御桜さんはまだ打ち合いを続けていた。妙だ、あれほど大声で言ったのに二人とも聞いていない。それどころか、シャークは意地の悪い笑みを浮かべてさえいる。押されているように見える……いや、それはフェイクだ。
「御桜さん、下がってください!
何かがおかしい、それは罠だ!」
僕の叫びも聞こえなかったようだ。シャークが砂に潜るためか、三角跳びの要領で大跳躍をした。御桜さんはそれを追うべく、一足飛びに空中へ飛び出した。
その時、岩陰から黒い影が飛び出し、それが閃光を放った! 僅かな光から、それがタンクに使われていたのとほとんど同じ口径の砲だと気付いた。空中にいた御桜さんはそれを避けられず、まともに胴体に喰らってしまった。彼女の体が吹っ飛んだ。
「御桜さん!?」
彼女は轍を作り、かろうじで大地に立った。胴体からはおびただしい量の出血があり、手で押さえているのに止めどなくどす黒い血が噴き出した。御桜さんは襲撃者を見上げ、憎悪に満ちた表情を作った。意地の悪い哄笑が聞こえる。
「進化したとは言っても所詮獣。
俺のような聡明なタイプと比べるまでもないな!」
もう一度それは砲を構えた。御桜さんは避けようとした、だが動けない。後ろに逃げ遅れた市民がいることに気付いたのだ。彼女は踏ん張り、両腕をクロスさせ急所を守った。大地を揺るがす咆哮めいた轟音が響き渡り、御桜さんの体が吹っ飛んだ。




