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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
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03-襲撃のソー

 それは、ごく標準的な素体ロスペイルだった。だが両腕はチェーンソーのような形に変わっていた。頭には兜、胴体には鎧。足の関節は人間のそれと反対になっている。


 ロスペイルはタメを作り、跳んだ。両腕のチェーンソーを回転させながら。皮膚が回転に取り込まれ、骨が刃によって砕かれる! 圧倒的膂力と加速力によって生み出された破壊力は人間を真っ二つにした! 鮮血のシャワーが立ち上り、阿鼻叫喚の地獄が顕現!


 逃げ惑う人々を乱雑に切り捨てながら、ロスペイルは何かを探した。そして、カウンターの影から様子を伺っていた男、すなわち売人を見た。ロスペイルの口元が喜悦に歪んだのを、僕は見た。再びタメを作り、ロスペイルは男に跳びかかる!


「チィッ! やらせんなや、トラッ!」


 エイファさんはブーツに手を当て、何かを投げた。それは括り付けられていた小型の指向性爆薬だ。投げ放たれたそれはロスペイルの胴体にぶつかり、爆発。さしものロスペイルと言えど、爆薬の直撃を受ければただでは済まぬ。衝撃に煽られ吹き飛ばされ、入り口の辺りまで戻された。

 僕はロスペイルと売人の間に立ち、キースフィアを取り出した。


「ウチがこいつを安全なところまで逃がす!

 そいつの足止めをせぇ、トラ!」

「分かりました、エイファさん! お気をつけて!」


 キースフィアをバックルに挿入し、僕はエイジアへと変わった。エイファさんは男を連れて裏口へと逃げ込んだ。ロスペイルはそれを追おうとするが、その前に僕が立つ。


(こいつ、あの男に何かの恨みを? だが、何だか……)


 考えるよりも前に、ロスペイルが動いた。チェーンソーを寝かせ、なぎ払う。僕はそれをガントレットで受け止めた。だが、回転の力によって徐々に押し込まれて行く。


「ヌゥーッ……!」


 ロスペイルは逆のチェーンソーを構え、突き込もうとしてきた。先端もチェーンが付いているので、殺傷力は変わらないだろう。僕は突き込まれたチェーンとチェーンの間、そこを掴んだ。回転は止まり、僕を苛むことはなくなった。あとは力比べだ。


 スーツの赤熱機構を作動させる。だが、その寸前で刃が引かれた。ロスペイルは何かを警戒し、距離を取ったのだ。まさか、僕のことを知っているのか?


(油断ならないな。

 何を考えているのかは分からないが……!)


 ロスペイルは再び踏み込んで来る。振り下ろされる刃を受け止めるが、すぐに引かれる。そして次の斬撃が繰り出された。力比べでは勝てないことが分かったのだろう、まともに打ち合う気だ。防御と攻撃、一進一退の攻防が狭い店内で繰り広げられた。


(こいつは強い! 僕が相手にしてきた敵よりも、遥かに!

 どうすれば勝てる?)


 僕は左のチェーンソーを弾き、右の拳を繰り出した。

 ロスペイルは半身を引いてそれをかわす……否、違う! ロスペイルは右足を軸に回転、遠心力を乗せた斬撃を繰り出してくる! 直撃こそ避けたが、しかし凄まじい衝撃が襲う! 僕はたたらを踏んだ。


(左腕が痺れる……!

 強い一撃を貰ってしまったからか!)


 ロスペイルは追い打ちを掛けようとしてきた。だが、突如として動きを止めた。頭だけを動かし、虚空を睨んでいる。僕はそこに隙を見出した。スフィアを押し込み、ブースト機能を発動。右手に全エネルギーを集中させ、体重を乗せたストレートを放った。


 我に返ったロスペイルは、刃を立てそれを受け止めようとした。だが、収束したエネルギー量を見誤った。ブレードに当たった拳はそれを焼き溶かし、切断。その奥にあった頭部に拳を導いた。頭部を破壊されたロスペイルは膝から倒れ込み、爆発四散した。


「ハァーッ、ハァーッ! ギリギリ……幸運がなければ、やられていた」


 あのロスペイルは、最後に何を思ったのだろう? いや、そもそもあのロスペイルは何だったのだろうか? あんな特徴を持ったものを、いままで見たことはない。

 もちろん、僕にもロスペイルのすべてが分かるわけではないが……


「よう、終わったみたいやな。

 こっちも終わりや、さっさと行こうか」


 エイファさんも、売人も、何事もなかったかのように出て来た。店のスタッフは手順翼死体を片付け、消毒処理をする。まるで日常茶飯事だと言わんばかりに。


「あの化け物が珍しいかい、坊ちゃん?」

「エイファさんと知り合うまで、あんな怪物見たことがありませんでした」

「だろうな、育ちが良さそうな顔してるからな。

 化け物だのなんだの、サウスエンドじゃ日常茶飯事だ。

 婆様から教わったモージョーを唱えて、やり過ごすしかない。

 誰もが見て見ぬふりさ。サツもヤクザも都市行政も、な」


 売人は煙草に火を付けた。

 僕は何も言えず、黙って店を出た。


「サウスエンドの外側で取引しとったのが幸いした。

 画像はすぐに出るで」

「それさえあれば……」


 確かな手ごたえを感じた。

 その時、携帯端末が震えた。野木さんからの連絡だ。


「結城です。どうしたんですか、野木さん?

 そちらから連絡なんて珍しい……」

『悪いニュースだ、トラ。いまニュースを見れるか?

 もちきりだぞ』


 何を言われているの分からなかったが、取り敢えずニュースサイトを開いた。

 ヘッドラインを見ただけで、野木さんがなにを言わんとしているか分かった。


『聖マルドゥク学園殺人事件、実行犯逮捕。身勝手な動機を徹底解明』


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