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第三十二話 酔いと尿意と獣人の国

数ある作品の中から興味を持っていただき、本当にありがとうございます!

ついに、念願の旅を再開することができたタヴァータ一行。

しかし、そんな彼らにあの大ピンチが襲いかかる…!!!

宿を出発してから、約1時間後。

無事に国境を抜けることができた僕たちは、隣の国の中心部へと向かうために森の中をただひたすら進んでいた。


「………わん!!!わんわんわん!!!!(わーーーいっ!!!!! みんなをのせて走るの、楽しーーーーーっ!!!!!!)」



大きなわんちゃんの(ほんらいの)姿に戻ったリルが、僕たちを背中に乗せて大はしゃぎしながら、次の目的地へと全速力で進んでいた。

自動車並みのスピードでびゅんびゅん走るのでかなり揺れるが、アトラクションみたいで楽しいし…吹き抜ける風が気持ちいい。



「……さすがリルだ!!! 徒歩よりも何十倍も早いし楽ちんだな!」


「……………風がつめたくて気持ちいいなあー…!! リル、ありがとね!!!!!」



「……わん!!!わんわんわん!!!!(うん!!! いよぉーーーーっし!!! もっと飛ばしていくよーーーーーーー!!!!!!)」


僕たちがリルのスピードに驚いていると、それを聞いて上機嫌になったリルがさらにスピードをあげたようで、身体にぐいっと遠心力がかかる。

これなら、当初の予定より大幅に早く次の目的地へ到着できそうだ。

僕がそう思いながら、上機嫌で流れる景色を見ていると……僕の後ろに座っているレムがぷるぷると震えているのに気づく。


「……………? レム? どうしたの? 」


「………………………………………うぷっ………………」



僕が心配して後ろを振り返ると、レムの様子がなんだかおかしい。

表情はいつもと変わらずぴくりとも動いていないが、心なしか顔色が悪く冷や汗がすごい。

そしてはあはあと肩で息をしていて、すごく苦しそうだ。


これは………もしかしなくても……………!!!!



「………………うぅ…………………きもちわるい……………………………」


レムが、心底つらそうに僕たちにそっと告げた。



「…れ、レム!?!?!?!? 大丈夫!?!?!? 」


「………………だめかも…………………………………うえぇ……………」



案の定、レムが乗り物(?)酔いをしてしまっていたのだ。

まあ、さっきあれだけばくばくご飯を食べたうえに…こんなに上下に揺さぶられたら誰でも酔っちゃうとは思う。

でも、僕も結構乗り物酔いする体質なのに…今日はまったく問題ないなぁ。

ナキシーさんとリルがかけてくれた状態異常耐性の魔法のおかげかな?


「………レム、大丈夫か……?

 もし辛いなら、一度降りて皆で休憩しよう。」


僕がそんなことを考えていると、一番前に座っていたナキシーさんが心配そうにこちらを振り返ってそう告げた。


「………そうですね。 ……我慢は体によくないですし、ここらへんで休憩にしましょう!!!」


「………………うん………… そうする………………………」


ナキシーさんに続き、僕も休憩の提案を打診する。

僕も日本にいた頃は、よく車酔いで苦しめられたっけなぁ…

そんな苦い記憶を思い出し、現在進行系で苦しんでいるレムをいたわって同情する。


「……わん……わんわん!! (ごめんねー、ちょっと揺れたよねー!!!

 じゃあ、このへんでひとやすみしよっか!!!!)」


「……ですね!!! じゃあこのへんで一休み………………

 って、レベッカさん!?!?!? 大丈夫ですか!?!? すごい汗ですよ!?!?!?!?」



僕がそう言い終わらないうちに、また新たな異変に気がついてしまう。

僕の前に座っていたレベッカさんも苦しそうにはぁはぁと肩で息をしており、冷や汗びっしょりで顔色がすごく悪い。


「………すぐ休憩にしますからねっ!!! もう少しの辛抱ですよっ!!!!!」


僕がそう励ましながら、レベッカさんの背中をさすさすと優しくさする。

すると、目にいっぱい涙をためて今にも泣き出しそうなレベッカさんが、ぷるぷるとふるえながら振り返ってこう答えた。


「…………はぁ……はぁ………… ち、違うのぉ……………」

 トイレぇ……………おしっこ漏れちゃうぅ………………っ!!!!!!!」





「「「・・・・ええぇぇぇぇーーーーっ!?!?!?!?」」」




◆◆




「………はぁ………貴様というやつは………………

…なんでさっき、トイレに行かなかったんだ!!」


レベッカさんの悲痛な叫びを聞いたナキシーさんが、心底呆れた表情でそう呟いた。


「……………だって、だってぇ!!!!

 あたしも出発する前にトイレ行きたかったのに、ナキシーさんが強引に出発しようとするからぁーっ………!!!!」


それに対抗するように、レベッカさんが半泣きになりながら涙声で抗議する。


「………ぐっ……………それは……その、すまん。」


その抗議を聞いたナキシーさんが、ぽりぽりと頭を掻きながら申し訳無さそうに頭を下げた。

うーん………これは、大ピンチだなぁ…………。


「……まあ、あれだ。

 せっかく休憩を取るんだから、そのへんで花を摘みにいけばいいだろう。」


「わん!!!わんわんわん!!!(このへんはおトイレはないけど、木の陰とか茂みならいっぱいあるよー!!!!)」


「………無理ですよぉーっ!!! あたし、これでも女の子なんですからぁっ……!!!!

 そのへんでなんて、絶対にできないよぉーーーーっ!!!!!」


「………む、そうか……。

 気持ちはわからんでもないが、貴様……変な所で律儀だな……… さすが元天使だ。」


「……言ってる場合じゃないですよぉっ!!!!!

 はうぅ………も、漏れちゃうぅ………!!!!」



しかし……困ったなぁ。 

さいわい、このままのペースで行けばあと30分もかからずに目的地へ行けるんだけど……

ここで休憩しちゃうと絶対にレベッカさんが間に合わないし、急いで目的地まで突っ走るとレムがいつまでもつかわからない。


「………………………………うぷ…………………わたしは…………だいじょぶだから………………

 ……………れべちゃん…………………たすけてあげて………………!!!!」


「……うわぁぁん!!! レムちゃぁんっ…………なんていい子っ…………!!!!

 でも、こんないい子に無理なんてさせられないよぉーーっ!!!! 


い、意地でも我慢するから、ここらで休もっ…………はうぅっ!?(ぷるぷるっ)」



なんて、お互いを思いやれる美しい仲間愛だろうか。

だが…そんなことを言っている余裕はない。 

なんとしても、この大ピンチを乗り越えなくては!!!!


僕は必死に、この状況を打破できる方法を考えていた。





◆◆





「・・・2人ともぉっ!!! 街が見えてきたぞぉっ!!!!!」


「レム、レベッカさんっ…!!! もう少しの辛抱ですよっ!!!!!」


「わん!!!わん!!!(ふたりとも、がんばれー!!!!)」



「…………………ふぅ………………ふぅ……………………うぷ…………!」


「………ひぃん……も、もぉ限界ぃ……!! おしっこ漏れちゃうよぉぉ…!!!!!」



先程の騒動から、およそ三十分弱。

どちらも最大限に譲歩しまくった結果、なるべく揺れないようにゆっくりと…そして早く目的地を目指すことになったのだが………

2人とも、もうかなり限界が近そうだ。


「…………………はひゅー……………はひゅー……………お…おえぇ…………」


「…………辛いなら、無理せず吐いちゃっていいからね?」



「………はぁんっ…………もぉ駄目ぇっ………!!!

 おしっこ出ちゃうっ…………出ちゃうよぉーーーーーーっ!!!!!!」



「……………まあ、あれだ。

 私も酒を嗜むが、酒を飲んだあとの尿意は本当に凄まじいと常々感じている。

 だから…………そのっ…………………すまなかっ・・・


 ・・・・・・おいっ!!! 私の背中に股ぐらを擦り付けるなぁっ!!! 気色悪いっ!!!!」


僕がレムに大きな紙袋を手渡し、いちばんうしろにまわってレムの広い背中をさする。

ナキシーさんも流石に申し訳ないと思ったのか、レベッカさんに謝罪をしているが…

当の本人はそれどころじゃないみたいで、無理やり栓をするようにぐりぐりと出口をナキシーさんの背中に押しつけている。

旅が再開されて早々に、僕らのパーティーは地獄絵図になった。


「わんわんわん!!!!(もうすぐ着くよー!!! みんなよくがんばったねー!!!!)」


そんな、阿鼻叫喚のカオスな状況の中。

僕たちはついに、目的地の……獣人の国の中心部の街へと足を踏み入れたのだ。

読んでいただきありがとうございました!!

少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」などと思っていただけたら、リアクションや評価ポイント、感想やブックマークなどをして頂けるとものすごく嬉しいです!!!

なにとぞよろしくお願いいたします!!

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