第二十二話 神獣・テンペストフェンリルちゃん
数ある作品の中から興味を持っていただき、本当にありがとうございます!
大規模な魔力障害のせいで旅を再開できないタヴァータたち。
仕方がないので宿にこもっていると、なにやら超巨大なワンちゃんが突然目の前に表れるのだった!!!!
"東の摩天楼"へ訪れるべく王都を出発してから、はや一週間。
僕たちの旅は、早くも行き詰まってしまっていた。
「.............うーん..........なかなか、魔力障害がおさまりませんね...........」
僕が宿の中から窓越しに外の様子をうかがい、心配そうにそうつぶやく。
窓の外にはおびただしいほどの闇の魔力が充満しており、あたり一面に黒い霧のようなものが充満している。
一週間ほど前に発生した魔力障害は、おさまるどころかどんどんと勢力を拡大しているようだった。
「..........ああ、そうだな...........。
ここまで大規模なものは、私でも体験したことがない..................。」
僕のそのつぶやきを聞き、ナキシーさんも同じく心配そうに自身の心情を吐露する。
ナキシーさんによると、魔力障害は長くても2〜3日ほどで解消することがほとんどだそうだが........
ここまで長引いてしまうということは、きっとよほどの原因があるのだろう。
「............国王陛下が派遣した捜索隊も、あまりに闇の魔力が強すぎて近づくことすらできなかったって聞きますし...............ジブンらがなんとかすることは無理そうっスね...............」
「.............そうですね...................。
たぶん今私たちが宿の外に出たら、一瞬で命を奪われちゃいますよ................。」
僕たちの会話を聞いていたメオナさんとハイコさんが、同じく心配そうに話しかけてくる。
日に日に勢力を拡大する魔力障害のせいで、僕たちと同じ宿に宿泊していた冒険者のみなさんは............
かれこれ一週間もの間、宿から出ることすらできない生活を送っていた。
「............................おなかすいた.............................。」
僕らの話を聞いていたレムもまた、無表情な顔を少ししょぼんとさせて呟いた。
そろそろ宿に備蓄していた食料も底をつきはじめ、食堂にも満足な料理が並ばなくなってしまったのだ。
このままでは、僕たちの命にかかわる。
文字通り、僕たちの周りに暗雲がたちこめているような状況。
.........しかし、諦めてはいけない。
諦めずに前を向いていれば、いつか必ず解決方法が見つかるはずだ。
そんな思いを胸に、僕はいまできる最大の笑顔をしながら言葉を発した。
「.............どうにもできないことを心配したって...........しかたないです。
できることなら、明るく元気にいきましょう!!!!」
そういって、僕がにこっと笑う。
「...........ああ。そうだな!!!」
「..................そうっスね!!!! くよくよしてても仕方ないっスよ!!!!」
「.............はい。 勇者様も、どんな事があっても諦めるなとおっしゃいましたものね.........!!!!!」
それを聞いたみんなが、徐々に表情がやわらいでいく。
僕は不穏な空気を払拭できたことにひとまず安堵しつつ、ここに来てから日課になっているあることをするため、ナキシーさんたちと一緒に食堂へと足を運んだ。
僕たちが食堂の扉を開けると、大勢の冒険者の方が席へと座っていた。
みんな今か今かと、ワクワクしながら僕が来るのを待ち望んでくれていたようだ。
「.......みなさん、こんにちは!!!!」
「.................お!!! タヴァータさん達が来たぞ!!!!」
「..........今日はどんなお話を聞かせてくれるのかしらぁ........!! 楽しみねぇ.........!!!!」
僕が集まってくれたみんなに挨拶をして、食堂の特設ステージのうえへと上がる。
そこに用意されていた椅子へ腰掛けてあたりを見渡すと、ほぼ全員の宿の利用客の方たちがぎっしりと隙間なく食堂の椅子へと座って待機していた。
室内でできる最高の時間の過ごし方といったら...........そう! マンガを読むことだ!!!!
宿に来て最初の頃は、僕が持ってきたマンガを用いて読み聞かせをしたり、それのスピンオフである勇者の日常のお話を話したりしていたのだが.................
さすがにそればっかりでは飽きちゃうかなと思い、最近は日替わりで僕が日本にいた頃に好きだったマンガやアニメの話をしているのだ。
「...........ええっと............何か、どういう感じのお話が聞きたい...........とかってありますか?」
僕が皆さんにおずおずと質問すると、みんな我先にとばかりに自分のリクエストを叫び始めた。
「.......俺は、三日前の海賊の王を目指す少年の話が聞きたいぜ!!!!!
あの砂を操る土属性の男をどうやって打ち砕くのかっ.........気になって夜もろくに寝れねえんだ!!!」
「......アタシは、昨日のモンスターテイマーの少年の話が聞きたい!!!!
同じ雷属性の魔物を使役するアタシにぴったりだよ!!!!!!」
「........................わたし..........................よっかまえの.......................やつがいい。
あのおじさんの.......................フルコース.................きになる。」
「.............ふぉっふぉっふぉ。
ワシは、二日前の鬼を倒す剣士の少年の話を聞きたいのお。
その少年と同じように鬼の群れに里を壊滅させられたワシにとって..........その少年をほおっておくことはできんのじゃ...............。」
「..........わっ.........私は........もっと勇者様の秘密を教えていただきたいですっ!!!!!!!!」
「...............わん!!!! わんわんっ!!!!! (わたしも、もっと勇者さまのお話をききたいなあー!!!)」
みんなが発する思い思いの感情をのせた声を聞き、うれしくなった僕が目を閉じてうんうんとうなずく。
僕が愛するマンガやアニメを布教することができて、嬉しい限りだ!!!!
.................ん? “ わん ” って、なんだ?
みんなの声に交じった謎の犬のような鳴き声を不審に思い、僕があたりを見渡すと............
「...............うわああああああああああっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?!?」
食堂の出入り口付近に、深緑と白の美しい毛並みをした超どでかいワンちゃんが..............おりこうにちょこんと座っていたのだ。
「..........ななななな、なんだ、この超大型の魔物はぁっ!?!?!?!?!?!?!?」
「.........こんなでかい図体で..........いったいどこから入ってきたんだ!?!?」
「......ひぃ.........!!! いぬ..............怖いです.........!!!!」
「............皆は速やかに距離を取って離れるのじゃ!!! ここはワシがなんとかするっ!!!!!」
一番最初に気がついた僕の悲鳴につられて、食堂にいるみなさんもその存在に気がついたようで...........
先ほどとは打って変わって、食堂内は大パニックに包まれていた。
「............タヴァータくんっ!!! 今助けるぞ!!!!」
「......先パイっ!!!! 大丈夫っスか!?!?!?!?」
ナキシーさんとハイコさんが、すかさず僕の方へと駆け寄って僕の前に立ち、でかいわんちゃんの方へと武器を構えた。
「.........くそっ........!!! 厄介なことになった.........!!!
下手に攻撃して宿の壁を壊したりなんてすれば.............たちまち闇の魔力があたりに充満してしまうっ............!!!!」
「.............くーっ..........マズいっスね.........!!!
レム先パイのレーザー砲も使えないし............. 物理で応戦できるほど食堂は広くないっス..........!!!!!」
2人が、心底困った様子でぽつりとつぶやいた。
ナキシーさんやハイコさん、レムやメオナさんと一部の冒険者の方が臨戦態勢をとっているが、先程から誰も何も動くことができていなかった。
そんな当の本犬はというと、きょとんとした顔で僕たちを見ているだけで............
あまり、こちらに敵意はないように見えた。
しかし...............このワンちゃん、なんなんだろう......。
大きめの乗用車くらいのばかでかい身体に、美しく整った深緑と白色の毛並み。
だけど、それら以外は特におかしな点もなく..........
さっきからずーっとおりこうにちょこんと座ったまま、しっぽを小刻みに動かしながら僕のことをじーっと一点集中して見つめている。
(..............うーん。 悪いワンちゃんじゃなさそうだけど................どうなんだろう?)
僕が心のなかで首を傾げていると、眼の前のワンちゃんがなにかひらめいたかのようにぴくっと頭を上げた。
.................かと思うと、頭の中に直接響くような声とともに、急にワンちゃんの身体がまばゆい光に包まれた。
「.................わん!!!(そうだ! ごめんね、ちょっと待っててね!!!!!)」
「.........うわぁ..........!?!? どうしたんだろう.........!?!?!?」
「.............不味いっ.........!!!! タヴァータくん、できるだけ多くの人を連れて空間転移魔法を使うんだっ!!!!!」
「..........ええっ!?!? で、でも、あのワンちゃんがちょっとまっててって言ってましたし...........」
「......ええっ!?!? 先パイ、あの魔物の言ってることがわかるんっスか!?!?!?!?」
そうこうしているうちに、ワンちゃんの身体の輝きが最高潮に達する。
「.............わおーん!!!(うおーーーーーーっ!!!!)」
「「「「「「「「「「「「「「...............うわあああああああああああっっっっ!?!?!?!?!?」」」」」」」」」」」」」」
ワンちゃんの遠吠えを聞いたみんなが、慌てて地面に伏せる。
僕もあまりの眩しさに、とっさに目をつぶって下を向く。
すると............瞬く間に、光がもとの明るさへと変化した。
「..............じゃーんっ!!!!
よーし!!! これなら、みんな怖くないでしょー!?」
さっきまででかいワンちゃんがいた場所から、元気な女の子のはつらつとした声が聞こえてくる。
「.....................っ!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?////////////////////」
僕が目を開けて前を見ると..........
犬っぽい耳としっぽをつけたとってもキレイなお姉さんが、生まれたままの姿で両腕をめいっぱい広げて立っていた。
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