57話:伯母さんのカフェ
「あっ、そうだった。こんなこと話してる場合じゃなかったわ!…るいくん!!カフェユニフォームに早速着替えましょう!!るいくんにとても似合うと思うわ!このカフェユニフォームをるいくんに着せたらって思うとよだれが出てくるわね…もう昨日からずっと妄想しててヤバかったのよ。…とうとう見れるのね…!!」
そう言いながら伯母さんは僕の肩を思いっきりゆらゆらと揺らしてきた。 か、カフェユニフォーム…!?…というか…ちょ、ちょっと肩を揺らす勢いが強すぎて頭が……!…う…うぇぇぇ…!!
「店長…!!昨日から先輩のカフェユニフォーム姿をずっと考えていたのはキモいですし、るいくんが白目を向きかけてますよ……このままじゃ倒れちゃいますって…!店長落ち着いてください!」
岸田さんは慌てながら伯母さんの腕を掴み離そうとするが興奮した伯母さんは力が強すぎて岸田さんの力では外れなかった。
「も、もう…!!店長力強すぎ!!その細い腕のどこにこんな力があるんですか…!!…津田先輩もう店長はどうなってもいいんでるいくんから剥がしてください!!」
「任せなさい、店長が興奮して話を聞いてない今だから言いますが私は学校では怪力王津田と呼ばれているのです。この私の筋肉に勝てるものは一人もいないとじ…」
「そんなことどうでもいいですから早くしてくださいよ先輩!」
「む、そうでしたね…すみません。…よし、店長…悪いですが貴方を仕留めさせていただきます…貴方に恨みはないんですがね…」
津田さんは指の骨をポキポキと鳴らしながら僕の肩を揺すっている伯母さんまでゆっくりと歩いて近付いた。
「…ふんっ…!!!!!」
津田さんは手に力を込めて伯母さんの肩を掴み僕から引き離そうとする。…だが…
「……………っ…!?………剥がれないだと…!?…なんて力だ……」
津田さんが引き離そうとしても全く伯母さんは動かずに僕の肩を揺らし続けている。あの怪力王と呼ばれた津田さんの力でさえ伯母さんを動かすことは出来なかった。
「……まさか津田先輩の力でも動かないなんて……」
それを見ていた岸田さんも驚いて目を丸くさせた。岸田さんも津田さんなら動かせると思っていたのでもうどうしたからいいか諦めの表情が見えている…
この絶望的な状況…しかし笑っている男がまだ一人いた。
「ふふっ…まさか店長がここまで強いとはね。中学生の頃、タイマンの柳と言われていた時代を思い出すよ…」
「や、柳さん!!」
カウンターの奥から一人の男が現れた。
…この男はこのカフェのもう一人のバイトで近くの大学に通っている大学生だ。中学生の頃、タイマンの柳と呼ばれていたらしいが…
「ふぅ〜…久しぶりに力を出すよ。僕に任せて皆は見てな。…タイマンの柳はこの程度の事ならすぐに終わらせられるからね」
そう言って柳はカフェユニフォームの袖をまくって伯母さんの肩に手を置いた。
「店長…強引ですみませんが一気にいきますよ!!…ふんぬぁぉぉぉぉぉぉ…!!!!!」
柳は全身全霊の力を込めて伯母さんを僕からどかそうと肩を引っ張る…だが押しても押しても伯母さんは動かずずっと僕の肩を揺らしているだけだった。
そして力を込めていた柳は力尽き地面に崩れ落ちた。
「…………まぁ……タイマンの柳って呼ばれてたのはカードゲームの話だから現実の喧嘩は弱いんだけどね……」
「そりゃそうでしょうね。柳先輩は体細いですし」
うん、というかそもそもで柳先輩って痩せてるから全然筋肉なくて津田さんが押せなかった人を押せるわけがないんだよね。
「……柳さん…貴方はここで眠っていてください。後は私がやります…!!……ふっ…ここまで燃えているのは体育祭で海と戦ったとき以来ですよ。それぐらい熱かったです。……なので店長には本気を出すとしましょう!!」
津田さんは勢いよくカフェユニフォームを脱ぎ上半身裸になった。うわぁ……やっぱり凄い筋肉だね…もう本当に人間なの…?って思うくらいムキムキだよ。
「……ではいきます………んぬぅぅぅぅぅぅぅんらぁぁぁぁぁぁぉぁ…!!!!」
津田さんはさっき以上の力を伯母さんにぶつけた。…最初は動かなかった伯母さんも少しずつ僕から離れていく…津田さんは押して、押して、押して、押して押しまくる…!!
…そして
「んぉらぁ…!!」
とうとう僕から伯母さんを離すことに成功した。押し切った後の津田さんは床に倒れやりきった顔で満足そうに笑っている。…今思うとカフェにバイトに来たのにこの状況って異常すぎるよね。
「……あっ…!!……ご、ごめんね…!暴走してた…」
意識を取り戻した伯母さんは倒れている僕と柳さんに謝っている。…全く…伯母さんのこの興奮状態になったら話を聞かなくなって馬鹿力を発揮するのは本当に良くないと思う…もう揺られすぎてやばかったもん……
……ん…??……あれ…?倒れている僕と柳さんに謝っている…??
……倒れている僕…??
……あれ?なんで僕は倒れている僕を見てるんだ…??




