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(9)交渉の前に

 フィロメナの家で諸々の作業を終えたシゲルたちは、予定通りまずは(・・・)ホルスタット王国の王都へ向かった。

 以前は通り道でしかなかったが、今回はきちんと目的があって来ているため、フィロメナたちも気合が入っている。

 最悪、超古代遺跡のことは認められなくてもいいのだが、出来ればそれを認めさせる方向に持っていきたい。

 それが、シゲルたちにとっての最低の勝利条件である。

 もっとも、アマテラス号というどう見てもオーバーテクノロジーの塊が存在している以上、基本的には認められるだろうとフィロメナは言っている。

 そのため、問題はそれから先の要求についてだ。

 

 超古代文明については、これまでのしがらみがあるとはいえ、あまり否定されることはないだろう。

 直接考古学に関わっているのならともかく、そうした貴族は限られているので、あまり実害が受ける者は少ない。

 ただし、そこから先の特にフィロメナが要求しようとしている魔道具に関する研究成果は、それの受ける利権に目をつける者が少なくないだろう。

 今後のことを考えると、この場で決めるべきことは決めておきたいというのが、フィロメナの希望だった。

 

 そして、今回の王の対面は、シゲルにとっても他人事ではない。

 渡り人であることと、アマテラス号の所有者であること、このどちらも世間に対する影響は大きいものになる。

 それを公にするのだから、さすがに当人不在で話を進めるわけにはいかない。

 シゲルとしては勝手にやってくれと言いたいところであったが、そういうわけにもいかず、しっかりと一緒に行くことが決められているのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 フィロメナの家から午前中のうちに王都に着いたフィロメナたちは、アマテラス号を城壁の外側に置いてから町の中へ入った。

 今回はアマテラス号のことを公表するつもりでいるので、最初から機体の姿を消さずに移動している。

 わざと人の注目を集めるようにしていたので、アマテラス号は門の傍に泊めて置くことにした。

 勿論、外に出る際には、最大限のセキュリティ状態にしておくも忘れない。

 それをしなくてもエアリアルの監視の目(?)が光っているだろうから、盗難などの心配はないだろうが、それはまた別問題である。

 

 当然ながら空飛ぶ船など無いため、シゲルたちがアマテラス号から姿を見せた時は、集まっていた騒めきが一段と大きくなった。

 その集団に向かって、フィロメナが一言言葉を発した。

「この船に下手に手を出せば、大精霊の怒りが降り注ぐだろう。大精霊に対して、そんな馬鹿な真似をする者が出ないということを期待する」

 フィロメナがそう宣言すると、直前までの騒めきが一瞬にして収まった。

 それを見て満足げに頷いたフィロメナは、そのままシゲルたちを連れて壁門へと歩き始めるのであった。

 

 

 いつものように、ギルドカードを見せて城門を通過したシゲルたちは、以前泊まったところと同じ宿へ入った。

 マリーナは以前と同じように、ひとりで神殿へ向かっている。

 幸いにして同じ部屋が空いていたので、そのまま借りることができた。

 そんなことをしている間に、宿の部屋にお客が訪ねて来た。

 これまた以前にも来たことがある王の侍従であるミンだった。

 

 ミンの姿を見て、フィロメナがニヤリとした笑みを浮かべながら言った。

「おや。今回は随分と早い登場だな」

「あれだけの騒ぎを起こしておきながら、何を仰っているのでしょうか」

 フィロメナのちょっとした嫌味にも表情を変えず、ミンは淡々とそう返してきた。

 実際には、噂を聞いた王が、頭を抱えながら慌ててミンを送り出したのだが、そんな余計な情報をこの場で渡すほどミンは愚かではない。

 フィロメナとしても、今の言葉が聞けただけで十分だった。

 

 すぐにでも一緒に来てくださいと言い出しそうになったミンに向かって、フィロメナは前もって用意をしていた封書を差し出した。

「…………これは?」

「今回は、いきなり対面するのはやめておいたほうが良いだろう。私からも話したい内容があるので、それに書いておいた。まずはそれを王に渡してもらえればいい」

「しかし王は、会うことを希望されております」

 フィロメナの言い分に、ミンは懸念を示した。

 王からの要請は、あくまでもフィロメナを連れて来るようにということだった。

 そのため、ミンにとっては、フィロメナの言葉は受け入れがたいものなのだ。

 

 そんな頭が固いミンに向かって、フィロメナが言い聞かせるように言葉を続けた。

「そなたがそう言うのなら私は構わないが、本当にいいんだな? それによって、王の立場が不利になることもあり得ると考えてのことなのだが。いかに王といえど他国との交渉は事前に話を詰めておくのではないか?」

「…………」

 フィロメナの正論に、ミンは黙り込んでしまった。

 

 その顔を見れば、王の立場が不利になるという言葉と、王からの命令を天秤にかけていることはすぐにわかる。

「そなたも噂のことは耳にしているのだろう? わざわざあれほどの物を見せてきているのだ。ただの世間話だけで終わるわけではないと、そなたも分かるだろう?」

 そのフィロメナの言葉がとどめになったようで、ミンは少ししてからコクリと頷いた。

「――畏まりました。それでは、まずはこの手紙を王に渡してまいります」

「ああ、頼む」

 フィロメナがそう答えたところで、最初のミンとの話し合いは終わりとなった。

 

 

 ミンが部屋から出ていくのを見送ったシゲルが、フィロメナとミカエラを見ながら言った。

「とりあえず前哨戦は終わりといったところかな?」

「ああ、そうだな。まあ、これは勝負にもなっていないが」

 ミンは、あそこまで言われても強引に王の命令を優先するほど頭が固くはない。

 だからこそ、フィロメナはミンのことを信用して手紙を預けたのだ。

 あの手紙には、王との交渉内容も書かれているが、どちらかといえば国内の貴族たちとどう話をするかが書かれている。

 いかに力のある王といえど貴族たちを無視することはできないので、王にとっては必要な情報であるはずだ。

 そして、手紙の内容をもとにした調整に、時間が必要であることも容易に想像が出来る。

 

 そのため、空いた時間を使って王都観光を――と行きたいところだったが、残念ながらそういうわけにはいかなかった。

 何故なら、アマテラス号の噂を知った商人やら貴族やらが押しかけてくることが目に見えているためだ。

 王との交渉が終わるまでは、宿の中でじっとしていたほうが良い。

 高級宿だけあって、その辺の対策はばっちりしているので、そういう意味では安心して過ごすことができるのだ。

 ちなみに、ミンが簡単に入って来ることが出来たのは、最初からフィロメナがそうするように手配をしていたためである。

 

 

 宿の中に缶詰めになることは最初からわかっていたので、シゲルたちは適当な雑談をしながら過ごしていた。

 そんな状況に変化があったのは、ミンとの交渉が終わって一時間も経たないうちのことだった。

 周辺の探索に出していたはずのリグが、いきなり姿を見せてこう言ってきたのだ。

「シゲル。エアリアル様からの伝言で、船に手を出そうとした不埒者を捕まえたがどうする、だって」

 どうするのと首を傾げながら聞いて来たリグを見て、シゲルはため息をついてからフィロメナとミカエラを見た。

「早速湧いて来たみたいだけれど、どうする?」

「どうもこうもあるまい。適当に縛り付けて、門の傍に放り投げておいて貰えればいい」

「そうね。大精霊には手間をかけさせてしまうけれど、それしかないわね」

 未だ王との交渉は終わっていない。

 そのため、アマテラス号に手を出してきた者に対して、どういう対処をするかも決まっていないのだ。

 

 ただ、交渉の結果を無視して処理する方法もないわけではない。

「もしそれが面倒であれば、エアリアルが勝手に処分してもいいよ、とも付け加えておいて」

 要するに、大精霊が判断をして処分をする分には、国も口を出すことが出来ないのだ。

 そんなことをすれば、下手をすると国ごと消えてしまう可能性もある。

 さすがに、いきなりそこまで極端なことにはならないだろうが、大精霊と敵対するということがどういう事かは、この世界に生きる者は骨身にしみているのだ。

 

 シゲルたちの答えに分かったと答えたリグは、その場で姿を消した。

 エアリアルに話を伝えに行ったのと、シゲルから頼まれている探索の再開をしに行ったのだ。

 結局、その後は連絡が無かったので、直接エアリアルが手を下したという事はなかった。

 その不埒者たちの結末がどうなったのかは、シゲルたちは後程王から聞くことになるのであった。

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