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(8)精霊の好むもの

 フィロメナ、マリーナと共にアマテラス号に向かったシゲルは、その途中でリグの突進を受けた。

 一言でいえば、いきなり出現してシゲルの右腕を取って抱き着いて来たのだ。

 以前の小さかった時と違って、それをされると非常に幸せな感触が腕から伝わってくる。

 成長したリグとラグは、非常に発育が良い体つきをしているのだ。

 思わずそこに神経が集中してしまうのは、男としていた仕方のないことだろう。

 

 それを表に出してしまうと、今のところ仕方ないなあと笑ってくれているフィロメナとマリーナから責められることはわかっているので、シゲルは出来るだけ顔に出さないようにしながらそっとリグを引き離した。

「リグ、どうしたんだ?」

「むー。やっとお話が終わったみたいだから、報告しに来たのに」

 迷惑を顧みないほどに自由奔放な性格をしていると思われがちなリグだが、実際はそれとは違っている。

 正確に言えば、必要なところではシゲルに迷惑を掛けないように、きちんと行動をしているのだ。

 もっとも、ラグ辺りに止められているという可能性もわずかにあるのだが。

 

 その真偽はともかく、今回もシゲルがフィロメナたちと真面目な話し合いをしていたので、リグはそれが終わるまで出てくるのを控えていたのである。

「あー、そっか。それで? 『精霊の宿屋』はどうだった?」

「うん! とっても広がってたよ!」

 満面の笑みを浮かべながらそう言ったリグだったが、背後に現れたラグからポカリと頭を叩かれた。

「痛い!」

「シゲル様に報告をするなら、もっと正確に話なさい」

「むー」

 リグが頭を押さえながら睨み付けていたが、ラグはどこ吹く風でそれを受け流した。

 

 そしてラグは、視線をシゲルへと向けてから言った。

「広さは以前の四倍近く広がっています。新しくできたところはいつものように芝でした。広くなっている分、自由に翔けられる場所が増えて、風の者たちは嬉しそうでしたね」

「なるほど」

 ラグからの報告に、シゲルは納得顔で頷いた。

 『精霊の宿屋』の画面でそれは見てわかっていたが、最後の情報はそれだけでは分からなかった部分だ。

 まあ、リグの様子を見れば、何となく理解できることではあったが。

 

 シゲルは、歩みを進めながらラグを見て聞いた。

「それだけ広がったってことは、かなり自由なことが出来そうだけれど、何かしてほしいことはある?」

「そうですね。……やはり属性にあった物を増やしていただけると、その分訪れる仲間も増えると思います。勿論、私たちにとっても嬉しい事ですし」

 ラグがそう説明したことは、以前から言われていたことと変わらない。

 要するに、水の精霊の為には水場を増やして欲しいというのが、ラグの言いたいことだった。

 

 もとからシゲルもそのつもりでいたので、大きな変更はなく済みそうだった。

「ただなあ……これだとやっぱり火の精霊が増えないんだよな」

 分かり易くすれば、溶岩が剥き出しになっているような場所が増えれば、火の精霊も増えてくれるかもしれない。

 だが、木が多くある現状では、それをすると大火事になってしまいかねないのだ。

 

 家の傍にかがり火のような物を置いてはいるが、その効果は微々たるものでしかない。

 単純に、火の精霊が喜びそうなものと言われて思い浮かぶのは、火山くらいしかない。

 それを置くには、まだ十分な広さがあるわけではないので、どうしようもできないというのが現状だった。

 

 悩むシゲルに、少し前を歩いていたフィロメナが話しかけて来た。

「火の精霊が喜ぶ物か。どうせアマテラス号の紹介をするついでに各国を回るんだから、大精霊がいそうな場所にでも行ってみるか?」

「いや、それはあり難いけれど、それって大精霊に会ったら必ず何かもらえることが前提になっていない?」

 シゲルがそうフィロメナに聞くと、なぜかマリーナが少し呆れた顔になって言ってきた。

「何を言っているのよ。結局、風の大精霊からも役に立つ物をもらえたのでしょう?」

 マリーナからの突っ込みに、シゲルはそっぽを向いた。

 

 以前、タケルの作業部屋でエアリアルから貰えた目に見えない物は、『風の源』というものだった。

 『精霊の宿屋』に登録されているのを見て、初めてそれが分かったのだが、実際に設置して見てもシゲルの目には見えないのは変わらなかった。

 ただし、リグが非常に喜んでいるのを見れば、風の精霊にとって非常にあると嬉しいものであることは間違いない。

 これまで立て続けに三人の大精霊からそういったものを貰っている以上、他の大精霊からも貰えると考えるのは自然なことだろう。

 

 もっとも、シゲルにも言い分はある。

「いや、それはそうなんだけれど、別に火の大精霊も同じだとは限らないんじゃ……?」

「それはないな」

「あり得ないわね」

 シゲルが恐る恐る言った言葉に対して、フィロメナとマリーナがきっぱりとそう断言して来た。

 ミカエラもそうだが、何を根拠にしているかは分からないが、彼女たちの中ではシゲルが大精霊に気に入られるというのは、すでに決まっていることなのだ。

 

 釈然としない思いを抱きつつ、二人が相手では勝てないことが分かっているので、シゲルは不満そうな表情を浮かべて別のことをいうことにした。

「何か納得いかないんだけれど……まあそれはともかく、火の大精霊が居そうな場所ってわかっているんだ」

「それはな。昔から有名なところがある」

「そうね。でも普通に行くには厳しすぎて、候補から外れていたのよ」

 フィロメナとマリーナの返しを聞いて、シゲルはなるほどと頷いた。

 二人は、歩きや馬車で行くのが厳しい場所でも、アマテラス号を使えば楽に行けると言いたいのだ。

 

 実際その場所は、何度も山を越えていかなければならないところであり、あまり旅人が行くような観光地でもないため、道が整備されているわけではない。

 一応、いくつかの村はあるが、旅人が泊まれる場所もあまり多くはないので、避けていたのである。

 ちなみに、シゲルは話題にも上がっていなかったので、そんな場所があるとは知りもしていなかった。

 

 フィロメナとマリーナからそれらの話を聞いて、シゲルは空を見ながら言った。

「確かに空を行けば楽かもしれないけれど、行けない場所だってあるからね? 停める場所だって捜さなければいけないし」

「それはそうだろう。だが、曲がりくねった道を真っ直ぐに行けるというだけでも、意味があるからな」

 火の大精霊がいるとされているところは、険しい山にあるだけあって、山道を進まなければならない。

 当然のようにそんな道が真っすぐ続いているはずもなく、曲がりくねった道を歩かなければならないのだ。

 ただ、シゲルの言う通りに、山中にアマテラス号が泊められる場所があるかもきちんと考慮しなければならない。

 それは現地に行ってみないと分からないので、必ず楽に行けるとは限らないのだ。

 

 

 そんなことを話しているうちに、仮でアマテラス号を置いていた場所に到着していた。

 今まで置いていた場所は、フィロメナの家よりも更に森の奥にあるので、人が来たような気配はなかった。

 もし何かあったとしたらエアリアルから報告があったはずなので、何もないことは分かっていたが。

 

 とにかく、アマテラス号に乗り込んだシゲルたちは、そのままフィロメナたちが作った場所へと向かった。

 歩いてこれる場所に置いてあったので、アマテラス号では数分もかからない。

 むしろ距離が無いためにあまり速度が出せないくらいだった。

 それはともかく、フィロメナたちが数日かけて作った場所に、アマテラス号はピタリと収まったのである。

 

 ちなみに、アマテラス号が泊まっているときは、地面から数十センチほど浮いている。

 それを外から見たシゲルは、首をひねっていた。

「どうしたのだ?」

「いや、やっぱり何度見ても不思議だなあって思ってね」

「そうか?」

 船が浮いたまま地面の上に泊まっている光景は、シゲルにとっては違和感がある。

 だが、そんなシゲルにフィロメナは首を傾げてみせた。

 

 魔法があるこの世界では、人が空を浮くこともできるのだ。

 それがあるため、慣れてしまえば船が浮いているのもあまり不思議には見えないようだった。

 勿論、それを成すための技術には驚いているが、船が浮いていること自体は、あまり驚きはないのだ。

 それはフィロメナだけではなく、ミカエラやマリーナも同じだ。

 ファンタジー世界ならでは(?)の感覚に、シゲルは苦笑をすることしかできないのであった。

「慣れてしまえば」これ、重要です。

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