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(6)新しい契約精霊

 ギルドカードのシステムについての話をした翌日の朝。

 約束通りに、ラグが五体の精霊を伴って、シゲルの前に姿を見せた。

「――『精霊の宿屋』の世界を作っている方なら、ぜひともお仕えしたいという者たちを連れてきました。この中から一体を選んで頂ければと思います」

 シゲルは、ラグの「お仕えしたい」という仰々しい言葉に一瞬気を取られたが、それ以上に後半の台詞が気になって聞き返した。

「一体? それ以上は駄目なんだ」

 別にたくさんの精霊と契約したいと思っているわけではないが、なぜ一体だけと限定したのかが引っかかったのだ。

 

 何かシステム的な問題でもあるのかとも考えていたシゲルに、ラグが首を左右に振って答えた。

「いいえ。特に理由はありませんが……一度に数体増やしても大丈夫なのでしょうか?」

「うっ……」

 本当ならいくらでも増やせると言いたいところだが、今回のタイミングは確かに遠慮したかった。

 理由としては、初めてのシステム外での契約になるので、どういう感じかまったく分からないということがある。

 勿論、それ以外にも細かい理由はあるが、今はそれが一番大きい。

 

 少しだけ視線をウロウロとさせていたシゲルだったが、やがて少しだけ肩を落として言った。

「確かに、今は一体でやめておいたほうが良いかな……」

 そんなシゲルに、ラグは特に表情を変えることなく頷いた。

「そうですか。それに、いま契約できなかったからといって、また後から考えればいいのですから、そこまで落ち込む必要はないかと」

「え?」

 てっきり今回選ばれなかった精霊はそれっきりだと考えていたシゲルは、不思議そうな顔になって首を傾げた。

「この者たちは、『精霊の宿屋』が気に入って何度も来ております。ですので、機会があるのであれば、もう一度声を掛ければいいだけです。勿論、その時に契約を望むかはわかりませんが」

「ああ、なるほど」

 ラグの説明に、シゲルは納得顔で頷いた。

 

 ここでようやく納得したシゲルは、改めてラグが連れて来た五体の精霊を見た。

 ラグの説明によると、五体の内二体が木で、残りの三体がそれぞれ風、水、土に属する精霊ということだった。

「火はいないんだ」

 もし火がいれば今まで契約していないので、迷わずそちらにしたのだが、いないのであれば仕方がない。

 今のところ火属性がいなくて困ったことはないので、シゲルは特にそれにこだわることなく精霊たちを見始めた。

 

 気楽なつもりで言ったシゲルだったが、ラグはそう取らなかったようで、少し顔を曇らせながら頭を下げて来た。

「申し訳ありません。今の環境だとどうしても火の仲間は集まりづらいようでして……。来ていないわけではないのですが」

 どうやら火の精霊は、まったく来ていないわけではないが、ラグたちのお眼鏡にかなわなかったようだった。

 そう言いながら申し訳なさそうな顔になっているラグに、シゲルは慌てて手を振った。

「いやいや。別に不満があるわけじゃないから。それに、火が集まりにくくなっているのは、自分が作っている環境のせいだからね」

 シゲルもそのことは十分に理解している。

 ただ、火属性の精霊が集まり易い環境にするといっても、どういうものを設置すればいいのかが、いまのところよくわかっていないのだ。

 そのため、今回火属性の精霊が来なかったのは、『精霊の宿屋』の調整を行っているシゲル自身のせいだろう。

 ラグから謝られるようなことではないのである。

 

 安堵の表情を浮かべるラグを見て、悪いことを言ったかなと内心で反省しつつ、シゲルは精霊たちを見ていた。

 木の精霊が二体いるのも、先ほどのラグの言葉からも理由を察することが出来る。

 確かに今の環境は、木が中心になっているところがあるので、そちらに偏ってしまっているのだろう。

 今後の環境整備の参考にしようと頭の片隅に入れつつ、シゲルは誰を選ぶか真剣に悩み始めた。

 

 まず、既にラグとサクラの二体いる木の精霊は除外する。

 そうすると残るのは風、水、土になるが、正直どれを選べばいいのか、シゲルには判断がつかなかった。

 『精霊の宿屋』で働いてもらう場合は、どの属性を選んでも役に立ってくれることは分かっている。

 それは、既にいる精霊たちの活躍でわかっていることだ。

 

 となれば、『精霊の宿屋』の外でどれくらい活躍してくれるかが問題なのだが、そこまで考えたシゲルはふとあることを思い出してラグを見た。

「そういえば、この子たちは、外での活動は出来るのかな?」

 シゲルが思い出したのは、サクラのことだった。

 もしサクラのように『精霊の宿屋』内に固定されてしまうと、活躍の場が減ってしまう。

 それは出来れば避けたいことであった。

「それは問題ありません。むしろ、サクラが特殊なだけですから」

 そのラグの答えに、シゲルはなるほどと頷いた。

 

 サクラのように固定されていないのであれば、いよいよ選ぶ基準が無くなって来る。

 正直、誰を選んでもいいかと思い始めたシゲルの脳裏に、ふと戦闘が終わってミカエラから言われたことを思い出した。

 それは「シゲル自身は攻撃力がほとんどないんだから、守りを固めたほうがいいわよ」というものだった。

 そこからさらに、地属性は守りが固いということを続けて言っていた。

 

 その話を思い浮かべたシゲルは、地属性の精霊を見て決断した。

「よし。それじゃあ、今回はそっちの子にするよ」

 シゲルはそう言うと、指定された精霊はその顔に喜びの表情を浮かべて、残りの精霊は残念そうな顔になっていた。

 そんな光景を見てしまうと、全員を選びたくなってくるシゲルだったが、ここはグッと我慢した。

「選ばれなかった子たちは、別に君たちが悪いというわけじゃないから。多分これで終わりってことはないと思うから、出来れば次の機会に来てほしいかな」

 シゲルがそう言うと、四体の精霊は慌ててコクコクと頷き始めた。

 

 それをニコニコと見ていたラグは、シゲルを見ながら言ってきた。

「それでは、この子にも名前を付けてあげてください。この子がその名前を了承すれば、契約は終わりになります」

「え? 名前を付けるだけ?」

「そうですよ。もう既に、この子は契約すること自体は許可していますので、それ以外のことは必要ありません」

 そう言ってきたラグに、シゲルはそんなものかと納得した。

 契約をするとなると大仰なように感じるのだが、契約自体は簡単に終わってしまうのである。

 もっともシゲルがあっさり感じているのは、一番面倒な精霊を見つけるということが短縮されているからで、本来はそこが一番時間を掛ける部分なのだ。

 もしそんな感想をミカエラ辺りに言えば、シゲルは白い目で見られることになるだろう。

 

 幸いにして、今この場にはミカエラはいないので、シゲルが非難(?)されたりせずに済んでいた。

 そんなシゲルに、ラグが土の精霊を両手の上に乗せながら差し出してきた。

 その視線は早く名前を付けてあげてと言っている。

「それじゃあ、その子の名前はノーラで」

 今回はすぐに名前を言う事ができた。

 ただし、時間を掛けなかったわけではなく、昨日のうちから新しい精霊が来ることがわかっていたので、いくつかの名前を考えていたのだ。

 その中から、地の属性に合いそうな名前を選んだだけだった。

 

 シゲルが名前を言うと、ラグの手の上に乗っていた精霊は、嬉しそうにパッと顔を輝かせてコクコクと頷いた。

「どうやらこの子もノーラという名が気に入ったようですね。――これで契約は終わりになります」

 ラグはそう言いながら、ノーラ以外の精霊たちに視線を向けた。

 するとその精霊たちは、名残惜しそうな顔をしながらもその場から姿を消してしまった。

 どうやら、それぞれにまた好きなところへと帰ってしまったようだった。

 

 それを申し訳なさそうな気分になりながら見送ったシゲルは、ノーラの姿を見て首を傾げた。

「それにしても、また女性みたいだけれど、なにか意味があるのかな?」

 大きさは、成長する前のラグたちのように手のひらに乗れるくらいだが、やはりその姿は女性だった。

 ミカエラから聞く限りは、人の姿をしている精霊には男性もいるということなので、なぜまた女性なのかが気になったのだ。

「何故と言われましても――そのほうがシゲル様がいいのではありませんか?」

 それが当然だろうという顔をして言ってきたラグに、シゲルは一瞬だけキョトンとした顔になってから、そのまま黙り込んでしまった。

 別にそんなことはないと言いたいところだったが、そう言い切れないのも事実だったのである。

女性型ばかり集まっているのは、完全にシゲルのせいですw

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