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(1)帰還と今後

 アマテラス号で外に出ることを決めたシゲルたちだが、すぐに動き出したわけではない。

 空飛ぶ船の存在が世界に与える影響のことを考えれば、まずは最初にどこへ向かうかを考えなければならない。

 そして、話し合った結果、やはり最初に向かうのは、ホルスタット王国が良いだろうという結論に至った。

 なんだかんだいいながらも、フィロメナを触らずに受け入れていた国であり、木の大精霊であるメリヤージュがいるので、そうそう大きな騒ぎにならないだろうという見通しもある。

 何よりも、フィロメナの家があるので、落ち着いて生活するにはそこが一番だろうという結果になっていた。

 

 アマテラス号を使って移動すれば、大陸の端から端まで十日もかからずに行くことが出来る。

 これは、この世界の移動手段としてはあり得ない速度で、革命といえる乗り物なのだ。

 ただし、現存しているのが今のところアマテラス号しかないので、シゲルたちしか恩恵を受けることが出来ない。

 これは、エアリアルという存在がいる以上、確定事項だ。

 いくら周囲が騒いだとしても、シゲルが乗れなくなった時点で、どんな方法を取ったとしてもエアリアルに回収されてしまうだろう。

 であれば、アマテラス号を世間に知られるようにして、同じような乗り物を開発するように仕向けるのが一番なのである。

 もっとも、実用化できたとしても、それには長い年月がかかるというのが、皆の一致した意見だった。

 

 そんなわけで、シゲルたちは数日を掛けてフィロメナの家に戻った。

 行きは半年以上を掛けて移動したことを考えれば、とんでもない速さだということがわかる。

 ちなみに、行きの時に使っていた馬車は、しっかりと回収している。

 ついでに、アマテラス号には隠匿性能もしっかりと備わっていたので、移動の最中に誰かに見られたという事はないはずだ。

 

 アマテラス号を使うにあたって一番の心配事は、やはり燃料に関することだったが、これはあっさりと解決していた。

 空を飛ばすのがタケルの望みだったからということで、エアリアルが提供してくれることになったのだ。

 ただし、流石に無償でというのは、シゲルたち全員が難色を示していた。

 それでも、大精霊に返せるものは何もないと頭を悩ませていたところで、シゲルがふと精霊石のことを思い出した。

 それであれば、大精霊であるエアリアルにとっても十分に価値があるということで、燃料代は精霊石で払うということになっていた。

 いずれは自分たちで燃料を作れるようにするのが、当面の目標として加わっている。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「やー、着いた着いた」

 フィロメナの家に着いたシゲルは、家に入るなり両手を広げながらそう言った。

 実際には数カ月程度しかいなかった家だが、すでに自分の家だという認識ができている。

「まさか本当に、数日で着くとはな。速さはわかっていたが、こうして家に戻って来ると、尚更実感できるな」

「本当にね」

 フィロメナの言葉に同意するように、ミカエラが頷いていた。

 

 ちなみに、フィロメナの家の周りは、アマテラス号が泊められるほどの広さの場所が無いので、近くにある適当な広場に泊めてある。

 勿論、事前にシゲルがラグにお願いをして、メリヤージュの許可は取ってある。

 そもそもそうしなければ、魔の森に空からの侵入ができなかったのだ。

 その辺りは、流石大精霊の結界といったところだろう。

 

 リビングにある椅子に腰を落ち着かせたシゲルたちは、今後の予定について話し始めた。

「フィーは、家のすぐ傍に船が泊められるように、開墾作業をするのでしょう?」

「うむ。いまのままだと少し不便だからな」

 マリーナの問いかけに、フィロメナが頷いた。

 開墾作業といっても魔法を使って行うので、何日もかかる作業ではない。

 ミカエラも手伝うと言っていたので、二、三日もあれば終わるだろうと予定している。

 

 フィロメナが頷くのを確認したマリーナは、シゲルを見て聞いた。

「シゲルはやっぱり日記の確認?」

「そうだね。色々と知りたかったことがたくさんあるし」

 アビーと同じようにタケルも日記をつけていた。

 それは、航海日誌のように船長室にしっかりと保管されていたのだ。

 その中には、タケルが調べていたという渡り人に関することも書かれていたので、シゲルにとっては重要な情報になる。

 そのためシゲルは、大量にある日記やまとめた資料を読むのに、かなりの日数がかかると考えていた。

 

 改めてシゲルたちの意思を確認したマリーナは、ここで考え込むような顔になった。

「となると、いつ王都に戻るかが問題ね。私も一応、報告を入れないといけないから」

 マリーナは、古代遺跡の調査ということで、教会からの許可を取って旅に出ている。

 そのため、王都に戻ったときには顔を出さなくてはならないのだ。

 どちらにせよ、シゲルたちもアマテラス号のお披露目(?)の為に、一度は王都に顔を出すつもりなので、その時に一緒に戻る予定だった。

 

 悩むマリーナに、フィロメナが提案するように言った。

「それだったら、これまでの遺跡調査の結果をまとめてからにしないか?」

 フィロメナたちは、家に戻って来るまでの移動時間で、これまでの研究結果をまとめる作業をしていた。

 アマテラス号は、馬車以上に揺れが少なく、作業をするのにはもってこいの環境だった。

 そのお陰で、あと数日かければ第一弾として公表できる程度には、資料もまとめてある。

 アマテラス号とその報告書の同時公開で、超古代文明の存在を明らかにするということが、フィロメナたちのとりあえずの目標なのだ。

 

 フィロメナの考えを理解したうえで、マリーナは少しだけ考える様子を見せてから頷いた。

「そうね。それが一番でしょうね」

 古代遺跡に関する研究成果が出せれば、旅に出ていたことの教会への成果とすることが出来る。

 そして何よりも、アマテラス号の存在が公表されれば、シゲルの傍にいるための言い訳になる。

 教会としては、大精霊に好まれている存在というだけで、その確保に躍起になるだろう。

 それを考えれば、マリーナが傍にいることで、それらの存在を抑え込むことが出来るようになるのだ。

 マリーナは、表向きそうした立場を利用しながら、シゲルの傍に居るつもりだった。

 

 勿論、フィロメナはそのことに対して何も言うつもりはない。

 というよりも、既にシゲルを交えてそうするつもりだと話をしていた。

 シゲルとしても、マリーナがフツ教内での防波堤になってくれるのであればそれに越したことはないし、何よりも既にマリーナとずっと一緒にいたいと考えているので、反対する理由はなかった。

 フィロメナに至っては、とっくにマリーナがシゲルと一緒にいることは了承しているので、こうなることは予想済みであった。

 自分のことに関しては非常に鈍いフィロメナだが、こういうときは鋭さを発揮するのである。

 

 

 ミカエラは、三人の話し合いを、少し距離を置いて聞いていた。

 ミカエラ自身は、特にエルフの里に報告をするようなこともない。

 それに、シゲルと精霊の関係が、ミカエラにとっては一番興味が刺激されていることなのだ。

 そのため、今のところシゲルから離れることは考えていない。

 フィロメナやマリーナと違って、シゲルに対する恋愛感情があるわけではないが、それでも興味を引く対象であることには間違いがない。

 ミカエラとしては、フィロメナやマリーナが許してくれる限りは、今後もシゲルと一緒に行動するつもりになっている。

 

 そんなことを考えていたミカエラは、ふとシゲルの傍に立っていたラグを見てから、三人に向き直った。

「遺跡やアマテラス号のことはそれでいいとして、ラグたちのことはどうするのよ?」

 シゲルが精霊を従えていることは、建前上は公表していない。

 旅の間に、他人に戦闘しているところをまったく見られていないわけではないので、四人のパーティに精霊がいることは知られている可能性がある。

 ただし、それはシゲルが契約している精霊ではなく、ミカエラが使役している精霊だと思わせるようにしていた。

 それでも中には、気付いている者もいるかもしれない。

 そういう意味では、そろそろシゲルと精霊の関係を隠しておくのも限界が来ていると言える。

 それに、ラグたちの存在を公にすれば、今後は今までのように姿を隠してく必要もなくなる。

 契約精霊の公表は、おかしな輩を引きつけるというデメリットもあるが、三体の精霊が上級精霊になった今となっては、メリットも大きいのである。

 

 ミカエラの問いに、ようやくそのことを思い出したという顔になったフィロメナは、少しだけ考えてから答えた。

「私としては同時に公表するのが良いと思うが……あとはシゲル次第だな」

「そうね。私もそう思うわ」

 フィロメナに続いてマリーナが同意したので、あとはシゲルの答え次第ということになった。

 

 そして、しばらく考えていたシゲルは、一度頷いてから応えた。

「だったら、どうせアマテラス号の調査と言っていろいろと調べられるだろうから、そのときについでに公表してしまおうか」

 アマテラス号を表に出せば、必ず各機関が調査させろと言ってくるに決まっている。

 その時には、エアリアルの名前を出して断るつもりでいるのだが、その際についでに契約精霊のことも公表しようというのがシゲルの考えだった。

「確かに、タイミングとしてはそれが一番だな」

 シゲルの言葉にフィロメナが同意したことで、今後の予定がはっきりと決まるのであった。

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