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(13)大事な用事とついに完成

 数日後、既に成長した精霊たちが傍にいることに慣れたシゲルたちは、目的地である風の都がある山のふもとの町に着いていた。

 本来であれば、すぐにでも風の都を目指して出発するはずだったのだが、今はその予定を変更して宿に滞在したままだった。

 その理由は、移動の最中地道に進めていた写本作業が、終わる直前まできていたからである。

 どうせだったら最後まで終わらせて、水の大精霊に原本(日記)を返してから調査を進めようという話になったのだ。

 宿に引きこもって写本作業を進めた結果、なんとか五日ほどの時間をかけて、無事に作業を終えることが出来たのである。

 

 そして今、シゲルたちは町の外にある人気の少ない水場へと来ていた。

 この世界では、人気の少ない水場は、基本的に魔物が多く出現する場所とも同義なのだが、ディーネの話では長い時間がかかるわけではなさそうなので、大丈夫だろうという事になった。

 ついでに、ここまでの移動で確認できていたのだが、上級精霊にまで成長したラグ、リグ、シロの初期精霊三体がいれば、大抵の魔物を寄せ付けないとわかったいた。

 これにはシゲルも驚いていたのだが、逆にミカエラは当然だという顔をしていた。

 人と話が出来る精霊が、かなりの力を持っているというのは、精霊を扱う者たちの間では常識なのだ。

 むしろ、だからこそミカエラは、ラグたちを見た時に、あれほどまでに驚いていたのだ。

 

 その精霊たちに加えて、フィロメナたちが居るのだから、シゲルも安心して水場でディーネに連絡を取った。

『久しぶりね、シゲル』

 ディーネから渡された道具を使うと、すぐにその声が聞こえて来た。

「お久しぶりです、ディーネ。ようやく作業が終わったので、日記を返すことが出来るようになりました」

『そう。それは良かったわ。でも、少し無理をしたのじゃない?』

 旅をしながら写本をするというのは、普通に落ち着きながら作業をするよりも手間がかかる。

 それをきちんと理解しているディーネは、シゲルを気遣ってそう言ってきた。

 

 そんな人を気遣ってくる大精霊ディーネに、シゲルは少しだけ笑みを浮かべて答えた。

「大丈夫です。そこまで心配されるほどの無茶をしたわけではありませんから」

『そう? それならいいのだけれど』

「はい。それよりも、これからどうすれば?」

『あら、そうね。今、そちらに使いを送るから少し待ってちょうだい』

 ディーネがそう答えるのと、水場から水の精霊が現れるのはほぼ同時だった。

 それにすぐ気付いたシゲルは、少しも待っていないじゃないかと、内心で突っ込みを入れていた。

 勿論、わざわざそれを口に出して言うようなことはしなかったが。

 

 ディーネが送って来た水の精霊は、成長したラグたちと同じように、成人くらいの大きさがあった。

 その水の精霊は、シゲルに視線を向けるとにこりと笑った。

「貴方がシゲル様ですね。主様から話は聞いております。日記を出していただけますか?」

 どう見ても上級精霊以上の力を持っていそうな精霊のその丁寧な対応に、シゲルは一瞬戸惑ってしまった。

 

 そんなシゲルの気持ちを見抜いたのか、水の精霊は笑みを浮かべたままさらに続けて言った。

「主様との親交が深い上に、既に三体の上級精霊を従えているのです。私が敬意を払っても不思議ではありませんよ」

「はあ、そうなんですか」

 シゲルとしては、自分が特別ななにかをやったという意識が低いため、そう答えることしかできなかった。

 むしろ、契約精霊たちはともかく、未だに何故大精霊が自分のことを気にしてくるのか、その理由はまだ完全にわかっていないのだ。

 もっとも、そんなことを気にしても仕方ないかと、敢えて放置している部分もあるのだが。

 

 シゲルは首を傾げつつ、持っていた日記を水の精霊に向かって差し出した。

「ありがとうございます。それでは、確かに、お預かりいたしました」

 シゲルから日記を受け取った水の精霊は、大事そうに抱えながら頭を下げた。

 そして、次の瞬間には、シゲルたちの目の前から姿が消えていた。

 勿論、持っていた日記も同時に消えている。

 その不可思議な現象を見ても、多少驚くだけで済んでいたシゲルは、随分とこの世界に慣れたんだなあと、少しずれたことを考えていた。

 

 そんなシゲルに、ミカエラが少し呆れた様子で話しかけて来た。

「まったく。シゲルと一緒にいると、本当に退屈しないわね」

「えっ? そこまでのことだった?」

 シゲルが少し驚いてそう応えると、ミカエラは呆れたようにため息をついた。

「何を言っているのよ。今の精霊は、上級精霊よりもさらに上の精霊よ? 大精霊ほどではないにしろ、普通はそんな簡単に会える存在ではないのよ?」

「あー、やっぱり。何となくそんな気がしたよ」

 したり顔でそう言いながら頷いていたシゲルだったが、当然ながらミカエラからは白い眼を向けられることとなった。

 

 そんなシゲルとミカエラに、フィロメナが笑いながら言った。

「では、肝心の用事も終わったようだから、そろそろ町に戻ろうか」

 フィロメナのその言葉に全員が同意して、水の大精霊に日記を渡すという目的は終わりとなるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 日記を渡し終えて町に戻ったシゲルたちは、中途半端に余った時間を自由に過ごすことになった。

 もう昼食も終えて、数時間後には夕食になるという時間だったので、簡単な依頼を受ける時間もなかったのだ。

 そして、宿の前でフィロメナたちと分かれたシゲルは、あることを確認するために、少しだけ浮足立った気分で町を出て外壁の近くにいた。

 そのあることというのが何かといえば、

「さてさて、上手くいっているといいけれど……」

 そう言いながらシゲルがアイテムボックスから取り出したのは、以前からどうにか形にしようと頑張って仕込んでいた味噌が入った容器だった。

 

 容器のふたを開けた瞬間、ツンとあの何ともいえない懐かしい香りが漂ってきたのが分かったシゲルは、思わずニヤリとしてしまった。

「うひょひょひょ。これはもしかしなくてももしかするかな?」

 シゲルのことを知らない他人が見れば、いささか引いてしまうような笑い声をあげてしまったが、そんなことは気にすることなくシゲルは容器の中にある味噌を少しだけ手に取った。

「――うん。香りも色も、今のところは異常はないように見える、かな? あとは味だけれど……こればっかりは試してみるしかないからなあ」

 そう呟いたシゲルは、一分ほど悩んでから、決断するように手の上に乗せていた味噌を口に入れた。

 

 味噌を食べた瞬間、懐かしい味と香りが口の中に広がり、シゲルは感動で打ち震えていた。

 たかが味噌でそこまでかと、思わずセルフ突っ込みをしてしまいそうになったが、それよりも久しぶりの味に対する感動のほうが勝っていた。

「流石に一流の職人が作ったようなものとはいかないけれど……うん。どう考えても及第点だな、これは」

 そんなことを言いつつも、シゲルとしては大満足だった。

 

 

 これでまたフィロメナたちを驚かせることが出来ると、ウキウキ気分で町に帰ろうと振り返ったシゲルは、その場でピタリと固まってしまった。

「ふむ。ようやく気付いたようだな」

「いくらラグやリグがいるからって、少し油断しすぎじゃない?」

「町の外では、あまり油断しては駄目よ?」

 口々にそう言ってきたのは、フィロメナたちだった。

 

「な、なんでここに!?」

 シゲルは、フィロメナたちが連れ立って町にある店に向かうのを確認してから、移動をしていた。

 そのため、まさかフィロメナたちにつけられているとは、考えてもいなかったのである。

「いや、何故と言われてもな」

「三人で歩いていたら、シゲルが見たことも無いような顔で浮かれていたから、気になって着いてくるのは当然でしょう?」

 ミカエラがそう言うと、マリーナもコクリと頷いた。

 

 しっかりと恥ずかしい場面を見られていたと理解したシゲルは、ペチリと音を立てて額に手を当てた。

「なんてこったい……」

「何、気にすることはない。私たちは、慣れているからな」

 フィロメナが、そうフォローになっていないフォローをすると、シゲルはガクリとその場に膝をついた。

 それを見て、ミカエラとマリーナは声を出して笑っていた。

 

 フィロメナは、シゲルのところまで近づいてきて、慰めるように肩をポンポンと叩いた。

「それはともかく、どうやら食べ物のようだが、私たちに隠してまで食べるほどのものだと、やはり気になるのだが?」

 目をらんらんと輝かせてそう聞いて来たフィロメナに、立ちあがったシゲルは苦笑しながら答えた。

「別に隠そうと思ってこんな場所に来たわけじゃないんだけれど……まあ、いいや。とりあえず、宿に戻ってちゃんとしたものを作るから、それまで待って」

「む? シゲルはそのまま口にしていたではないか」

「いや、そうなんだけれどね。慣れてない人が、これをそのまま口にするのはちょっと……。それに、きちんと料理で使えるかも確認したいしね」

「そういう事なら従うが……隠すのはなしだぞ?」

 そう念を押してきたフィロメナに、シゲルはもう一度苦笑を返すことしかできないのであった。

このあとシゲルは、味噌汁をふるまったとさ。

その結果は次話でw

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