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(18)(シゲルにとっての?)大発見

 シゲルたちは、水の町に入った翌日から本格的な調査を始めていた。

 調査二日目の午前中は、フィロメナからの提案ということもあって、シゲルは一緒に町を回っていた。

 フィロメナ曰く、異世界から来たシゲルと一緒に回っていると、新しい発見ができそうだということだった。

 シゲルとしても、一緒に回ることは別に構わないので、断ることはしなかった。

 そして今、シゲルとフィロメナは、一緒に調査をしているというわけだ。

 

 調査二日目のこの日は、細かいところを見るのではなく、全体を見ようという二人で話をしていた。

 そのため、気になる建物があっても長居をすることはせずに、町全体を把握することに務めていた。

 町の中を回るときに使っているのは、勿論前回の遺跡調査で持ってきた乗り物である。

 それのお陰で移動がスムーズになっていたが、それだけ町のすべてを半日だけで見回ることなど出来るはずもない。

 それでもかなり全体の把握をすることができた。

 今回の調査で、町に入って来るための入り口は、前回とは違って一つしかないという結論に至った。

 

 そして、それぞれの情報をまとめるための昼食を終えた午後。

 シゲルとフィロメナは、午前中に見つけて気に入っていた建物のひとつに向かっていた。

 その途中でフィロメナが突然こんなことを言い出した。

「それにしても、水の大精霊が何かを隠しているのではないかという予想は当たっていたな」

「ああ、そういえば、そんなことも言っていたっけ」

 水の大精霊の話を集めていたときに、誰かがそんな予想をしていた。

 そのことを思い出したシゲルは、同意するように頷いた。

 

 これほどの町が湖底に隠されているのであれば、マニュスディーネが念入りに情報統制をする理由はよくわかる。

 メリヤージュと違って、積極的に表に出てきているのは、性格の違いのためだということもわかっていた。

 シゲルやフィロメナが考えるに、その情報操作は今のところ上手くいっているように思える。

 少なくとも、ノーランド王国の王家は、積極的にこの町の秘密を暴こうとはしないだろう。

 それほどまでに、ノーランド王国は水の大精霊と深く結びついているのだ。

 

 フィロメナは、一度ぐるりと町を見回しながら言った。

「こんなものが湖底にあると知られれば、間違いなく世界は大混乱だ。そういう意味でも隠しておくのは大正解だな」

「まあ、そうだろうねえ。むしろ、なぜこれほどまで発達した文明が、なくなったのかが不思議だけれどね」

「それは確かにそうだな」

 シゲルたちが知る限りでは、少なくとも古代文明と呼ばれるものは、二度滅んでいる。

 その理由は、今もってわかっていないのだ。

 

 ちなみに、世間一般には古代文明が二度興っていたということは知られていないが、二度目の文明については知られている。

 それは、今シゲルたちがいる町のように大精霊が隠していたりするわけではなく、本当の意味で遺跡として残っているからである。

 その古代文明にしても、未だに滅んだ原因はわかっていない。

 一説には、大規模な戦争によってなくなったのではとも言われているが、それだけだと今よりも確実に高度に発達していた技術力などもすべて失われた理由の説明がつかない。

 他にもいろいろな説が提唱されては否定されるということが繰り返されていて、これだという確定的な証拠は挙がっていないのが現状である。

 

 シゲルたちは、それよりもさらに前の超(?)古代文明があることも既にわかっているが、こちらも崩壊した理由はよくわからない。

 ついでに、なぜ大精霊たちがその文明の名残を莫大な力を使って保存しようとしているのかもだ。

「文明が滅んだ理由か……。坊主たちに言わせれば、神の怒りに触れたという事らしいがな」

「ここまできれいさっぱりに人がいなくなっていることを考えると、それも考慮したほうが良いかもね」

 シゲルのその答えに、フィロメナはおやという顔になった。

 フィロメナとしてはあくまでも一部の聖職者を揶揄するつもりで言ったのだが、シゲルが真面目な顔になっていたので驚いたのだ。

 

 フィロメナのその驚きを察したシゲルは、さらに続けて言った。

「これほどの町を作れる文明の人たちが、まったく痕跡もなく姿を消しているというのが引っかからない? 普通の遺跡には、それこそ遺体とかが残っていてもおかしくはないと思うよ?」

「まあ、それはそうだが……大精霊が片付けたということは考えられないか?」

「確かにそれはあるだろうけれど……だとしたら遺骨とかはどこに?」

 一通り町を見回ったが、墓地のような場所は見当たらなかった。

 あるいは、日本の納骨堂のような場所に、一か所にまとめられている可能性もなくはないので、絶対にないとは言えないのだが。

 

 ただし、シゲルとしては、大精霊が亡くなった人々を片付けたという可能性はないと考えていた。

「これほど綺麗に町を保存しているメリヤージュやディーネが、そんなことをするのかと少し違和感があるんだよねえ」

「そうか? むしろ町を綺麗にするために、似つかわしくない遺骨はあるべき場所に置いておくものではないか?」

「まあ、そう言われるとそうなんだけれどねえ……」

 シゲルには、自分が感じている違和感の正体をはっきりと口で説明することが出来ない。

 そのため、こんな曖昧な返事しかすることが出来なかった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 答えの出そうにない会話をしながらも、シゲルとフィロメナは目的地である建物へと着いた。

 その建物は、周囲にある建築物とは違って、二階建ての豪華な造りになっている。

 最初にその建物を見たシゲルの印象は、Aな国家の「白い家」だった。

 周りにある広めの庭も、その印象をさらに強くする理由の一つになっている。

 誰がどう見ても重要人物の屋敷のひとつと考えられるその建物を、シゲルとフィロメナが気にならないはずがない。

 というわけで、午後からはこの屋敷(?)の調査をすることにしたのである。

 

 幸いにして、屋敷に鍵がかかっているということはなかった。

 そのことをあり難く思いつつ、シゲルとフィロメナは調査を開始した。

 そして、各部屋を見て回ったシゲルの感想は、どう見ても西洋風の建物を意識して造られているということだった。

 外観からしてそう印象付けられてしまっているということもあるのだろうが、天井からぶら下がっているシャンデリアなど見てしまえば、どうしてもそうイメージしてしまうのは仕方ないだろう。

 

 そして、シゲルにとっての大発見があったのは、書斎らしき部屋で見つけたとある書物だった。

「――――な、なんでこんな物がここに!?」

 屋敷の中の何を見ても驚かなくなっていたシゲルが、それを見つけて思わずそう声を上げていた。

 流石にそれほどの声を出せば、真剣に本を物色していたフィロメナも気付かないはずがなかった。

「なんだ? なにか重要な物を見つけたのか?」

 そう聞いてきながら、シゲルが注視している書物を横から覗き込んだ。

 

 シゲルが見つけた書物は二つあった。

 それは、正確には書物というよりは、手書きの日記だった。

 それだけならシゲルもここまで驚くことはなかった。

 現にフィロメナは、驚くシゲルを見て首を傾げている。

 

 シゲルがその日記を見て驚いたのは、それが『英語』と『日本語』で書かれていたためである。

 どちらかが原本であるかは分からないが、中身を見比べてみれば同じ内容が書かれていることがわかった。

 それはまるで、ここに来た異世界の人物の為に、どちらの言語でも読めるように用意してあるようにしか見えなかった。

 そして、ペラペラと日本語で書かれていた方をめくっていたシゲルは、最後に書かれている文章を見て、それを確信することとなった。

 

『この日記を見付けた者がいつの時代の方かは分からないが、私たちと同じく迷える者への指針となるようにこれを残しておく。それが、この日記の元となった者の意思でもあるのだから』


 この文章を見つけたシゲルは、この日記を残した者たちが、自分たちと同じ渡り人であり、しかも同じ世界から来たということが分かった。

 あるいは、枝分かれした並行世界から来たという可能性もないわけではないが、少なくとも非常に似通った世界から来ていることは間違いない。

 

 驚きで固まっているシゲルを見て、フィロメナが不思議そうな顔で聞いて来た。

「私にはまったく読めないのだが、何が書かれているんだ?」

「ああ、いや、ちょっとごめん。落ち着くまで少し待って」

 まさか同類が残した日記に、ここまで動揺するとは思っていなかったシゲルは、落ち着くために一度大きく深呼吸した。

 それでもまだ激しい動悸は収まらなかった。

 

 そのシゲルの様子を見て、よほどのことがあったのかと理解したフィロメナは、しばらくシゲルの好きにさせることにした。

 今フィロメナから質問をされたら混乱が収まらないと自覚していたシゲルとしては、とてもあり難いことだった。

 そして、少し落ち着きを取り戻したシゲルは、きちんと説明するためにとフィロメナに断ってから、ゆっくりとその日記に目を通し始めたのである。

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