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(13)女子トーク再び

 マリーナのことはともかくとして、女王からの話でも、水の大精霊についてはあまり詳しいことはわからなかった。

 結局、現地に行ってみるしかないということで、とりあえずは数日王都の観光をした後に、湖に向かってみることになった。

 そのまま夕食前に一度解散ということになったので、シゲルは自分の部屋へと入った。

 そして、フィロメナたちは、同じ部屋に残って話を続けていた。

 その内容は、当然と言うべきか、マリーナのことに関して、である。

 

 この場に居ればシゲルは意外に思っただろうが、フィロメナはいつも通りの表情でマリーナを見て聞いた。

「それで? どういうつもりだ?」

「あら。どういうつもりもなにもないわよ? あれは、今の私の本心よ」

「そうか」

 マリーナの返答に、フィロメナは納得した顔で頷いた。

 

 それに関してミカエラとマリーナが不思議に思うことはなかった。

 そもそもフィロメナが一夫一妻にこだわるような性格をしているのであれば、マリーナも最初から自制をしていたはずだ。

 この世界では、むしろそれにこだわりを持っている方が、変わり者という評価を受けやすい。

 長い間一緒に旅をしていた二人が、もしフィロメナがそういう思考を持っていたとしたら、気付かないはずがない。

 

 フィロメナは、頷いてすぐに難し顔になって腕を組んだ。

「しかし、シゲルについては、少し様子を見た方が良いかも知れないぞ?」

「そうね。どちらかといえば、今は戸惑いのほうが大きいのかしら? まあ、興味がないということはなさそうだけれど」

 フィロメナもマリーナも、シゲルから質問されたときに、彼自身の中にある気持ちの複雑さに気がついていた。


 彼女たちにしてみれば、まさか一夫一妻をしっかり制度として持っている世界があるなんてという考えだったが、理解できないわけではない。

 いくら自由な恋愛が認められているとはいえ、独占欲がまったくないわけではないのだ。

 それに、一夫一妻が完全に理解されないのであれば、そもそもそうした家庭を築いている者たちに対する偏見もあるはずだ。

 少なくともフィロメナたちが知る限りでは、個人的な感情はともかく、世間一般常識としてはそんなことはない。

 結局どこまでも、恋愛はそれぞれが好きにすればいいというのが、この世界でのルールなのである。

 

 真面目な顔でシゲルのことを話すフィロメナを見て、ミカエラがニンマリと笑いながら言った。

「それにしても、やっぱりちゃんと見ているね」

 その評価に、フィロメナはムッとした表情になった。

「当たり前だろう。私だって、いつも恋する乙女状態で、現実を見ていないわけではない」

「えーーー?」

 フィロメナの言葉に、ミカエラが懐疑的な視線を向けた。

「…………いや、まあ。そういうときも無いわけではないが……」

 そう付け加えなければ良かったのだが、残念ながらフィロメナはミカエラの視線には耐えられなかったようだった。

 

 マリーナが、フィロメナとミカエラの会話にクスリと笑ってから続けた。

「まあ、シゲルもそうだけれど、私もこの気持ちはゆっくりと確認していくつもりよ。シゲルに関しても、焦っては良いこともないでしょうから」

「それもそうだな。ただ、こうなってくると、申し訳ないという気も出てくるのだが……」

「あら。そんなことをフィーが気にするのは、間違いっているわよ? フィーが先に出会ったから、私もシゲルと会えた。それでいいじゃない?」

「そうか。そう言ってくれるとありがたい」

 フィロメナとしても独占欲がまったく無いわけではない。

 ただ、それ以上にマリーナと喧嘩別れするほうが嫌なだけだ。

 シゲルがマリーナを受け入れるなら、一緒に好きになって行けばいいと考えていた。

 

 シゲルの感覚でいえば、信じられないほど穏やかに会話が進んでいく。

 そんな中、フィロメナがふと思い出したように、ミカエラを見ながら聞いた。

「そういえば、あの時は答えていなかったが、ミカエラはどうなんだ?」

 女王と話したときは、マリーナの事で話が集中して、ミカエラには皆の意識が向いていなかった。

 余計な情報を与えないということもあったのだが、敢えて触れない方がいいという空気が女性陣の中にあったのは間違いない。

「私? 私は別に、特に思うところはないわよ? 少なくとも今のところは。勿論、嫌いというわけではないけれどね」

 そもそも嫌いであれば、一緒に旅をしようなんてことは考えないはずだ。

 

 そのことが分かっているマリーナがそれはそうだろうと頷いた。

「それはそうでしょうね。それにしても、私は少し意外かしら? ミカエラこそ、先に好きになってもおかしくはないと思っていたから」

 ミカエラはエルフの精霊使いで、シゲルも同じだ。

 当然接点も多くなるので、マリーナがそう考えるのも不思議ではない。

「あー、そうなのかな? どちらかというと、エルフの子供たちに教えている感覚と、凄すぎる相手という認識が混ざっていて、混乱している感じだったからかな?」

 出会ったばかりの頃は、精霊術自体はほとんど素人といってもいいシゲルだったが、メリヤージュと平然と会話をしたりと凄い所もあった。

 そのため、初めのころのミカエラは、シゲルに対して色々と複雑な感情を持っていたのだ。

 

 勿論、そのことに気付いていたフィロメナは、ミカエラの言葉に頷いた。

「確かに、最初がああでは、恋愛感情まではいかないか」

「そうね。でも、これからはわからないわよ?」

 フィロメナの言葉に同意しつつ、マリーナが悪戯っぽい笑みを浮かべながらミカエラを見た。

「そうなのかなあ?」

 そう答えたミカエラの顔は懐疑的なものだった。

 少なくとも今のミカエラは、自分がシゲルに恋をするなんてことは、少しも考えていないのである。

 

 ミカエラの事はともかく、フィロメナとマリーナは、シゲルの与り知らないところですでに扱いが決まった。

 まあ、シゲルにとっても今までとほとんど変わらないので、余計な気遣いをすることはないはずだ。

 もっとも、シゲル自身は、こんな話し合いがされているなんてことは、まったく知らないわけだが。

 とにかく、一定の方向性が見えたところで、フィロメナたちの話題は、別のものへと移っていくのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 予定通り数日間は王都の滞在していたシゲルたちは、その間に次の旅の準備をしたり、観光をしたりして過ごした。

 ついでに、王都の冒険者ギルドで、日帰りの出来る依頼を受けたりもした。

 それから王都を離れたシゲルたちは、オモニ湖を目指して南東方面へと向かった。

 目指すは、王都から一番近くにある小さな村である。

 その村は、オモニ湖から獲れる魚を扱っている村だった。

 

 シゲルたちが目指した村は、人口が少なめでありながら、しっかりとした宿があるところだった。

 それもそのはずで、主に冒険者が、水の大精霊と会うことを目的に村を訪ねて来ることが多いらしい。

 現に、シゲルたちが宿の予約をしたときも、同じような冒険者が数組泊まっていた。

 それほどまでにノーランド王国に入って、自ら大精霊の情報を求めれば結果としてこの場所に注目することになるのは、当然だろう。

 

 ただ、それほどまでに有名なのに、国外に情報が流れていないのは、少しばかり不可解といった印象を皆が受けていた。

「これって、どういうことなんだろうね?」

 シゲルが疑問を口にしたが、その答えを持っている者はいなかった。

「推測でしかないが、大精霊が国外に出るときに、何か制限を掛けているとかか?」

「そこまでして、情報統制する意味って何かしらね?」

 意味がわからないと、ミカエラが首を傾げる。

 

 今この場で考えても答えが出るはずもなく、悶々とした思いを抱えたまま、シゲルたちは大精霊捜しを始めることになった。

 といっても、ただ湖周辺をウロウロするだけで大精霊と出会えるはずもなく、半月ほどは空振りのまま終わった。

 シゲルたちもそんなに簡単に会えるとは思っていないので、長丁場になるのは覚悟の上だった。

 村にある小さな冒険者ギルドに出ている(フィロメナたちにとっては)簡単な依頼をこなしながら、その間を過ごしていた。

 

 そんな状況に変化があったのは、やはりというべきか、シゲルの契約精霊からもたらされた情報だった。

 いつものように、周辺探索に出していたシロが、メリヤージュの時と同じように人工物(?)を見つけて来たのである。

 その報告を見つけたときのシゲルは、思わずガッツポーズを取っていた。

 時間がかかるとわかっていても、何の変りもない状況には、少し飽きが来ていたのだ。

 そして、その日のうちにシゲルがフィロメナたちに状況を説明すると、さっそく翌日からその場所を見に行ってみようということになるのであった。

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