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(27)精霊たちの成長

 アイテム詳細の画面を閉じたシゲルは、すぐに次の変化に気が付いた。

 もともと『精霊の宿屋』が拡大することで期待していたことがあったのだが、その予想が見事に的中したのだ。

 それが何かといえば、契約精霊たちのランク上限が解放されたのである。

 まず上級精霊でとどまっていた十一体のうち、九体が特級精霊になっている。

 残りの二体であるファイとクーアはまだ上級精霊のままだが、これは最近Aランクになったばかりなので仕方ないといえる。

 今後の成長に期待といったところだろう。

 

「……なんか、これだけ一気に特級が増えると、珍しさが無くなるような……。いや、ありがたいんだけれど」

「『精霊の宿屋』の広さが広がった分、支配下に置ける精霊も増えた恩恵ということでしょうか」

「いや、どうなんだろう? その考え方で間違ってはいないと思うけれどね」

 『精霊の宿屋』の仕様のことまで分かっているわけではないので、シゲルとしてもその分の明確な答えは出せない。

 いずれにしても、ほとんどの精霊が特級精霊になったことで、『精霊の宿屋』が守りやすくなったことだけは間違いない。

 もっとも、その分広がっているともいえるのだが。

 

 特級精霊になったことによる変化はラグたちの時と変わっていなかったので、注意して見るべきことはなかった。

 ただ、一点だけ他と違っていたのはサクラで、本体である桜の木(精霊樹)が見た目ですぐわかるほどに大きくなっていた。

「――これって、ただ大きくなっただけなんだろうか?」

「どうでしょうか? 本人を呼んできましょうか?」

「うん。そうだね。お願い」

 シゲルがそう言うと、ラグは早速とばかりに『精霊の宿屋』の中へ消えて行った。

 

 ラグがサクラを呼びに行っている間に、シゲルは別の精霊を確認する。

 といっても残りはラグ、リグ、シロの三体だけである。

 この三体は、流石に何の変わりもないだろうと思っていたのだが、『精霊の宿屋』の持っているポテンシャルはシゲルの想像を超えているようだった。

「……いや、三体揃って大精霊になっているって……ホントニ?」

 特級精霊が一気に増えたこともそうだが、ラグたちが揃って大精霊になったというのは、それ以上の衝撃だった。

 

 そもそも精霊の詳細を確認する画面は、契約した順番に上から表示されている。

 そのため、ラグたちが大精霊になっていることは、他の精霊たちを確認するより前に気付いていた。

 だが、そんなはずはないとシゲルが現実逃避をして、先送りにしていたのだ。

 そんなシゲルの逃避は、再び画面を開いて変わっていなかったことで、残念ながら終了となった。

 

「――現実逃避していないで、ラグに先に聞いておけばよかったか。失敗」

「あら。なにが失敗したの?」

「うわっ!? びっくりした」

 アマテラス号の自室で確認していたシゲルは、いるはずのない声が聞こえてきたことに驚いて、少しだけ飛び上がってしまった。

 

 そして、シゲルが驚いている間に、『精霊の宿屋』から戻ってきたラグが、その声の持ち主――エアリアルに問いかけた。

「おや。エアリアル様。突然来るのは珍しいですね。何かあったのですか?」

「何を言っているのよ。馴染み深い場所で、感じたことのない気配を感じたから確認しに来たのよ。それにしても、これで貴方も私たちの仲間入りということね」

「まだまだ若輩者ですが……」

「当然よ。大精霊になったばかりで、その日の内に抜かれてしまったら、流石にショックよ。でも、あっという間に抜かれるのでしょうけれど」

 そう言いながら何故かシゲルに視線を向けてきたエアリアルを見て、ラグは少しだけ考える様子を見せてから頷いた。

「そうかも知れませんね」

「出来れば、そこは否定してほしかったわね。否定できないのも事実だけれど」

「いや、何でそこで自分を見るのかな?」

「それこそ自分の胸に手を当てて考えてごらんなさい」

 慌てて口を挟んできたシゲルを、エアリアルは一刀両断にしてしまった。

 

 フィロメナたちだけではなく今度からは大精霊からもそういう対象になるのかと、シゲルががっくりとしていると、エアリアルが今度はラグの後ろへ視線を向けた。

「ところで、サクラに話があるんじゃなかったの?」

「――ああ、そうだったそうだった」

 エアリアルが話題を変えたことで割合に早く復活したシゲルは、同じように視線をサクラへと向けた。

「サクラ、精霊樹が見た目で大きく変わったみたいだけれど、それ以外に何か変わったことはある?」

 シゲルがそう問いかけると、サクラはいつもの調子で現段階で分かっていることを話した。

 

 といっても、今のところ分かっているのは、精霊樹の影響範囲が土地の拡大によって広がったということだ。

 ただし、その範囲は『精霊の宿屋』全体というわけではなく、ちょうどシゲルがここまでが中央の範囲と決めているところと同じくらいの広さだった。

 口頭で聞いているだけなので、ほとんど想像でしかないのだが、大体は合っているはずである。

 勿論、精霊樹の範囲を考慮してシゲルが決めたわけではなく、ただの偶然だ。

 あとは、それ以外にも何か出来ることが増えているようだが、それはまだ今後きちんと調べていく必要があるそうだ。

 

「――うん。なるほどね。分かったよ、有り難う」

 話を聞き終わったシゲルがそう礼を言うと、サクラは嬉しそうに顔を輝かせてから『精霊の宿屋』へと戻って行った。

 基本的に話をせず、シャイなところがあるのは、最初に出会った頃と全く変わっていない。

 シゲルに対しては普通に話をしてくれるようにはなっているのだが、他の人がいたりすると途端に無口になってしまうのである。

 

 速攻でいなくなってしまったサクラを見送って、エアリアルは少し呆れたような視線になっていた。

「あの子は相変わらずね」

「まあね。それはそれとして、ラグも入れて大精霊が三体増えたことは、問題ないのかな?」

「ないわよ、そんなもの。そもそも大精霊になったといっても、こっちの世界での大精霊じゃなく、『精霊の宿屋』での大精霊だし。力の行使も違ってくるし。それは、ラグも実感しているんじゃない?」

「そうなの?」

 エアリアルとシゲルから視線を向けられたラグは、小さくコクリと頷いた。

「確かに違っているようですね。詳しくはきちんと検証しないといけないですが……ただ、少なくとも精霊喰いに対抗する手段は余り変わりないようです」

「そこはね。そもそもの根幹が同じなのだからそうなるでしょう」

「どういうこと?」

 エアリアルが言ったことの意味が分からずに、シゲルは首を傾げた。

 

 そんなシゲルに対して、エアリアルは考えるような表情になって言った。

「そこを言葉で説明をするのは難しいのだけれど……世界がそれを認めていると思ってもらえればいいんじゃないかしら」

「あー、うん。わかった。詳しく聞こうとしても、よく分からないということが」

 エアリアルの説明を聞いて早々に理解することを諦めたシゲルは、素直に白旗を上げることにした。

 いずれにしても、精霊喰いを相手にするときには、どちらの世界でも最高のパフォーマンスを発揮できるということだ。

 

 いまはそれさえ分かっていれば、後はその都度確認することで構わないだろうとシゲルは判断するのであった。

精霊育成師としての本領発揮。

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