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(26)拡張と精霊結晶

 結晶を取り込んだことで現れたメッセージは、勿論『精霊の宿屋』を広げるかどうかを確認するためのものだ。

 それが分かったシゲルは、悩むことなくそのメッセージに同意した。

 すると、前回の拡張のときと同じように、全くいつもと変わらない風景がそこに広がっていた。

 すでに拡張している元の範囲が広すぎて、新しく拡張していることが目視では確認できなくなっているのだ。

 勿論そのことを予想していたシゲルは、慌てることなく画面を切り替えて全体図を確認した。

 

「――よし。これが全体図……って、広すぎじゃない?」

 前回の時にも思ったのだが、今回はそれを上回るペースで広がっていた。

 何しろ前回で六百二十㎢ほどだった広さが、その四倍近くになっているのだ。

 すでにその広さは、小さめの国といっても変わりがないくらいに広がっている。

 

 全体図でその広さを改めて確認したシゲルは、うめくような声を上げながら言った。

「これは、どう考えても細かいところまで調整するのは無理だろうなあ……」

 今までは細かい区域に分けて、それぞれで微調整などを繰り返していた。

 だが、ここまで広さが大きくなってしまうと、俯瞰するようにみることは出来ても細かいところまで目が行き届かなくなる。

 むしろ、これほどの広さをそこまで細かく調整していると、時間がいくらあっても足りなくなるだろう。

 

 しばらくそのままの状態で悩んでいたシゲルは、やがて結論を出して言葉を出さずに待っていたラグに向けて言った。

「それぞれの方角と中央にある環境は前と同じ方向にするよ。しばらくは、それぞれが規模が大きくなるだけにする」

「そうですか。それで構わないと思います」

 ラグが同意するのを確認したシゲルは、放置したままだった新しい領域に手を加えはじめた。

 

 ラグに宣言した通りに、拡張する前にあった環境を五つの地域にわけて、それをそのままそれぞれの方角に当てはめて中央に配置する。

 幸いなことに、北西にあった山はそのままそれが大きくなった感じで出来ていたので、余計な精霊力を使うことはなかった。

 というよりも、今ある山の分を精霊力で作るとなると、ため込んであった分を全て使っても間に合わなかったかもしれない。

 いずれにしても北西側には、以前よりも少し高めですそ野が大きくなっている山ができている。

 大きくなった分出来ることは増えているので、今後はその山に対していろいろな調整をして行くことになる。

 

 調整を行っていくのは北西にできた山以外も同じなのだが、とにかく広大な土地ができたのでやることは格段に増えていた。

 とりあえず、草原のままでは折角ある元の環境が浮いた感じになってしまうので、『精霊の宿屋』に登録されている環境セットを使って、それぞれの環境を広げていった。

 それぞれの環境が違和感ないくらいにまでできた時には、拡張前まで貯めてあった精霊力のほとんどを使ってしまった。

「結果論だけれど、余計なことをしないで貯めておいてよかったよ。ほんとに」

 実感を込めてシゲルがそう呟くと、ラグが「そうですね」と返しながらクスリと笑った。

 

 

 環境の調整を終えたシゲルは、改めて今回取り込んだ結晶を確認してみることにした。

 ラグたちが頑張って変化させた結晶が、どんな風に変わったのかをきちんと確認しておきたかったのだ。

「――えーと、どれどれ……って、画面から無くなっている!? 宿屋に取り込まれたのかな?」

 拡張前は精霊樹の傍にあった例の結晶が、少なくとも画面上からは確認ができなくなっていた。

 少し慌てた様子で確認をしていたシゲルに、ラグが助け舟を出すように言った。

「まだ同じ場所にきちんと残っていますよ。人の目では確認できなくなっているだけです。『精霊の宿屋』の機能で確認すれば見られるかと思います」

「へー。……そんなこともあるんだ」

 何度見てもそこに結晶が残っているようには見えないので、シゲルは感心した様子で何度か頷いていた。

 

 シゲルはさらに、ラグの助言に従ってアイテム欄から結晶がどう変わったのかを確認することにした。

 すると、拡張前には無かったはずの新しいアイテムが確かに増えていた。

「精霊結晶……? 結晶というわりには、全く見えていないけれど、そこはいいか」

 どうでもいいことで一瞬悩んでしまったシゲルだったが、すぐにそこから意識を戻してラグを見た。

「結晶が残っているのは分かったけれど、結局これって何に使えるの? 何となく名前から精霊たちが集まりやすくなっている、ということは分かるけれど」

「そうですね。仰る通りに、精霊がより集まりやすくなったというのはあります。ですが、精霊結晶は別の効果のほうが大きいです。特に『精霊の宿屋』にとっては、そちらのほうが重要ではないでしょうか」

「別の効果……?」

「はい。簡単に言ってしまえば、精霊結晶があると光と闇の精霊が生まれやすくなるのです」

 ラグの回答を聞いたシゲルは、唸るように「なるほど」と呟いた。

 

 普通の環境だけでは生まれにくい光と闇の精霊が生まれやすくなるというのは、確かに『精霊の宿屋』にとっては重要な役目を果たすだろう。

 拡張だけではなく、そんな効果まで常時生み出すとなれば、『精霊の宿屋』にとっては非常に重要なアイテムだといえる。

「ということは、益々いろんな精霊が来ることになるのかな?」

「それは間違いありません。問題があるとすれば、精霊喰いがより集まりやすくなったことでしょうか」

「えっ……!? そんな効果まであるの?」

「はい。といっても、そこまで極端に増えるというわけではありません。ですので、あまり心配する必要はないです。むしろ訪問する精霊が増える効果のほうが大きいですから」

 ちなみに、ラグたちがこのことを事前にシゲルに報告していなかったのは、そんな効果が残るとは思っていなかったからだ。

 だが、よくよく考えてみれば、精霊を生み出しやすくなる物に精霊喰いが集まりやすくなるというのは、普通にあり得る話である。

 精霊喰いはその名の通りに、精霊を糧にしている生物(?)なのだ。

 

 ラグからそう説明を受けたシゲルは、納得の表情で頷いた。

「……確かに、言われてみればそれもそうか」

「それに、以前の結晶のままで残しておいても、精霊喰いが集まりやすいのは変わりありませんから」

「そうなんだ。それじゃあ、結局変化させて良かったということかな」

 珍しく言い訳めいた言葉を重ねるラグに、シゲルは気にしていない様子でそう返した。

 

 実際シゲルは、精霊喰いが集まりやすくなったことをあまり気にしてはいなかった。

 現状でも『精霊の宿屋』に集まって来る精霊喰いは、ラグたちが余裕をもって対処ができている。

 そのラグが特に問題ないと断言している以上は、本当に大丈夫なのだろうと安心しているのだ。

 『精霊の宿屋』が拡張したことで、必要であれば契約精霊の数を増やしてもいいかと考えていたところなので、さらに精霊喰いへの対処は問題が無くなるはずだ。

 それらのことを考えれば、『精霊の宿屋』に来る精霊喰いに関してはさほど心配する必要がないはずだ。

 

 少し窺うように自身を確認しているラグの様子に気付いたシゲルは、少し笑みを浮かべてから気にしないようにと右手を軽く振った。

 そして、それを見て安堵した表情を浮かべたラグを確認したシゲルは、再び『精霊の宿屋』の確認作業に戻るのであった。

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