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(23)報酬決定

 精霊喰いを倒したその日の内に、アンドレと一部の騎士を乗せたアマテラス号は王都へと戻った。

 今まで通り王都の少し外側に泊めたアマテラス号から降りて、アンドレ一行は王城へと向かう。

 それを見送ったシゲルたちは、しばらく船内で休息をしていた。

 戻ったアンドレたちからの報告をもとに、シゲルたちに対する報酬が決められる。

 その後で、シゲルたちは城に呼び出されて報酬を正式に受けとることはすでに決定事項だ。

 一応、前段階でアンドレから聞いた話では、シゲルが現地でも求めた精霊喰いの落とし物が報酬の一部になることは、ほぼ間違いないということだ。

 問題は、それ以外の報酬をどうするかということで一部から色々な反応があるようで、その調整に時間がかかっているとのこと。

 ただ、それも現場で実際を見ていたアンドレが戻ったことで、すぐに落ち着くべきところに落ち着くだろうとのことだった。

 

 そして、アンドレたちを見送った翌日。

 アマテラス号から見える位置に、数人の馬に乗った騎士が馬車を伴ってやってきた。

 防犯のために警戒をしている精霊には引っかからない範囲で待っているのは、きちんと情報を集めているという証拠だろう。

 その騎士たちに向かって、シゲルは彼らが外から何かを叫ぶよりも先に、船の中から呼び掛けた。

 

 シゲルが呼び掛けると、初めは驚いていた騎士たちは、すぐに平静を取り戻してその場で待つ態勢になっていた。

 といってもその時間は一時間ほどで、準備のできたシゲルたちは馬車に乗り込むことになる。

 時間が一時間というのは長いのか短いのか議論の分かれるところだが、登城するということで女性陣がきっちりとめかしこんでいることを考えると遅くはないのだろう。

 多少シゲルは騎士たちを待たせていることでハラハラしていたのだが、一番こういったことに慣れているラウラを筆頭に、女性陣はそれが当然という顔をしていた。

 騎士たちも待たされている理由をきちんと察しているのか、特に不満の様子を見せることなくシゲルたちの乗る馬車を護衛するように着いて来ていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 この日、シゲルたちが城へと招かれたのは、正式に報酬の授与を行うのではなく、その前段階で内容を決めるためである。

 今回の戦闘はシゲルがメインで討伐を行ったことになるので、後々きちんと授与式を行うのだが、その場でやりとりを行うわけではないのだ。

 こうしておけば、その場での事故を防ぐことができるので、お互いにとってメリットがある。

 ちなみに、当日になっていちゃもんを付けて来るようなことをすれば、そんな行為を行った者が非難されることになる。

 

 話し合いの場に集まっていたのは、文官側の役人が数人と当日現場にいたアンドレを始めとした武官が数人である。

 国王はいないのだが、アンドレを始めとして当然のように決定権を持っている高官がいる。

「――では、始めましょうか」

 文官側のトップがそう切り出して、話し合いが始まった。

 

「まず最初に話しておきますが、そちら側が提案していた例の結晶の授与に関しては、問題ないという判断になりました」

「そうですか。そうおっしゃるということは、他にも何かあるということですか?」

 こういう場での交渉は、基本的にラウラが行うことになっている。

 これは、誰かが言い出したわけではなく、自然とそうなっていた。

「勿論です。場合によっては、国内に甚大な被害をもたらすことになったわけですから当然です」

「それを仰るなら、そもそも騎士たちの前段階の活躍があってのこそ、だと思うのですが?」

「それも含めて、ですな」

 文官が念を押すようにそう言ってくると、ラウラはそれ以上を確認することはなく「そうですか」と言って引き下がった。

 

 何やら話だけを聞いていると、ラウラのほうが報酬を遠慮しているように見えるが、実際わざとそういう流れにしている。

 王国側としては報酬をケチっているとは思われたくはないし、ラウラ側としては報酬をがっついていると思われたくないという考えがある。

 いくら前段階の話し合いとはいえ、こうしたところでも微妙に駆け引きが始まっているのだ。

 ただし、この場合の駆け引きは、実際に交渉を行っている者の能力を確認するためのものではなく、後から経緯を確認してくる者たちに示すためのものだったりする。

 文官担当もラウラもそのことを分かった上で、敢えてこういうやり取りをしているのだ。

 

 シゲルたちは、この場でラウラのやり方に口を挟むことはしなかった。

 何故なら、ラウラからある程度事前に、こういう流れになるだろうということを聞いていたからである。

「――では、他に頂けるものというのは?」

「そうですな。こちらとしては、勲章なり称号なりを渡したいと考えていたのですが……」

「それは必要ありません」

 きっぱりと断ってきたラウラに、文官は「やはりですか」と納得した様子で頷いた。

 

 特定の国から勲章なりをもらったりすると、それだけでその国の色が付いたとみなされてしまう場合がある。

 勇者であるフィロメナは当然のこととして、実際に戦闘を行ったシゲルもそうした色をつくのは好ましくないと考えている。

 王国側もシゲルたちのそうした考えを分かった上で、敢えてその報酬を提示してきた。

 これも、先ほどのやり取りと同じように、断られることを前提としたやり取りなのだ。

 

 

 そんなやり取りをしつつ、金銭の金額も決めた後で、文官がこんなことを言い出してきた。

「――それで、次がこちらが提示するものの最後になるのですが……」

「まだ何かあるのでしょうか?」

 ラウラ側としては、金銭と例の結晶を貰えるだけで十分と考えていたので、文官がさらに提示してきたのは少し意外な展開だった。

「ええ。あまり好ましいことではないのですが、今回の討伐はギルドの依頼を通して行われたということにしたいのです。これを報酬と言ってしまうのは、心苦しいのですが」

「それは――――確かに、必要かもしれませんね」

 文官が言ったことに一瞬悩む様子を見せたラウラだったが、すぐに納得した表情で頷いた。

 

 今回の精霊喰いの討伐は、冒険者ギルドがほとんど関与することなく終わることとなった。

 普通に生活を行っている者からすれば、それは別にどうということはないことなのだが、ギルドの体面を奪った形になるのは紛れもない事実である。

 本来であれば国がそんなことを気にする必要はないのだが、国内にいる魔物を討伐しているのが数多の冒険者であることを考えれば、あまり放置しておきたくはないと考えるのも当然である。

 そうしてひねり出したのが、シゲルたちがギルドの依頼を通して動いたことにするということだ。

 

 シゲルたちからすればあまり意味のある提案ではないのだが、別に断固拒絶するようなものでもない。

 事務手続き的なものは全て国とギルドが行うということだったので、一応ラウラが全員に確認をしてからその提案を受け入れることになった。

 この結果として、これまで地道に貯めてきたポイントと合わせてシゲルのギルドランクの昇格が決まるのだが、それはまた別の話である。

貴族との面倒なやり取りは、完全スルー!

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