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(11)精霊の対処

 フィロメナたちとの話し合いの後、どの大精霊に連絡を取るかと悩んだシゲルは、まずはエアリアルに話をしてみることにした。

 エアリアルを選んだ理由は、普段からアマテラス号のメンテナンスに関わっていて、話がしやすかったからというのが一番である。

 勿論、他の大精霊がエアリアルと比べて話しづらいというわけではない。

 ただ、アマテラス号に呼ぶと一番喜ぶのが、やはりエアリアルなのだ。

 それだけエアリアルが、タケルとの思い出を大切にしているということになるのだが、ここはその想いに甘えさせてもらうことにした。

 

 シゲルはそんなのでいいのかと悩みつつエアリアルを呼び出したわけだが、当の本人はあっけらかんと笑っていた。

「――そんなこと気にせずに、もっと呼び出せばいいのに」

「いや、そんなわけには……」

 恐縮したように返したシゲルに、エアリアルは小さくため息をついた。

「シゲルだったらそう言うと思っていたわ。それはいいとして、ヒカリとヤミが見つけたものは、間違いなく精霊喰いでしょうね」

 エアリアルがそう断言したことで、シゲルもヒカリとヤミが感じ取った『おかしな物』は、精霊喰いだと確信するに至った。

 精霊喰いに関しては、大精霊であるエアリアルの言葉ははるかに重い意味を持っているのだ。

 

 そんなシゲルを見つつ、エアリアルはさらに言葉を続けた。

「それから、シゲルたちが気にしている私たちのことだけれど、しばらく動くことはできないわね」

「――というと?」

「簡単なことよ。ちょうど今、精霊喰いが活動期に入っていて、それぞれの場所での対処に忙しいのよ。この辺りはちょうど空白地帯になっていて、そこを突かれた感じね。――言っておくけれど、私たちもあちこちに手を出せるほど万能というわけではないわよ?」

 聞こうとしたことを先に言われて、シゲルは納得した表情で頷いた。

 今いる大精霊で大陸中に出現する精霊喰いのすべてを完璧に抑えることができるのであれば、過去に発生した大精霊の被害などあるはずもない。

 

 それよりも、シゲルとしては聞き逃せない言葉があったので、それをきちんと確認することにした。

「活動期というのは?」

「そのまま言葉通りの意味よ。精霊喰いには、出現が頻発する活動期とそれが抑えられている減衰期があるの。精霊喰いには誕生するための違った周期みたいなものがあって、それが重なると一気に膨れ上がるのね」

 例えば、精霊喰いが表に出て来る周期が三年のものと五年のものでは十五年ごとに両者が重なった量が出て来る可能性がある。

 勿論精霊喰いは、生物のように卵(または卵子)から生まれているわけではないが、そうしたサイクルはあることが精霊の間では知られている。

 今は、いくつかあるそのサイクルが重なりあっているというのがエアリアルの説明だった。

 

「――それに、これは言い訳だと捉えてもらってもいいけれど、たまには人の手で処理するようにしておかないと忘れてしまうからね」

 大精霊は、わざと精霊喰いを放置することがある。

 それは、精霊喰いの被害がどういったものなのか、忘れさせないようにするためだ。

「人は、何か現実に起こらないと忘れてしまう生き物だから」

「それは…………確かに、否定できないね」

 少し寂しそうに笑って言ったエアリアルに、シゲルは神妙な表情で頷いた。

 エアリアルの顔を見れば、過去に何かあったということは察せられる。

 言っていることも間違っていないので、それだけを言ってそれ以上聞くことはしなかった。

 

 何となく微妙な空気が流れそうだと感じたシゲルは、敢えてそれを振り切るように元の話題に戻すことにした。

「とにかく、ここで出ている精霊喰いは、こっちで処理していいんだね?」

「というよりも、もっと成長しない限りは、こちらから手を出すことはしないわ」

 精霊が対処に乗り出すまでの間に、自然に対する被害は出て来るだろうが、それ以上に他での対処を放置するほうがまずいことになる。

 その間に、人の手で精霊喰いを処理する分には何の問題もない。

 そう説明を続けたエアリアルに、シゲルは了承の意味で頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 エアリアルから話を聞き終えたシゲルは、さっそくフィロメナたちにその話をすることにした。

「――というわけで、大精霊たちはしばらく動けないみたいだ」

「ふむ。確かに、それもこれも精霊にお願いするというのは危険だな」

「そうですね。いざという時に動けなければ、意味がないですから」

 フィロメナの言葉に引き続いて、ラウラがそう言いながら大きく頷いた。

 

「それじゃあ、北の方の異変については人が対処するとして、どうやって伝える?」

 ミカエラがそう聞くと、フィロメナは肩を竦めながら答えた。

「どうもなにも、普通にアポを取って伝えるしかないだろうな。――信じられるかどうかはともかくとして」

 勇者として認められているフィロメナの言葉は、ある程度の発言力を持っていることは確かだが、それが百パーセント受け入れられるわけではない。

 それでも、しっかりと異変について伝えておく必要はあるだろう。

 その上で国がどう判断するかまでは、フィロメナ(たち)が関知するところではない。

 

「国に伝えるのはいいとして、どうやって伝えるんだ?」

 シゲルがそう聞くと、フィロメナは肩を竦めながら答えた。

「どうもこうも、普通にアポを取って行くしかあるまい」

「そうね。時間がかかるかも知れないけれど、こっちは勇者だーと言いながら押しかけるわけにもいかないから」

 フィロメナに続いて言ったマリーナの言い方に、シゲルは思わず吹き出していた。

 フィロメナがそんな言い方で国に押しかけるとは思わなかったが、何となく想像したその姿が全く似合っていなかったからだ。

 

 そんなシゲルの姿を見て微妙にふくれっ面になったフィロメナは、マリーナを一度だけ睨みつつ言った。

「そんなことを私に求めるな。――とにかく騎士団とギルドそれぞれに行くということでいいか?」

 騎士団、すなわち国に報告するのは当然として、ギルドに行くのはまず最初に異変に気付くとすればギルドだろうからだ。

 そのギルドに所属している冒険者たちが、一番最初に異変に気付いているかもしれない。

 そうした情報も得られればという考えから、ギルドにも向かうというわけだ。

 

 とりあえずの方針が決まったところで、シゲルがある疑問をフィロメナにぶつけた。

「精霊喰いについて報告するのはいいとして、勇者としての戦力を求められた場合は?」

「それは、その時の流れによって変わるだろうな。今この場で決めるべきことではない」

 この場でフィロメナが決めてしまえば、いずれにしても勇者頼りから離れられなくなってしまう。

 そのためにも、フィロメナが決断してからではなく、先に国やギルドに対処方法を考えさせることのほうが大事なのだ。

 その上で、勇者フィロメナの出陣が必要だと考えれば、その時に改めて考えればいいだけだ。

 もっとも、ギルドはともかくザナンド王国がフィロメナの出陣を願うとなると、相当な事態になっているということも考えられるのだが。

 

 とにかく、この段階でフィロメナがどうこうするかどうかは決める必要はない。

 そう判断したフィロメナの決断に、他のメンバーも賛同するのであった。

これにて今年最後の投稿となります。

本年もお世話になりました。

来年もよろしくお願いします。

m(__)m



現在、新作「コンからのお願い」を投稿中です。

是非、そちらもよろしくお願いいたします。

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