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(5)話し合いの後

 騎士団長ゲレオンが聞きたかったのは本当に入国の目的だけだったようで、それ以降はフィロメナが勇者として活動していた時の話で盛り上がっていた。

 シゲルとしても普段あまりその辺りの話を聞くことがなかったので、非常に新鮮な気持ちで聞くことができていた。

 別に聞きづらいというわけではないのだが、フィロメナは勇者という側面を嫌っているきらいがあるので、敢えて話題にすることはないと考えていたのだ。

 ただし、ゲレオンと話をしているときのフィロメナはそこまで機嫌が悪くなることはなかった。

 何よりも、ゲレオンの話の仕方が飽きさせないもので、フィロメナもそれに乗っかって話をしているという感じだった。

 フィロメナが嫌いそうな話題を避けているということも、話が盛り上がった理由の一つとして考えられるだろう。

 

 フィロメナたちの目的を聞いた以外は、政治的な話をすることも無く、勇者時代の特に戦闘の話を聞いたくらいだった。

 いくつかその類の話を聞き終えたゲレオンは、満足げな表情になってフィロメナたちを送り出したのである。

 そして、彼女たちを見送ったゲレオンは、まっすぐに自室には戻らず、とある場所へと向かった。

 最初からその予定だったことは、しっかりと馬車が用意されていたことからもわかる。

 そうして向かった場所は、当然というべきか、王城だった。

 

 そして、王城に着いたゲレオンは、真っ直ぐに自分が仕えるべき主の元へと向かった。

「第一騎士団長ゲレオン、参りました!」

「入れ」

 ごく簡単な返事を聞いたゲレオンは、両側をしっかりと騎士によって守られている扉を開けた。

 ゲレオンが騎士団長であることは護衛の騎士たちも当然知っているので、咎められることはなく部屋に入れた。

 

 ゲレオンがその部屋に入ると、複数名の護衛の騎士たちと二名の人物がいた。

 その二人の傍に着いたゲレオンは、そのうちの一人に向かって最敬礼をした。

「勇者の件のご報告に参りました」

 ゲレオンが対面に立ってそう言った相手は、ザナンド王国ダヴィド国王その人である。

 ちなみに、国王の隣に座っているもう一人の要人は、ゲレオンの上司に当たるアンドレ元帥だ。

 

「ふむ。待っていたぞ。――それで? どうだった?」

「特に何か緊急事態が発生したとかではありませんでした。この国で取れる珍しい素材を求めて来たということです」

「素材、か。……信用できるのか?」

「少なくとも、いま話題の遺跡を探しに来たとかではなさそうです。――偶然見つける可能性はあるかも知れないとは言っていましたが。当分は王都近くに滞在すると言っておりましたから、何かあれば聞けばよろしいのでは?」

「それはそうだが、奴らにはこちらにはない移動手段があるからな。逃げようと思えば簡単に逃げられるであろう?」

 言外に逃げた場合は捕まえられるのかと問いかける国王に、ゲレオンとアンドレは一瞬視線を交わしてから同時に首を左右に振った。

「まあ、無理でしょうな」

「そうだろうな。私も何が何でも追えと無茶を言うつもりはない」

 

 フィロメナのパーティが、空を飛ぶ船であり得ない速度で飛び回っているということは、当たり前のように王の耳にも入っている。

 その情報源が、各国の王と言われるような立場で、しかも複数から入っているとなれば疑う余地もない。

 勿論、国の情報部からの情報でもその裏付けは取れているのだ。

 そんな反則的な移動手段を持っている相手に対して、無理なことを命令するほどダヴィドは愚かな王ではない。

 

「あの船自体は目立つので、追えないことはないですが……」

「無理に追ったところで、馬が使い物にならないだろう? それであれば、各地にいる者達から連絡を貰った方が確実だ。国外に出られた場合は、どうしようもないしな」

 あくまでも現実的なことを言う国王に、元帥と騎士団長は揃って頷いた。

 二人とも国王の言ったことは理解できているが、それでも確認は必要なのだ。

 

「話が逸れたな。移動についてはともかく、彼らが素材採集をするというのであれば、特に止める理由はないな。下手に手を出すなよ?」

「無論です。監視についてはどうしましょうか?」

「止めておけ。どうせつけたところで、すぐにばれるだろう。それなら、周囲から話を集める程度で十分だ」

「よろしいので?」

「これまでの行動パターンから考えても、遺跡関係の話はすぐにこちらに持ってきそうだからな。来なかったとしても、それはその時に対処すればいいだろう。というよりも、そうするしか対処のしようがない」

 そもそもザナンド王国では、超古代文明どころか古代文明に関する情報を持っていないのだ。

 大草原のいくつか遺跡があることは知られているが、目ぼしい発見はないというのが定説である。

 もしその遺跡に何かあったとしても、それらの場所にフィロメナたちが空飛ぶ船を使って移動すれば、すぐにわかるようになっている。

 現状、そのくらいしか手を打てないというのは、この場にいる全員が理解しているのだ。

 

 戦闘能力だけでも見逃せない力を持っている上に、最近では超古代文明という各国が見逃すことのできない情報を握っているらしいフィロメナたち一行。

 そんな者たちが自分の国に来たのに何の対処もせずにいたとなれば、貴族(の一部)から糾弾されるのは間違いないだろう。

 それゆえに、虎に鈴をつけるような真似をしなければならないのだと自覚をして、ダヴィドは内心でため息をつくのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ザナンド王国のトップが勇者(組)について対応をしているその頃。

 アマテラス号へと戻ったフィロメナは、微妙にふくれっ面をしていた。

「むう。やはり私も一緒に行っては駄目か?」

「それについては、何度も話をしたじゃない。今回はシゲルの対応力を上げるためにも、フィーはミカエラと別行動よ」

 フィロメナにそう言って釘を刺したのは、マリーナだ。

 

 精霊たちが『精霊の宿屋』のための素材を集めている間、シゲルたちはただ船の中にいたり、町をぶらついているだけではつまらない。

 そのため、冒険者としての活動もしようという話になっていた。

 ただ、一つだけ問題が出たのは、当然のようにシゲルと一緒に行動しようとしていたフィロメナが、マリーナとミカエラの反対されたのだ。

 その理由は、折角の機会なのでシゲルもフィロメナがいない状態での依頼の消化に慣れた方がいいというものだった。

 その言葉に納得ができたシゲルはすぐに同意をしたのだが、フィロメナが最後までごねているというわけだ。

 フィロメナはフィロメナで、マリーナとミカエラが言っていることは理屈では正しいと理解しているが、シゲルと一緒にいたいという気持ちのほうが大きい。

 

 マリーナに諫められて渋い顔をしているフィロメナに、ミカエラが小さく笑いながら言った。

「本当に、前からは考えられないくらいに変わったわね」

「べ、別に、いいではないか」

 揶揄われていると察したフィロメナは、わずかに頬を赤く染めながらプイと横を見た。

 きちんと式まで挙げているのに、この辺りの感覚はまだ完全には抜けきってはいないらしい。

 

 そんな三人のやり取りを見ていたシゲルが、ここは自分が言うべきだろうと口を挟むことにした。

「心配してくれるのはありがたいけれど、ちょうどいい機会だから今回は別行動がいいかな」

「……むう。シゲルがそう言うのであれば、仕方ないか……」

 自分がわがままを言っているという自覚はあったのか、シゲルの言葉を聞いたフィロメナはあっさりとそう答えながら頷くのであった。

次話更新は一週間以内。

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