(22)最後の調整
魔族の関与があるという情報は、フィロメナたち女性陣にとってはかなりの衝撃をもたらしていた。
その結果、この件に関与している魔族たちの扱いをどうするかを決める話し合いは、かなりの長時間がかかることとなった。
そうして出た結論というのは「大精霊たちに任せる」ということだった。
人族とは違った扱いでいいのかという意見は、当然のように出ていた。
だが、そもそもフィロメナたちは魔族とのまともな繋がりを持っていない。
あるのは、敵対関係という明確な敵意に基づいた感情だけだ。。
そもそもシゲルたちは魔族に知り合いがいるわけでもない。
そのため、手の出しようがないというどうしようもない理由も存在するのであった。
ようやくの結論が出て話し合いが落ち着いたところで、マリーナがふとシゲルを見ながら聞いてきた。
「そういえば、火の大精霊は魔族と繋がりがあるんじゃないかしら?」
「火の……ああ、イグニスか。確かにね。でも、イグニスに頼ったら、結局精霊に頼むというのと変わりはないんじゃ?」
「繋ぎだけ頼んで、あとは自分たちが直接手を出すということもできるわよ?」
重ねてそう聞いてきたマリーナに、シゲルは首を左右に振った。
「確かにそうだけれど、たとえ冷たいと言われても、そこまでする必要はないかな」
シゲル自身は、魔族に負の感情を持っているわけではない。
それでも、人とは違った行動原理で活動している存在を相手に、むやみやたらに慈悲を施すつもりはない。
それならば、当事者であるグラノームに任せてしまったほうがいいというのが、シゲル自身の考えであった。
マリーナは、何も先に決めたことを覆そうとしてこんなことを言い出したわけではない。
自分たちとは違った常識を持っているシゲルが、魔族に対して変な負い目を感じることがないように、きちんと自分の中で結論を出すように促したのだ。
フィロメナたちもそのことが分かっているのか、敢えて口を挟もうとはしてこなかった。
シゲルの出した結論を、ただ黙って聞くだけだった。
シゲルが答えてからほんの僅かだけ時間が空いたが、それを振り切るようにして今度はラウラが口を開いた。
「魔族は大精霊様たちにお任せするとして、こちら側はどうされますか? そろそろ情報も出揃っている感じですが」
「そうね。例の組織が本格的に対抗手段を取って来る前に片づけないと、面倒なことになりかねないわ」
ラウラに続いてミカエラがそう言うと、他の面々も同意するように頷いた。
「精霊と国による調査にも違いがほとんどないからな。縦の繋がりはともかく、横の繋がりは出揃ったと考えてもいいだろうな」
組織について調査を始めた頃から余りの組織の大きさに驚き、どこまでの広がるのかを中心に調べを進めていた。
それさえできれば、あとはそれぞれの国なりで対処して組織の根絶を目指せばいいと考えたのだ。
今フィロメナが言ったとおりに、組織の横の繋がりに関する調査はほとんど終わりに近づいている。
結果としては、国が直接かかわっている所はなかった。
それでも大きな拠点は学園に加えて三つの国にあり、さらに精霊の捕獲活動を行っているところまで含めると両手でギリギリになるほどの国が関わっていた。
過去、精霊の強制契約に関して、ここまで大きな組織はなかったといってもいいかも知れない。
さらにその組織を厄介にしているのは、当初の予想とは違って、一人のリーダーがいてその下に優秀な部下が揃っているというわけではないということだ。
それぞれの地域の小さなまとまりが、横のつながりを持って情報の共有などをしている。
その情報をもとに、精霊を捕まえるための新しい道具の開発などを行っているのだ。
その情報のやり取りは、蜘蛛の巣のように張り巡らされたルートで伝わっていて、例えば学園にある拠点を潰したからといっても全体で見れば大したダメージを受けないのである。
だからこそ、各国の担当者及び王たちは頭を悩ませる結果となっている。
あとはシゲルたちが号令をかければ、喜んで国内の拠点を片づけてくれる手筈になっているので、その合図を心待ちにしているはずである。
ここで、フィロメナの言葉を聞いたシゲルが、確認するような視線を向けた。
「ということは、いよいよかな?」
「ああ。できることなら、向こうの意表を突くことができればいいが……それは高望みすぎるか」
アーダムの件が起こってからすでに半月以上が過ぎている。
その間何もしてこなかったのだからまだ時間に余裕はあると、例の組織が考えてくれればフィロメナが言ったとおりに意表を突くことになる。
だが、相手が対抗策を練っているという情報が入っている以上は、そこまで大きな成果としては望めないだろう。
だからといって、決着をつけることをいつまでも先延ばしにつもりはないのだが。
シゲルとフィロメナの会話を聞いていた他の三人も、すでにその表情は何かを決意したようなものになっていた。
「いよいよね。長かったわ」
「でも、それだけの成果はあったでしょう?」
「そうですね。末端の人員まで完璧に処分を下すのは時間がかかるでしょうが、少なくとも組織としての活動はできなくなるでしょう」
ミカエラ、マリーナ、ラウラの順番に現状の分析を言った。
組織の末端の構成員まで詳細に調べてから手を下すとなると、とてもひと月やふた月の調査では終わらない。
そこまでのことをしなくても、それぞれの地域にある拠点とその重要人物さえ叩けば、あとは芋づる式に決着が付くはずだ。
最後にラウラが言ったことは、そういうことである。
シゲルたちが直接手を下すのは、学園にいるアーダムとその背後にいるであろうミランたち一派である。
そのことは既に学園長にも話をしていて、了解を貰っている。
問題は各国にまたがっている各拠点だが、これはそれぞれの国で手を下すことになっている。
肝心なのは同時に決着をつけることであり、全てをシゲルたちが手を出すつもりはない。
わざわざ各国に処分を待ってもらったのも、一部の組織の人間が逃げ延びて、再び同じようなことにならないようにするためだ。
「グラノームが言った魔族と繋がっている人物は既に対象に入っているから問題ない……はず。もし、他にいるようであればやばいかも知れないけれど……」
「流石にその可能性は少ないだろう。そうそう簡単に魔族と繋がりなど持てないさ」
シゲルの不安を払拭するようにフィロメナがそう言うと、マリーナも同意するように頷いた。
「そうね。そもそも魔族と直接やり取りできる手段は限られているでしょうから」
グラノームからの情報によると、例の組織で魔族と繋がりを持っている者は、特殊な道具を使ってやり取りをしているらしい。
そうでなければ、そうそう頻繁に大自然の壁がふさがっている魔族との話をすることなど不可能なのだ。
「ですが、一応可能性があることはそれぞれに伝えておいた方がいいでしょうね」
「勿論だ」
ラウラの確認するような言葉に、フィロメナも頷き返した。
可能性は限りなく低いとはいえ、既にやり取りするための手段を持っている以上、他に方法がないとは言い切れない。
「問題は、どうやって魔族との繋がりを持つ手段を得たかだが……これはもう、当事者に聞いてみるしかないだろうな」
過去にさかのぼって調査をすることができない以上、フィロメナが言ったとおりに当人に聞いてみるしか方法はない。
それは、組織を潰すために構成員を捕らえた際に確認するしかない。
その後、諸々の細かい話し合いをしたシゲルたちは、それぞれの国への働きかけを開始した。
そして、数日後には壊滅作戦が各国で行われることになるのであった。
お待たせしました。
次回はいよいよアーダム(とミラン)の所に乗り込みます。
……タブン。




