(19)情報集め
事の経緯の調査を学園長へとお願いしたシゲルは、自身も契約精霊たちを使ってアーダムの周辺を調べ始めた。
ただし、簡単に背後にあると思われる組織のことが分かったわけではなく、すぐに壁にぶつかってしまっていた。
「――うーん。やっぱり駄目か」
「申し訳ございません」
シゲルの言葉に、目の前にいたラグが悲しそうな顔になってそう言った。
さらに、ラグの隣に立っているリグも、少しばかり顔をしかめながら続けて言った。
「皆が駄目だったから自分でも行ってみたけれど、どうやっても引っかかるよ、あれは」
そのリグの言葉に、シゲルは面倒そうな表情になって首を左右に振った。
アーダムのことを調べ始めたラグとリグは、すぐに背後に研究室の教師であるミランが背後にいることを突き止めた。
何しろ、本人が一人になったときなどに口にしていたのだから、それは間違いない。
ところが、そのミランをさらに詳しく調べようとしたところで、大きな問題点に当たってしまったのだ。
その問題点というのは、ミランが重要そうな話をする場所に限って、精霊にとっては面倒な仕掛けが施されているのだ。
例えて言うなら、その仕掛けは地面いっぱいに鳥もちが仕掛けられているようなものだった。
人が引っかかるたとえとして鳥もちを出したが、要は精霊を捕まえるための仕掛けが隙間なく仕掛けられているのである。
勿論、ラグやリグであればその仕掛けを突破することは簡単にできる。
ただし、突破した途端に精霊が侵入したことがばれてしまって、隠れた偵察の意味をなさなくなってしまうようになっているのだ。
当然それでは、背後にいると思われる組織のことが全く分からなくなってしまう可能性がある。
そのため、ラグとリグでは、ミラン以上の繋がりを探ることができなくなっているというわけだ。
そうした仕掛けがない所ではミランの動向も見張ることができているが、やはり警戒をしているのか全くと言っていいほど有益な情報は出てきていないのである。
少し甘く見すぎていたかと反省するシゲルを見ながら、フィロメナがため息交じりに言った。
「分体とはいえ、大精霊を捕まえる仕掛けを作れるのだ。こうなることを予想してしかるべきだったな」
「仕方ないわ。私たちも初めての相手なんだもの」
フィロメナと同じような顔になりながらそう言ってきたのは、ミカエラだった。
シゲルとフィロメナは、既にほかの三人にも今回の件のことを話してある。
その上で、ラグとリグの報告を同席して聞いていたのだ。
フィロメナたちは、依頼を受けた相手を倒すということを繰り返してきただけなので、基本的には情報戦には弱いという面がある。
ただし、弱いというだけで、まったくその手段がないというわけではない。
「――仕方ない。例の手段を使うか」
少し間が空いてからフィロメナがそう言うと、ミカエラとマリーナが同時にため息をついた。
「今回の場合は仕方ないわね」
「できれば使いたくはなかったのだけれど……」
二人ともそう口にしてはいるが、それ以外に方法はないと諦めが入っている表情をしていた。
その顔を見ていたシゲルは、何か普通ではない手段があるのだろうとすぐに察した。
それが何かまでは具体的には分かっていないが、裏の手段の一つや二つを知っていても不思議ではないと考えていた。
それはラウラも同じだったようで、フィロメナ、ミカエラ、マリーナの三人の顔を順繰りに見てから言った。
「あまり使いたくない手段なのであれば、父に頼むという方法も取れますが……?」
そのラウラの申し出に、フィロメナは首を左右に振った。
「いや。使いたくないというよりも、あまり信用できないというのが正しいんだ」
「そうね。そこから情報を貰えたとしても、私たちにはそれが正しいかどうかを判断する術がないのよ」
フィロメナの言葉を捕捉するように、マリーナが続けて言った。
その説明に、シゲルとラウラが同時になるほどと頷いた。
フィロメナたちが利用しようとしている裏ギルド(のようなもの)は、情報を扱っている専門の組織である。
情報というものを商品として扱っている以上、簡単に嘘の情報を流すとは思えないが、何かの作為が働かないとは断言できない。
ことが大きくなればなるほど、そんな作為が働いても気付かなくなる可能性もある。
だからこそ、三人はあまり利用したくはないと考えているのだ。
シゲルは、渋い顔をしているフィロメナたちを見てから最後にラウラを見た。
「今回は事が事だけに、変な遠慮をする必要はないかな」
「では……?」
自分の言いたいことを察してくれたラウラが短くそう聞いてきたので、シゲルは頷き返した。
「うん。王にも頼んでみよう。それから、ホルスタットだけじゃなく、他にも色々と」
そのシゲルの言葉は、あらゆるコネ(?)を使って、絶対に逃すつもりはないという意思表示に他ならない。
シゲルの言いたいことをちゃんと理解したフィロメナは、同じように決意をしたように頷いた。
「……確かに、ここで使えるものは使わないという選択肢はないな」
「そうね。変に手を抜けば、それこそ余計な騒ぎになるわ」
そう言ったマリーナの顔を見れば、大精霊たちのことを思い浮かべていることはすぐにわかる。
そして、シゲルがさらにミカエラとラウラを見ると、他の二人と同じような表情になっていることが見て取れた。
流石に今回の件に関しては、国家に対して変な借りを作りたくないと言っていられる状況ではない。
精霊たちの力だけで解決すればそれに越したことはなかったが、状況を考えればそうもいっていられないというわけだった。
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話し合いから半月後、勇者としてのあらゆる伝手を使った結果、シゲルたちの元には様々な情報が集まっていた。
中には不正確な情報もあったが、それは期間が短いということで仕方のない面もある。
ただし、複数の情報を合わせてほぼ確実だろうというものはどんどんと集まっていた。
半月という短期間でこれほどまでの情報が集められたのは、フィロメナたちの持つ伝手のお陰もあるが、その伝手を使うための移動手段としてアマテラス号があったことがあげられる。
大陸中をこの世界の常識ではありえない速度で飛び回れるアマテラス号が、今回は特に威力を発揮したというわけだ。
シゲルたちが順調に情報を仕入れている一方で、グラノームからの情報がどうなっているかというと、途中経過を聞く限りでは同じような情報が手に入っているようだった。
ラグたちが侵入できなかった場所に関しては、精霊のお願いを聞いてくれる小動物などを使って侵入をしているようだった。
その話をグラノームから聞いたラグたちは、そんな方法もあったのかと少しばかり悔しそうな表情を浮かべていた。
この辺りは、長い間この世界で顕現し続けている大精霊としての面目躍如といったところだろう。
ちなみに、グラノームが外に出たがっていたのは、あくまでも自分の目や体で外の空気に触れたかったからである。
そして、肝心のアーダム一味がこの間に何かをしかけてくるかと思っていたが、不気味なほどに静かなままだった。
情報を集めている最中の動きからも、シゲルたちのことを警戒していることは分かっているが、特になにかを仕掛けてくるようなことも無かった。
これにはフィロメナたちも首をひねることになったが、結論としては自分たちと同じように情報を集めているのではないかということになっていた。
シゲルたちがむやみやたらとアーダムに突っかかるような真似をしないでいるのと同じように、相手の方もまずは仕掛けるための情報を集めているというわけだ。
そんな中で、グラノームから少し驚くような情報が舞い込んできた時と同じくして、シゲルとフィロメナは学園長から呼び出しを受けて学長室へと向かうのであった。
そろそろ直接対決!
……と、行きたいところですが、あともう一、二話(かな?)お待ちください。
(タブン)




