(17)作戦会議
とりあえずはシゲルの対応に任せるとグラノームが言ってくれたので、シゲルとフィロメナは早速今後について話をし――ようとしたが、すぐに止めた。
「二人だけで頭を悩ませても仕方がないだろう。ここは、マリーナたちが帰って来るまで待つべきじゃないか?」
――と、フィロメナが提案してきたためだ。
その言葉の裏には、マリーナたちも巻き込もうという意味がある。
すぐにそれを察したシゲルは、一も二もなく頷いたというわけだった。
この日、マリーナたちは狩りではなく近場での採取依頼を受けていたため、早めの時間に戻ってきた。
採取依頼は報酬自体は安いのでランクが上がればあまり好まれなくなるのだが、マリーナのように自分で調合ができるメンバーがいる場合には他の材料と合わせての採取ができるので、意外と高ランクのパーティでも受けられることがある。
それに、物によっては高ランクでなければ行けない所に生えていたりするので、以外に馬鹿にできない依頼だったりするのだ。
もっとも、この日マリーナたちが受けていた採取依頼は簡単なもので、すぐに終わって戻ってきたのだが。
「――――あら。珍しく早いわね」
そう言いながら最初に部屋に入ってきたのは、ミカエラだった。
その後すぐに、マリーナとラウラが少し驚いたような顔をしながら入ってきた。
この時には体調を戻すと言ってグラノームはいなくなっていたので、猶更不思議だったのだ。
だが、そんな不思議そうな彼女たちの顔も、すぐに真面目なものとなる。
シゲルとフィロメナが、いつもであれば軽口が返ってきそうなところを少し真剣な表情をしていたので、ある程度事態に気が付いたのだ。
それを裏付けるかのように、ラウラが少し探るように聞いてきた。
「何か地の大精霊のことで進展がありましたか?」
今のところ思いつくことといえばそれくらいしかない。
そう考えての問いかけだったが、シゲルとフィロメナが同時に頷くのを見て三人は真剣な表情になった。
マリーナたちが、身を清めて改めて腰を落ち着けたところで、シゲルとフィロメナが一通り現状の説明をした。
「――というわけで、見つかったはいいが、きっちりと片を付けなければならなくなった」
「一応こっちに任せてくれたとはいえ、あまり油断はできないかな」
フィロメナに続いてシゲルがそう言うと、ミカエラが頷いた。
「油断する必要もないけれどね」
そう言ったミカエラの顔は、完全に真顔になっている。
すでにそれなりの期間一緒にいるシゲルには、それが怒りをうちに秘めているものだということはわかる。
ミカエラにとっては、精霊をその意思に反して従えるというのは、何よりも許しがたい行為なのだ。
シゲルよりもはるかに付き合いが長いフィロメナとマリーナは、ミカエラのその感情をよく理解できる。
そもそも、ミカエラでなくとも精霊の強制契約は普通にあり得ないと思えるほどの所業なのだ。
「そうだが、問題はどうやって決着をつけるか。だな」
「そもそも、どこからどこまで繋がっているのか、きっちりと調べないといけないからね。他人任せにはできないし」
直接大精霊から任せると言われている以上は、調査も含めてしっかりと見ておかなければならない。
勿論、すべてを自分たちだけで解決するのは不可能なので、もれが起きないようにしなければ駄目なのだ。
そんな難しい条件をクリアするために、どうやってアーダムから繋がっている組織らしきものを特定するのかが一番の課題となる。
シゲルの言葉に、皆がうーんと唸るような声を上げた。
「そもそも、組織との繋がりなど調べる方法はあるのでしょうか?」
もっともな疑問を口にしたラウラに、ミカエラが答えた。
「いくつか方法がないわけではないけれど……確実なのはシゲルの力を借りることね」
「え!? 自分?」
そんな方法などまったく見当がつかないシゲルは、驚いた声を上げた。
そんなシゲルに、ミカエラが少し呆れたような視線を向けた。
「何を言っているのよ。折角特級精霊なんて稀な存在がいるんだから、頼めばいいじゃない。配下の精霊だって随分と増えたのでしょう? でも、気を付けないとミイラ取りになる可能性もあるか」
「それももちろんあるが、そもそもそんな調査などできるのか?」
「え、出来ないの?」
疑問の表情を浮かべたフィロメナに、ミカエラがそう答えながら小さく首を傾げた。
そして、女性陣の視線がシゲルへと集まり、そのシゲルは傍に立っていたラグを見た。
「出来なくはありませんが……むしろ、確実にするのであれば地の大精霊に頼まれた方がいいのではないでしょうか?」
「……そうか。全部が全部自分たちでやるのではなく、当人も関わらせてしまうのもありか。だが、体調的には大丈夫なのか?」
「聞いてみなければわかりませんが、配下の精霊を動かすくらいなら大丈夫かと」
ラグがそう言うのを聞いたフィロメナは、視線を再びシゲルへと向けた。
「あー。それじゃあ、聞いてみるか。でも、それだったら最初から頼んでおけばよかった気が……」
「それはそうだが、思いついたのが今だったからな」
いまさら言っても仕方ないと肩を竦めるフィロメナに、シゲルもそれもそうかと頷いた。
グラノームと話をしていた時には思いついていなかったので、深く突っ込むと自分にもブーメランが返って来ることになる。
ここで、妙なところで反省を始めたシゲルとフィロメナを横目に、ミカエラがラグを見ながら聞いた。
「頼むのは良いでしょうけれど、体調的には大丈夫なの?」
「配下の精霊を使うだけなら問題ないでしょう。問題があるとすれば、相手側が精霊に対抗する手段を持っていそうなことですが、それは大精霊もよくわかっていると思います」
何しろ捕まった本人なので、警戒しすぎるほどに警戒してくれるはずである。
そういう意味においては、最も適任だともいえるだろう。
グラノームに頼んでみるというのは決定事項となったところで、マリーナが疑問を口にした。
「探りを入れるのは地の大精霊様に頼むだけで大丈夫なの?」
「それは止めておいたほうがいいでしょう。できるなら複数で調べるのが確実です」
ラウラがそう提案すると、フィロメナが何度が頷いた。
「そうだな。ラグたちにも頑張ってもらうとして、あとは学園自体も巻き込もうか」
「なるほどね。それがいいか」
フィロメナの提案に、シゲルも納得顔で頷いた。
精霊の強制契約に関して学園が直接関わっているかどうかは、まだ判明していない。
あの学園長がこのことを知っているとは思えないが、それでも疑いが完全に晴れているわけではない。
それであるならば、今回の件を伝えてどういう情報を伝えてくるのか、それで判断をすればいいというわけだ。
もっとも、グラノームやラグたちが掴んだ情報で、学園が深く関わっているとすれば、学園長がどんなに清廉潔白だったとしてもただでは済まないだろうが。
例えシゲルたちが良しとしたところで、大精霊たちからの許しがもらえるとは思えないのだ。
事が精霊の強制契約に関わることだけに、シゲルたちにとっても今回の件はなあなあで終わらせるわけにはいかない。
シゲルとの関係が完全に切れるわけではないだろうが、それでも今まで通りというわけにはいかなくなるはずだ。
そうならないためにも、アーダムとその裏にいるらしき組織には、きっちりと制裁を課す必要がある。
これから色々と面倒なやり取りが出てきそうだと内心でため息をつくシゲルであった。




