(10)祠の遺物
ディーネから事前に名前を出す許可を得ていたシゲルだったが、結局使うことはなかった。
シゲルやフィロメナの予想とは違って、ユリアナがあっさりと王家管理の遺物調査の許可を出してくれたのだ。
その際のユリアナの弁は、
「駆け引きをしてもいいのだけれどね。貴方たちの場合は、変に交渉をするよりも完全に任せたほうが利益になると思うのよ」
というものだった。
その明け透けな言い方に、身内以外には感情をなかなか出さないラウラも苦笑をしていた。
そんな女王とのやり取りがあった翌日、シゲルたちは早速とばかりにノーランド王家が管理しているという遺物の調査を行った。
そして、その遺物を見たシゲルの感想はといえば――、
「あー、これは、なるほどという感じかな?」
「そうだな。失敗した。これならもっと早くに来ていればよかった」
シゲルの言葉に同意するように、フィロメナも頷きながらそう言ってきた。
他の面々も実際に言葉にはしていないが、皆一様に同じような顔になっている。
王都の外れにある立ち入り禁止区画にあるその遺物は、シゲルたちにとっては既にお馴染みになっているあの祠だったのだ。
そもそも、魔の森にあるあの祠から始まって、これまで見てきた超古代文明の遺跡には、必ずといっていいほどこの祠が存在していた。
これまでは、資料やほかの建築物の調査に追われていて、まともに注目していなかったのだが、ここまで揃うとなにかあると思ったほうがいいと考えるのは当然のことである。
祠に触れながらなにも起きないことを確認していたシゲルが、皆に聞いた。
「一応確認だけれど、なにに使っていたとかは分かっていないんだよね?」
「そうだな。修行の場として使ったのではないかと言われているがな」
フィロメナの答えに続いて、さらにマリーナが捕捉をしてきた。
「似たようなものは今でもあるのだけれど、微妙に違っているところがあって、絶対にそうだとは言い切れないみたいね」
マリーナはそう言ったが、基本的には宗教家の修練の場としての意見が、今の大勢を占めているのは紛れもない事実だ。
それゆえに、シゲルたちの目の前にある遺物は、専門家を除けばあまり注目をされて来なかったのである。
それでも、長い間過去の遺物として注目をされてきただけあって、目の前にある祠はさほど朽ちている様子はなかった。
「町の外れにある、人が数人は入れる程度の大きさのなにか、か」
その使用目的がなんであるか分からずに、シゲルはそう言いながら首を傾げた。
この場にある祠だけを見ていると、修行の場として考えられているのも無理はないとさえ思える。
シゲルの呟きを拾ったフィロメナが、その肩を軽く叩きながら言った。
「利用目的は、後回しにしよう。それよりも今は証拠を見つけるのが先だ」
「そういえばそうだったね」
現物を目の前にして、ついなんのための建物かと考えてしまったが、今回の目的はそれではない。
この遺物が超古代文明の名残だと証明できれば、フィロメナたちが唱えている説のまたとない証拠となる。
この機会を逃せば、また証拠探しに手間をかけなくてはならなくなるため、出来れば今回の調査でなんらかのとっかかりくらいは見つけたいと考えていた。
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そんな感じで始まった祠の調査だが、当たり前といえば当たり前だが、そう簡単に超古代文明の証拠となるようなものは見つからなかった。
そもそもこの祠は、一般人は立ち入り禁止となっているが、専門家は何度も入っているのだ。
その上で前史文明の遺物と考えられて来たのだから、そう簡単に証拠が見つかるとは、シゲルたちも考えていなかった。
いったん調査を終えて、近くにある適当な広場で用意しておいた弁当を食べていたシゲルたちは、午前中の調査の成果を話し合っていた。
といっても、これといった発見はなかったので、話の内容はこれからどうするかに終始していた。
「森の祠のように、地下に行くための仕掛けとかが見つかればよかったのだが……」
「残念ながら見つけられなかったね。ああ、いや別に、シロのせいってわけじゃないから」
自分の言葉を聞いて、シロが尻尾をシュンとさせたのを見つけたシゲルは、すぐにそう付け加えた。
ついでに頭を撫でてあげると、シロは嬉しそうに尻尾を振り始めた。
いつもの様子に和んだところで、ミカエラがふとなにかを思いついたように言った。
「そもそも今まで残っているからといって、なにかの目的があって建てられたと考えるほうが間違っているとかは?」
「さすがにそれはないと思います。だとすれば、これまで見つけた遺跡全てにあることの説明がつきませんから」
ラウラの反論に、ミカエラはすぐに「それもそうか」といって頷いていた。
ただの思い付きを言っただけで、なにか明確な考えを持って言ったわけではないのだ。
「いっそのこと、建物以外の証拠でも残っていればよかったんだけれどねえ」
無い物は無いので仕方ない、と続けようとしたシゲルだったが、別の方向から女性の声がしてきてそちらに注目することになった。
「それだったら城の宝物庫に預けてあるわよ?」
「ユリアナ女王」
最初に反応したのは、たまたま一番近いところに座っていたフィロメナだった。
ちなみに、フィロメナはユリアナの登場にさほど驚いておらず、話の途中で彼女が来ていることに気付いていたようだった。
ユリアナは、一旦食事の手を止めて、立ち上がって女王を迎え入れようとするシゲルたちに手を振って止めた。
「そのままでいいわよ。随分と遅い昼食ね。それよりも、ここに残っていた宝石を見てみる?」
「宝石……ですか。まさか原石のまま残っていたとかでしょうか?」
ラウラがそう聞くと、ユリアナは首を左右に振った。
「それこそ、まさかね。きちんとカットされているわよ。といっても、台座みたいなものに乗せられているけれどね。あれを祈りの対象にしていたとか、そんな感じの調査結果が出ていたんじゃないかしら?」
ユリアナの説明に、一同がなるほどと頷いた。
その様子を見て、ユリアナが提案するように言った。
「どうする? 見たいんだったらこれから許可を出すけれど?」
「それはありがたいですが、よろしいのですか?」
引き続き対応してきたラウラに、ユリアナは一度だけ頷いた。
「勿論、いいわよ。ただ、さすがに宝物庫の中に入ってもらうわけにはいかないから、あれだけ別の場所に移動して見てもらうことになるけれど」
余計な疑惑を生まないためにも、ユリアナの提案はシゲルたちにとってもありがたいものだ。
シゲルたちはすぐに了承をして、準備が出来次第向かうことにするのであった。
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準備ができるまで祠の調査を続けていたシゲルたちだったが、結局なにも見つけることはできなかった。
そして、準備ができたと伝えに来た者について行ったシゲルたちは、城にあるとある一室でその遺物と対面することになった。
「なるほど。これがその宝石とやらか」
「宝石というよりも、なにかの魔道具のように見えるけれど?」
「全く同感だ」
フィロメナとマリーナの会話に、シゲルも内心で同意していた。
その遺物は、幅と高さが一メートルほどあり、奥行きはに十センチほどの大きさだった。
前面だと思われる側には、なにやらボタンのようなでっぱりもいくつか付いている。
肝心の宝石は、上部の中央のくぼみにすっぽりと収まっている。
そして、それを見たシゲルは、思わずフィロメナを見て聞いた。
「これって、もしかしなくてもマジックトパーズだよね?」
「きちんと調べないと断言はできないが、恐らく間違いないだろうな」
シゲルの問いに、フィロメナは慎重に答えながらも頷き返した。
それだけを見れば、ユリアナが宝石だと言っていたことも理解できる。
だが、遺物の全体をみれば、ただの宝石を飾るためだけの台座だとは思えないのであった。
なんのための物なのかは、次回判明します。
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※申し訳ございません。
ちょっと時間に余裕がなくなってしまいまして、明日の更新はお休みませてください。
更新を楽しみにしてくださっている皆様には大変申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。
m(__)m
(その分、いい本になるように鋭意作業中ですw)




