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(5)友人

 フィロメナたちによって精霊育成師という名を広めて行こうということになったわけだが、彼女たちは強引にそれを行おうとしているわけではない。

 例えばシゲルの話題が出た時に、精霊使いは精霊使いでも精霊を育てられる者――精霊育成師みたいなものだというように、ちょっとした話題の一つとして出すことにしていた。

 そのため、最初にその効果が表に出始めたのは、当然というべきかラウラ周辺からだった。

 もっといえば、普段ラウラの世話をしている侍女たちの口から広まっていったのだ。

 ホルスタット王国は、タロの町に離宮を作ることを決めていたが、それは絶賛建築中になっている。

 ただし、その離宮を運営する者たちの一部は、すでにタロの町で事前準備なども含めて活動中だ。

 これまで、四六時中ラウラの傍にいたビアンナやルーナの交代要員としても動き始めている。

 その彼女たちが主となって、精霊育成師としてのシゲルの名を広め始めたのである。

 

 その一方で、フィロメナたちはといえば、手紙や知り合いを通して積極的に広めていた。

 要するに、ラウラもフィロメナたちも口コミでの拡散を狙っているのだが、今はそれで十分だとの判断だ。

 というよりも、この世界ではテレビやラジオを使って強引に広めるということができないので、それが唯一にして最大の方法なのである。

 むしろ、人々の情報源は口コミの話題くらいしかないので、それを利用するしかないともいえる。

 

 そんなフィロメナたちの活動を横目で見ながら、シゲルはふと今更ながらに思い出したことがあった。

「……考えてみれば、自分って友達が少ない?」

 この世界に来てすぐに知り合ったフィロメナ、ミカエラ、マリーナはともかく、それ以外に親しい者といえばラウラ周りの人間くらいだ。

 これまでの活動で王族周辺と知り合いになることはあったが、どう考えても友人といえる関係ではない。

 付け加えると、ミカエラ以外の三人は婚約者なので、すでに友人枠からも外れている。

 となると、本当の意味での友人といえるのは、ミカエラくらいになってしまう。

 

 そんな事実に気付いて呆然とするシゲルを見て、食事中のフィロメナたちが一度顔をそれぞれ見回してから言った。

「それは、すまないとしか言えないな」

「そうね。どちらかといえば、私たちがそうしている一面も否定できないわね」

 フィロメナに続いてマリーナがそう言うと、シゲルは慌てて首を左右に振った。

「いや、さすがにフィロメナたちのせいだけにはできないよ。冒険者として活動しているときに、作ろうと思えば作れるはずなんだし」

 シゲルはそう答えながら、ため息をついた。

 

 シゲルは現在でも、暇を見つけては冒険者としての活動を行っている。

 それは、ランクを上げるためというよりは、シゲルの趣味が入っている。

 折角異世界に来て、定番中の定番である冒険者という職業(?)になったのだから、きちんと依頼をこなしていきたいのだ。

 もっとも、物語ラノベである依頼をこなしてランクを上げて行って有名になるという話からは、すでに大幅にずれているがそれはそれだ。

 とにかく、その冒険者活動を通して、作ろうと思えば作れるはずの友人を作ってこなかったのは、シゲルの責任が大きい。

 

 悩ましい顔になっているシゲルを見ながら、ミカエラが首を傾げながら聞いてきた。

「そもそもなんだけれど、敢えて友人を作らなければならない理由ってある?」

「いいや? なんとなくそう思っただけ」

 シゲルとしては、なにがなんでも友達が欲しいと思っているわけではない。

 先ほどの台詞は、ふと思ったことが口をついて出ただけだ。

 

 シゲルのあっけらかんとしている顔を見て、フィロメナは安心したように少しだけ笑いながら言った。

「シゲルがそう思っているのであれば、別に無理して作る必要はないのではないか?」

「そうね。ただ、気の置けない同性の友人も必要だとは思うけれど……シゲルの場合は少し難しいかしら?」

 身分上は未だ一冒険者とはいえ、周囲も含めてシゲル個人の名前は既に一冒険者の枠には収まっていない。

 そう考えると、下手に近付いてくる者は、その名を利用しようとしていると思ったほうがいい。

 勿論、全員が全員そうであるとは言えないのだが、それを見極める必要があるのは確かだ。

 そうした手間が、シゲルの中で面倒になっているのは、紛れもない事実である。

 

 心配やら不安やらが入り混じったような表情で見てくる女性陣に、シゲルはあっさりと言った。

「まあ、いいや。折角上手くいっているのに、かき乱すようなものを敢えて入れる必要はないからね。必要になったらその時に考えよう」

「それが一番だろうな」

 シゲルの出した結論に、フィロメナは結局そうなるのかと頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シゲルの友人問題はともかくとして、さらに拡張した『精霊の宿屋』に関しては順調に調整が進んでいる。

 まず、中央にある桜の木を中心とした公園は、大きさは変えずに周囲を木々で覆うことにした。

 さらに他の四方向も全体的に大きくする方向で調整している。

 全てに関していえることだが、一気に広くなった分、すべてを一気に変えるわけにはいかずちょこちょこと環境を変えているのが現状だ。

 

 そんな中で、一番シゲルが頭を悩ませているのが南東側だった。

 これまで南東側には、宝物庫をはじめとして人工的な建物を置いていた。

 それらの建物はいいのだが、問題なのはここからさらにそれらを増やしていくべきかどうかが悩ましいところなのだ。

 『精霊の宿屋』がこれだけの広さになってしまえば、多少の町を作ったところで構わない。

 問題はそこではなく、別のところにある。

 

 それがなにかといえば、建物を建てるために、意外と精霊力を使うということである。

 建物というのが人工物ということもあるためなのか、大きさの割に自然物を使うよりも精霊力の消費が激しい。

 そのため、南東側に建物を置いていくと、ほかの方角の調整が進まないのだ。

 だからといって、南東側を放置しておくわけにもいかない。

 といっても、精霊力が貯まらない以上は、結局後回しにせざるを得ないのが現状なのである。

 

 さらに、シゲルが悩ましく感じていることはもう一つあった。

 その問題を解決するために、シゲルは護衛をしているノーラに話を聞くことにした。

「ねえ、ノーラ。建築資材が溢れ始めているけれど、これって使い道はあるのかな? というか、宝物庫みたいに建物を建てることはできる?」

「え? なにか作ってもいいの!?」

 シゲルの問いに、ノーラは少し驚いた様子でそう聞いてきた。

 

 その顔を見たシゲルは、内心でしまったと思っていた。

 そもそも精霊たちは、自分たちで『精霊の宿屋』の環境を勝手に変えることはしない。

 あくまでもシゲルの判断で、それぞれが動き回っているのだ。

 当然ノーラもその行動基準(?)に沿っているので、建物を作らずに資材だけが貯まっていくのは当然のことだった。

 

 自身の指示不足を反省したシゲルは、ノーラに向かって頷いた。

「そうだね。今ある材料で作れるものがあったら、どんどん作っていっていいよ。ああ、そうだ。できれば、事前にどんなものを作るかだけ教えて貰えればいいかな?」

 別にシゲルとしては、好きなものを好きなように作って貰っても構わない。

 だが、それだと無秩序に建物が増えていく可能性もありそうなので、一応事前の確認だけはしてもらうことにした。

 

 シゲルの言葉を聞いたノーラは、初めからそのつもりだったのか、すぐに頷いてきた。

「うん。わかった。ほかに注意点とかはある?」

「うーん。今はないかな。とりあえず、ノーラの好きに作って貰って構わないよ」

 どうせ詳しく聞いたとしても、きれいな町並みが作れる自信があるわけではない。

 それならば、完全にノーラに任せてしまったほうがいいだろというわけだ。

 

 一言でいえば丸投げともいうのだが、シゲルの言葉にノーラはうれしそうな顔になっていた。

 ちなみに、ノーラだったらこういう反応をするだろうという予想もあった。

 なんだかんだで、シゲルも契約精霊たちのことをよく見ているのである。

 このあたりが精霊育成師と呼ぶことになった一因だとフィロメナたちは言うのだろうが、そのことに当人は全く気付いていないのであった。

ちなみに、契約精霊たちを友人とするかは微妙なところです。

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