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(20)帰還

 グラノームから目的の物を手に入れたシゲルだったが、すぐに「はい。さようなら」というわけにはいかなかった。

 シゲル自身が物を貰うだけもらうという気にならなかったということもあるが、なによりもグラノームが話をしたがっていたように見えたからというのが大きい。

 小山程の大きさがあるグラノームは、下手をすれば動くだけで災害となる可能性がある。

 勿論、精霊だけに物理的なダメージを抑えることはできるだろうが、見た目と威圧の効果で周囲にいい影響を与えない。

 現に、途中では最高難度のダンジョンだと言われているネクロガンツ大洞窟らしく多くの魔物が襲ってきていたが、グラノームがいる辺りでは魔物の一体もいないのだ。

 グラノームもそのことをきちんと自覚しているので、洞窟の表に出ることはほとんどないのである。

 その結果、グラノームは外の情報に飢えていて、シゲルのちょっとした話題にも反応していた。

 グラノームが聞き上手だったということもあるのかもしれないが、シゲルもついノリノリで話を続けてしまっていた。

 

 結局、グラノームとの話は、小一時間ほども続いていた。

 シゲルが話をしている間に、見た目に反して(?)グラノームの性格が穏やかだと分かってきたおかげか、ミカエラを除いたメンバーも話に加わるようになっていた。

 ミカエラが大精霊を前にすると大緊張をするというのは、デフォルトの反応なので全員が気にしていなかった。

 ちなみに、最初にグラノームに慣れたのは、さすがというべきか意外というべきか、王女教育を受けたラウラだった。

 フィロメナたちほどに戦闘に明るくないというのも、いい方向に影響したのかもしれない。

 それはとにかく、グラノームとの会話は、ほかのメンバーにとっても楽しい時間となっていた。

 

 

 長い間洞窟の中にいたせいか、グラノームが知りたがったことはたくさんあったが、そろそろ引き上げようという話題が出た。

「――――そうか。残念じゃが、仕方あるまいの。それに、其方たちのお陰で、表に出れそうなヒントも貰えたからの」

 実は、この話をしている間に、自身の現身うつしみのようなものを魔法で作れるのではないかという話題がでたのだ。

 大精霊の力があるグラノームであれば、現身も容易に出来るのではないかと。

 その提案をしたのはマリーナだったが、むしろ大精霊であるグラノームがそんな簡単な方法も思いつかなかったのかと、少しだけ驚いていた。

 だが、そもそも大精霊に限らず精霊は、自身の代わりの姿を映すなんていう発想にはならないらしく、人が作っている魔法にも興味を示すことがない。

 シゲルたちにしてみれば、魔法を使って姿を小さくするくらいはできるのではと思えるのだが、精霊にはその考え自体が思い浮かばないのだ。

 結果として、今の今まで洞窟の奥で籠って生活をするということになっていたようだった。

 

 今まで話をしている間に、親しみやすさも覚えていたシゲルたちも、グラノームとの別れを惜しんだ。

 口々に別れを言う中で、最後にシゲルが言った。

「私たちも残念ですが、ずっとここにいるわけにもいきませんから……」

「分かっておるよ。それに、其方との縁もできたしの。たまに話をすることくらいはできるじゃろ?」

「まあ、そうですね」

 グラノームの言葉に、シゲルは苦笑しながらもそう返した。

 名付けをしたことで契約状態になったシゲルとグラノームは、離れた場所にいたとしても会話ができるようになっているのだ。

 グラノームから話をしたいときは、電話をするときのように合図のようなものが来るようになっている。

 

 シゲルが頷いたことに満足をしたのか、グラノームは目をわずかに細めてから他の面々を見回して、最後にシロを見ながら言った。

「其方たちと話ができて楽しかったぞ。そのお礼と言ってはなんじゃが、その白いのに、この洞窟にあるとっておきの場所を教えておいた。帰りがけにでも寄ってみるといい」

「はあ。分かりました」

 グラノームの言葉を受け取ったシゲルは、首を傾げつつもそう言いながら頷いた。

 シゲルが周りを見れば、ほかの面々も不思議そうな顔をしている。

 

 それらの顔が面白かったのか、グラノームは少しだけ笑い声をあげた。

「ホッホッホ。なにがあるかは、行ってみてのお楽しみじゃ。ここで言ってしまっては、つまらんからの」

「そうですね」

 グラノームの声色に悪戯っぽさが含まれていることに気付いたシゲルだったが、折角の申し出だったので素直に同意しておいた。

 これまでのグラノームの態度や話からも、変な罠などではないと安心しているということもある。

 こうしてシゲルたちは、最後にグラノームからお土産(?)を貰って、その場を辞するのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 グラノームからお土産の場所を教えて貰ったシロは、来た時と同じように迷いを見せることなく道を戻っていた。

 こうした洞窟になれているフィロメナたちでも、時折間違いそうになっていたので、まさしくシロ様様である。

 そして、グラノームから教えて貰った場所は、通ってきた道を本筋とすると、そこから脇に入ったところにあった。

 ただ、そのわきに入る道を見つけることが難しく、さらに幾度か分かれ道もあったので、たどり着くことは難しいだろう。

 そもそも、グラノームのいる場所に着くことも難しいはずなので、そこまで来れた者はほとんど存在していないはずだ。

 

 そして、目的地らしき場所へと着いたシゲルたちは、一様に感嘆の声を上げていた。

 ネクロガンツ大洞窟は、自然洞窟なので明かりがついているわけではない。

 当然のようにマリーナが灯した明かりがついているのだが、その明かりに反射してとある鉱物が光り輝いていたのだ。

「……これは凄いな」

 その光景を目の当たりにしたフィロメナが、思わずといった様子でそう呟きを漏らしていた。

 

 そこにあったとある鉱物は、その名前の由来になっている通りに、明かりに反射するように黄褐色に輝いている。

「これほどのマジックトパーズがある場所は、世界を探してもここだけでしょうね」

 フィロメナに続いて、各種宝石を見慣れているはずのラウラが感嘆のため息をつくようにそう言った。

 マジックトパーズとは、トパーズの一種で、特に魔力を貯めておく性質がある鉱物として知られている。

 勿論、それだけではなく、宝石としての価値も十分に高い。

 

 

 一面に広がるマジックトパーズの洞窟を前にして、シゲルたちは少しの間だけ、無言のままその光景を堪能した。

「……そろそろ行くか」

 いくら離れがたいといっても、ずっとその場にいるわけにも行かない。

 そこに入ってから十五分ほどしてからフィロメナがそう言った。

 

 シゲルは、フィロメナの言葉に頷きかけて、ふと思い出したように言った。

「これ、一つくらいは持って行ったほうがいいのかな?」

「うん? 持って行ってもいいではなく、持って行ったほうがいい、なのか?」

 シゲルの微妙な言い回しに気付いて、フィロメナがそう聞いてきた。

「うん。グラノームの言い方からすると、そんな感じがしたんだよね」

 シゲルがそう言うと、ほかの面々はほぼ同時に顔を見合わせた。

 その表情は、シゲルの言いたいことは分かったが、本当に良いのだろうかというものになっている。

 

 それらの表情に気付いたシゲルは、さらに補足するように続けた。

「持って行くのが駄目だったら、そもそもこの場所を教えたりはしていないと思うんだよね」

「そういうことね。ネクロガンツ大洞窟(ここ)にマジックトパーズの鉱脈があると教えておきたいというわけね?」

 シゲルが言いたいことに気付いたマリーナが、さらにそう付け加えてきた。

 シゲルは、グラノームがネクロガンツ大洞窟にマジックトパーズがあるということを世間に知らせて、多くの冒険者が来るようにしたいのではないかと考えたのだ。

 

 その目的は、洞窟内に発生している魔物の間引きだ。

 この場所に来るだけでも相当の魔物を倒してこなければならないだろうし、そもそも来ることすら困難だろう。

 グラノームは、魔物の間引きに関する話をシゲルたちにしていた。

 その話と合わせれば、シゲルが言っていることは間違っていないように思える。

 とはいえ、それはあくまでもシゲルの想像でしかないため、実際にグラノームがなにを考えてこの場所を教えたかはわからない。

 

 結局、ミカエラにきちんと確認するように促されたシゲルは、さっそく教えて貰った通信方法でシロを介してグラノームと会話を行うことにした。

 そして、グラノームから快諾を得たシゲルたちは、それぞれ一つずつお気に入りの原石を持ち帰ることにしたのであった。

これにて第9章は終わりになります。

第10章は、『精霊の宿屋』の拡張条件についてから始まります。

また三日空けてのスタートになりますので、次回更新まで少々お待ちください。

m(__)m

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