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(11)精霊たちの活躍

 魔物を呼び出す魔道具は、その性質から発見次第国家に報告する義務がある。

 勿論、黙っていれば見つからないのだが、下手に隠した後で見つかってしまうとそれぞれの国で重罪に課せられるため、まともに冒険者をやっている者は、すぐに報告してしまう。

 まともな使い方をする場合、自分で訓練に使う以外は、ほとんど使い道がないため、持っていても仕方ない類の魔道具なのだ。

 さらにいえば、きちんと報告をすれば大金が手に入るのも、報告を渋る必要がない要因の一つとなっている。

 そもそも、これまで見つかった数自体が少ないため、大抵の冒険者はそれと知らずに見つけて、後からその類の魔道具だったと知るというのがほとんどである。

 

 召喚の魔道具は、ホルスタット王国の闘技場には三つある。

 そのすべてを王国が買い上げて、闘技場の運営のために使われている。

 そのうちの一つが、今シゲルの目の前で使われていた。

 といっても、そこまで大きい物ではなく、シゲルの感覚で見ればブラウン管型のTVといった感じだ。

 勝手に操作されると困ったことになるので、残念ながら操作そのものをシゲルが見ることはできなかった。

 召喚の魔道具は、ホルスタット王国では操作するために特別な資格が必要になっているのである。

 

 その召喚の魔道具によって呼ばれた魔物が、シゲルの目の前に現れていた。

 どういう仕組みになっているのかは不明だが、その魔物――サイクロプスは、誰に襲い掛かるでもなく、低い声で唸りながらシゲルの方を見ている。

 シゲル自身はサイクロプスを直接見るのは初めてのため、さすがに最初は驚いていたが、不思議とやばいと思うようなことはなかった。

 それもこれも、すぐ傍にいるリグとシロのお陰だということは、シゲル自身がよく理解していた。

 これから魔物と戦うことになるということは、きちんと伝えたうえで、リグとシロが落ち着いてサイクロプスを見ているので、シゲルも落ち着いていられるのである。

 

 ちなみに、Aランクの昇級試験は、一般に公開されている。

 闘技場では賭け事も行われているので、闘者の実力は重要な情報なのだ。

 ただ、シゲルのような飛び入りの試験は、いきなり行われることが多いので、そこまで見学者は多くない。

 大抵は、闘者の情報を売っているプロの情報屋が集まるくらいだ。

 とはいえ、Aランクの試験が行われることはそこまで多くはないので、シゲルの試験にはそれ以外の者たちも集まっている。

 その者たちの多くは闘技場を生活の糧にしている闘者で、残りのごく少数がたまたま闘技場に来ていた一般の者たちが見学者の構成になっている。

 

 それらの見学者たちは、シゲルを見ながら「あれが例の……」「精霊は……」などと、会話をしていた。

 すでにシゲルが噂の精霊使いであることは広まっているのか、精霊が二体傍にいることは驚いていなかった。

 ただ、その実力までは分からないようで、どこまで戦えるのかと期待するものや不敵な視線で見てくるものなど、反応は様々だった。

 それらの視線の中で、シゲルは一度大きく深呼吸をした。

 自分自身が前に出ることはないが、シゲルが落ち着きをなくすと、精霊たちにもその動揺が伝わってしまう。

 できるだけいつも通りに指示を出すことが求められるのが、精霊使いなのである。

 

 そのシゲルの様子を見ていた判定員が、魔道具を操作している者をちらりと見てから掛け声をかけた。

「それでは、Aランク試験を開始します!」

 その掛け声と同時に、目の前にいたサイクロプスが何かの呪縛から解き放たれたように、シゲルに向かって動き出した。

 三メートル近いその巨体が、重さを感じさせることなく突っ込んでくるその様は、見る者が見れば気を失ってしまう光景だろう。

 ただ、すでに魔族の領域へ行ったり、フィロメナたちに付き合って多くの魔物と対峙してきたシゲルは、それだけで気を失うようなことはしなかった。


「リグ、シロ、頼むよ」

 シゲルが言ったのはそれだけだった。

 あとは、リグとシロが好きなように動けばいいというのがシゲルの戦い方だ。

 その指示(言葉?)に従って、リグとシロがその巨体に似合わない速さで近づいてくるサイクロプスに向かって行った。

 

 ちなみに、現在シゲルの護衛をしている精霊は、リグとシロだけではない。

 何かあったときのために、小さいサクラが懐の中に潜んでいる。

 そんなことはつゆ知らず、見学者たちはシゲルの指示によって動いたリグとシロに注目している。

 闘技場で精霊を使う者がいないわけではないが、それでも滅多にいる存在ではないので、どういう戦い方をするのかは注目の的なのだ。

 

 そのリグとシロは、見学者たちの注目を浴びていることは全く気にすることなく、真っ直ぐにサイクロプスに向かって行った。

 いくらサイクロプスの動きが素早いといっても、シロの速さには勝てるわけもなく、シゲルのところに近付いてくる前にアッという前にその距離を詰めた。

 そして、サイクロプスの足元に近付いたシロは、すぐにその足に噛みついて、その勢いのままサイクロプスを倒してしまう。

 その一瞬の出来事に、見学者たちから驚きの声が漏れた。

 

 それもそのはずで、中型犬程度の大きさの精霊が、巨体であるサイクロプスを簡単に倒せるはずがないと考えるのが常識なのだ。

 そもそもサイクロプスは、見た目通りの怪力が売りの魔物で、普通に戦っていては倒すことすらままならない。

 それを、あっという間に倒してしまったのだから、見学者たちが驚くのも無理はない。

 実際にサイクロプスに土を付けたシロが、相当の力を持っていることが、それだけでも十分にわかる。

 

 その一方で、シゲルは驚きはしていなかったが、戸惑っていた。

 まさかこんな簡単に、サイクロプスが倒れるとは思っていなかったのだ。

 それはシロやリグも同じだったようで、少しだけ間が空いていた。

 ただ、その間は、倒れた衝撃で目を回しているサイクロプスが回復するよりも短く、シロはすぐにその喉元へと躍りかかっていた。

 リグは魔法を使うことはなく、シロがしていることを見守っている。

 下手に魔法を使うとサイクロプスが正気を取り戻しかねないということもあるが、シロだけで倒せるのであれば問題ないと考えているためだ。

 

 そして、サイクロプスの首元に噛みついたシロは、そのまま息を止めるために噛み続けていた。

 さすがにその時にはサイクロプも正気を取り戻していたが、時すでに遅し。

 どうにかシロの噛みつきをはがそうともがいたが、それができたのは一度だけだった。

 それまで黙ってみていたリグが魔法を使って、サイクロプスの巨体を見えない空気の紐で地面に縛り付けたのである。

 

 サイクロプスの自由がなくなってしまえば、あとはシロの独壇場だった。

 ただ噛みついているだけではなく、時折ひねったりを繰り返したりして、ついにはサイクロプスの抵抗もだんだん弱くなっていった。

 それでもサイクロプスの体力は相当なもので、その状態は十分以上続いた。

 それでもサイクロプスにできることは何もなく、倒されたままの状態でその活動を終えることになるのであった。

 

 

 少し離れたところでその様子を見守っていたシゲルは、少しバツが悪そうな顔で周囲を見回した。

 自分の実力を試すための試験なのに、どうにも締まらない結果になったと考えていたのだ。

 現に、判定員を含めて、見学者たちはその結果に声を失っている。

 付け加えると、フィロメナたちは笑いをかみ殺すような表情になっていた。

 

 その結果をもたらした張本人であるシロは、嬉しそうにシゲルに向かって尻尾を振っている。

「シゲル……」

 何やら言いたげな顔でそう言ってきたリグを見て、首を左右に振ったシゲルは、シロに近付いて行って首筋を撫でた。

 それを受けて、シロはますます嬉しそうに尻尾をブンブンと動かし始めた。

 

 それらの一連の作業(?)を終えたシゲルは、未だに言葉を失っている判定員を見た。

「あのー。まだ戦うのでしょうか?」

 シゲルがそう声をかけると、判定員はハッとした表情になってから右手を挙げながら宣言をした。

「勝者シゲル!」

 その声と共に、言葉を失っていた見学者から騒めきと「ウオー」という声が上がった。

 それは、誰がどう見ても文句のないその結果に、すごい新人が現れたという反応だった。

冒険者ギルドでは、サイクロプスはAランク設定ですが、1パーティ(六人)で複数体(最低2~3体)を倒すことが求められます。

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