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(17)シゲルとラウラの要求

 王都へと着いたシゲルたちは、城門にたどり着いたときには、迎えの馬車が出迎えていた。

 どうやら門では、アマテラス号が見えたら対応するように言われているようで、シゲルたちは検問などもなしで、馬車に乗り込んで城へと向かうことになった。

 その際に、今度からは門まで歩いてこずに、そのままアマテラス号で馬車を待っているように言われたのは、それだけシゲルたちを重視しているということの表れだった。

 まあ、一国の王女をそんな簡単にふらふらさせるわけにはいかないという意図は理解できるので、おとなしく言われるがままにしておいた。

 だったら普段は割と簡単に町中を歩かせているが、それはどうなんだという突っ込みがありそうだが、シゲルは敢えてそれには気付いていないふりをしている。

 さすがに王城がある王都で、王の娘を徒歩で城まで歩かせるわけにはいかないという、体面的なものだと割り切っているのだ。

 

 久しぶりに馬車に揺られながら王城に入ったシゲルたちは、そのまま元のラウラの部屋へと通された。

 ラウラの部屋は、王の指示でいつでも戻ってきても使えるようにと、常にメンテナンスがされているのだ。

 ちなみに、部屋に入った時点で、以前に仕えていた侍女たちに出迎えられたため、ビアンナとルーナは別室へと通されていた。

 シゲルはセットと考えられているのか、ラウラの部屋へと通された形になっている。

 

 侍女たちから挨拶を受けたラウラは、そのまま王への面会手続きを申し込んだ。

 いくらラウラが王女であり、歓待されているとはいっても、一国の王にすぐに会えるわけではない。

 その辺りの作法(?)は、シゲルにはさっぱりなので、完全にラウラに任せっきりにしている。

 そしてシゲルは、久しぶりに会った侍女たちと軽い会話をしているラウラを見ながら時間を過ごしていた。

 時折会話の中で探りを入れられているような話題も出てきていたが、ラウラは適当にかわしながら話をしていた。

 それを見ていたシゲルは、さすがにきちんとした教育を受けているなあと、内心で感心していた。

 

 

 ラウラは、王との面会の手続きをする際に、事前に用意しておいた手紙を渡しておいた。

 最初からすぐに会えるわけではないと分かっていたので、今回城にまできた理由を簡単にまとめて書いておいたのだ。

 その手紙が功を奏したのか、一国の王と会うには考えられないほど早く、シゲルたちは別室へと呼ばれることになった。

 しかもその部屋には、最初からラダ王妃と王太子であるカイン王子が待っていた。

 アドルフ王は忙しいのか、シゲルたちが部屋に入ったときにはまだいなかった。

 

 部屋に到着したことを告げられてからシゲルたちが中に入ると、幾人かの護衛と共にラダ王妃とカイン王子が立って出迎えてくれた。

 そして、なぜかラウラを見るなり、ラダが頬に手を当てながらこんなことを言ってきた。

「あらあら、まあまあ。まさかラウラが、こんな表情をするようになるとは思いませんでしたわ」

 ラダの言葉に、カイン王子が微妙に悔しそうな顔になり、ラウラはえっと少しだけ驚いたように、頬に手を当てた。

「そんなに変わっているとは思わないのですが……」

「何を言っているのですか。今のあなたがパーティに出れば、人形のようだと言うものなど、一人もいないでしょう」

 ラダの言葉に、カインがコクコクと何度か頷いていた。

 

 美姫として有名なラウラではあるが、当然ながら百パーセントの人が礼賛していたわけではない。

 中には、あまり表情を変えることのなかったラウラを指して、人形のような美しさだと揶揄する者もいた。

 その大半は妬みのようなものが混じってのことだが、それでも否定できない部分があるからこそ、一部の者たちには受け入れられていたのだ。

 ちなみにラウラは、ずっと無表情でいたわけではなく、感情を表に出すこともあったが、普通と比べて少なかった。

 表情豊かなラウラしか知らないシゲルからすればピンと来ない事実だったが、少しだけ恥ずかしそうな顔になって自分を見てくるラウラを見て、それが事実なのだと今になって知った。

 

 シゲルとラウラのちょっとしたやり取りを見て、ラダは微笑みを浮かべながらさらに続けた。

「本当に。送り出したときはどうなることかと不安に思うこともありましたが、今となっては王の英断と断言できますわね」

「そうだと嬉しいです」

 嬉しそうな顔は変わっていなかったラウラだったが、その曖昧な返答に、ラダは少しだけ首を傾げた。

 ここではっきりと断言してこないということは、どこか懸念点があるということだ。

 

 勿論、ラウラは敢えてそういう返答をしていた。

 本来ならば主役である王がいないと話せないことに踏み込むことになるので、あえて事前にちょっとした情報を与えて、何かがあると考えさせるようにしたのだ。

 家族であってもそんな気をつかって話をしなければならないのかとも思うシゲルだったが、考えてみればそうしたことは以前の世界でも変わらない。

 むしろ、子供の頃ならともかく、家族だからといって何でもかんでもすべてを話す者のほうが少ないはずである。

 

 

 簡単な挨拶を終えた後は、きちんと椅子に座って、近況などを話し始めた。

 といっても、大精霊に関わる部分は、曖昧に省略してある。

 特に、魔族の領域に行ったことは、話はしていない。

 ラダやカインも、古代遺跡に興味があるのか、そちらに質問が集中していた。

 もっとも、ラウラが行ったことのある遺跡は、アマテラス号のドックだけなので、そこで見たことを話していた。

 それでも興味深い事実が出てきているのか、ラダやカインは楽しそうに話をしていた。

 

 その一方で、ラウラも家族の近況について話を聞いていた。

 もっとも、国の運営に関わるような深い部分は、ラウラは聞かないし、ラダやカインも話すことはしない。

 それでも兄弟たちの最近の様子を聞けるのが嬉しかったのか、ラウラも嬉しそうに話をしていた。

 シゲルは、そんな彼女ラウラの様子を、口を挟むことなく、聞く専門になって話を聞いていた。

 

 

 そんなことをしているうちに、ようやく時間を作ることができたのか、アドルフ王が部屋に入ってきた。

「なんだ。随分と楽しそう……ほう。なるほど。其方に預けた甲斐があったようだな」

 アドルフは、シゲルとラウラを一目見るなりそう言ってきた。

 その顔を見れば、先ほどのラダと同じようなことを言いたいことが、すぐにわかった。

「父上もですか」

 少しだけラウラがうんざりした表情でそう言うと、アドルフはカカとわざとらしく笑った。

「別に悪い意味ではないのだからいいだろう? そんなことよりも、立っていないで座ろうか」

 ラウラの軽い抗議をそんなことで流したアドルフは、立っていたシゲルたちを促して、自身も椅子に座った。

 

 アドルフは、全員が腰を落ち着けたのを確認してからもう一度シゲルとラウラを見て話し始めた。

「さて。娘の変化は喜ばしいことだが、それとこれとは話が別だ。――本気か?」

 アドルフはそう言いながらラウラが事前に渡していた手紙を机の上に置いた。

「ああ、先に言っておくが、ラダやカインにはまだ見せていない。時間が足りなかったからな」

「そうですか。それはいいのですが――」

 ラウラは一度頷いてから真っ直ぐにアドルフを見て言った。

「本気です」

 ラウラがそう言った瞬間、シゲルはアドルフの纏う雰囲気が変わったことが分かった。

 これまでは一人の家族としての雰囲気だったのが、一国を背負う立場にある者としてのものに変わったのだ。

 ラダやカインもそのことが分かったのか、黙ってラウラとアドルフを見ている。

 

 そのアドルフに対して、ラウラは特に緊張をするでもなく、いつもの自然体のまま続けた。

「こちらも勘違いされないように先に言っておきますが、その提案は、国のことを思ってのことです」

 ラウラがそう言うと、アドルフはいぶかし気な表情になった。

「どういうことだ? これを見る限りでは、どう考えても国に利があるとは思えないが?」

 アドルフはそう言いながら、手紙をラダへと渡した。

 とりあえず、口で説明するよりも、この場で見せたほうが早いだろうと判断してのことだ。

 ラウラとしても最初から知ってもらうつもりで、わざわざ書面にしていたので、それを止めることはしなかった。

 それどころか、ラダとカインがしっかりと目を通すのを待っていた。

 

 書面の中には、国としては受け入れがたいというような内容が書かれていた。

 簡単に言えば、ラウラの王女としての立場はそのままに、国の干渉を一切断るというようなことだ。

 もしその内容が知られれば、ほかの貴族たちは何様だと怒りだすだろう。

 それらの内容は、シゲルが大精霊メリヤージュと話をしてから決めていた。

 というのも、シゲルから話を聞いたメリヤージュが、面白そうだと乗ってきたのだ。

 その上で、シゲルとラウラが話を詰めていき、そんな普通ではありえないような内容になったのである。

 

 とはいえ、王族の婚姻は国のために行われるのが原則である。

 そんなことは百も承知の上で、ラウラはこの提案を前もって出したのだ。

 通常であれば、そんな無茶な要求は通るはずがないのだが、むしろアドルフはこの要求を必ず飲むだろうと確信してのことだった。

なぜいきなりこんな強気な要求を出すのか。

答えは次話です。

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