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(5)精霊の能力

 アグニのお陰で結界を越えることが出来たシゲルは、全く変わらない光景に首を傾げた。

「アグニを疑うわけじゃないけれど、本当に結界越えているよね、これ?」

「……気持ちは分かるが、越えているぞ。というか、そろそろシゲルの力でも見分けることが出来ているんじゃないのか?」

 フィロメナの言った通りだ。

 何となく「越えた」という感覚はシゲルにもあったのだが、余りにも結界の手前で見ていた光景と変わっていなかったので、自身の感覚を疑ってしまったのだ。

 別に結界があるからといって、大きな変化があるとは限らない。

 というよりも、そういった変化がある方が手間もかかるので数が少ない。

 シゲルの場合は、特殊な例を見てきたので、むしろ一般的な常識ではないのだ。

 

 とにかく、結界を抜けたことは間違いないということで、一行は洞窟の先を進み始めた。

 そして、十分もしないうちに、その洞窟の本来の姿(?)を感じることになった。

「――――熱いな」

 フィロメナが思わずそう呟けば、隣を歩いていたミカエラも頷いた。

「同感。これは、間違いなくあれがあるわね」

「あの結界は、これを隠すためかしら?」

 ミカエラに続いてマリーナがそう問いかけてきたが、その答えを持っている者はいなかった。

 勿論、マリーナもそれがわかった上で、敢えてその質問をしたのだ。

 結局、疑問は解消されないまま、シゲルたちは歩みを進めた。

 

 しばらく歩いていても、温度が下がることはなかった。

 それどころか、歩みを進めるごとに周囲の気温が上がって来ている。

「――近付いてきている証拠でしょうけれど、流石にそろそろ限界ね。耐性魔法を付与するわね」

「そうだなそれが――「あ、ちょっと待って」――なんだ?」

 マリーナの提案にフィロメナが頷きかけたところをシゲルが止めた。

 

 付与魔法で熱を防ぐことが出来ることはシゲルも知っているが、常時展開するにはそれだけ魔力を使うということも知っていた。

 それだといざという時のマリーナの負担が大きすぎるので、シゲルは別の方策を取ろうとしていた。

「アグニ。この熱を防ぐための魔法って使えるかな?」

 今までそんな魔法を使えるかどうかは確認していなかったのだが、火の精霊であるアグニであればもしかしたら使えるかも知れないと考えての確認だった。

 

 だが、アグニがシゲルのその問いに答えるよりも先に、ラグがシゲルを見ながら言ってきた。

「シゲル様。もしよろしければ私が使いますが?」

「ああ、いや。ラグはいざというときの為に手を空けておきたいから、今はアグニのほうが良いかな? 勿論、使えない場合はお願いするけれど」

 シゲルがそう答えると、ラグはわかりましたと頷いてからアグニを見た。

 そして、皆の視線を集めることになったアグニはといえば、シゲルを見ながら嬉しそうに目を細めていた。

 

 その仕草の意味をすぐに理解したシゲルは、アグニを見ながら言った。

「そう。だったらお願い」

 シゲルがそう言った瞬間、フッと周囲の気温が下がった。

 まさしくその気温は適温になっていて、最初からこうしてもらえればよかったと後悔するほどだ。

 シゲルがありがとうと言いながら頭をなでると、アグニはペロリとその手を舐めてくる。

 シゲルは、それを避けようとせずに、素直に舐められるままにしておいた。

 

 シゲルとアグニの様子を目を細めながら見ていたフィロメナは、一度だけため息をついた。

「アグニのお陰で助かったな。これでいつも通りこの先も進める」

「そのとおりね。私も助かったし、有難うアグニ」

 耐熱の魔法は、マリーナにとっては大した負担ではないのだが、それでも時間によっては何度も掛けなければならなくなる。

 それが防げると知れただけでも、大きな成果だった。

 

 

 そんなことがありつつ一本道の洞窟を進んで行くと、ついに熱源の正体であるマグマが姿を見せた。

 アグニの魔法のお陰で熱はほとんど感じていないが、普通であればここまで近づくことなど出来ないはずだ。

 一応シゲルは、横を着いて来ているアグニの様子を確認しながら歩いていたのだが、特に変わった様子を見せていなかった。

「ここまで効果が続いているのは、流石といったところかしらね?」

 マリーナが確認するようにそう言ってきたのを聞いて、シゲルはコクリと頷いた。

 

 耐熱の魔法は、術者によっても変わって来るが、そこまで長時間続くようなものではない。

 それが、アグニの場合は、今のところ一度もかけ直したりといった様子は全く見られなかった。

 それがどれほどすごいことなのかは、魔法を使えるマリーナがよく理解している。

 火の精霊であれば、これくらいのことは普通なのか、それともアグニが特殊なのかは分からないが、非常に便利であることには違いない。

 

 ここで、マリーナの言葉を聞いて少し考えるような顔をしていたラウラが、ミカエラを見ながら聞いて来た。

「質問なのですが、中級精霊はこのような魔法は使えるのですか?」

「勿論使えるわよ。ただし、相当腕がいい部類に入るはずだけれど」

 ミカエラは肩を竦めながらシゲルを見てきた。

 精霊の能力をきっちりと引き出せるかは、契約している術者の力によるものが大きい。

 ところが、シゲルの場合は、単にアグニに「お願い」をしただけなので、シゲル自身の能力かといわれれば微妙なところがある。

 その辺りは、普段のシゲルと契約精霊たちの間の普段のコミュニケーションのお陰ではないかと、最近のミカエラは考えるようになっていた。

 

 ただ、ラウラが考えていたのは、ミカエラとはまた別のことだった。

「そうだとすると、シゲルさんの契約精霊は、もしかしたらまずは護衛に特化しているのかもしれませんね。……特化は言い過ぎかもしれませんが」

「どういうことよ?」

 疑問の表情になりながらラウラを見たミカエルだったが、それに答えたのはフィロメナだった。

「なるほど。確かに、言われてみればそういう傾向は、あるかも知れないな」

 今シゲルの傍を歩いているラグやアグニ以外の精霊を思い浮かべたフィロメナは、納得した顔で頷いていた。

 

 そもそも最初の時から契約精霊のどれかが、シゲルの傍にいて護衛についていた。

 それ自体は『精霊の宿屋』の仕様だとしても、能力がなければできないのも確かである。

 後から追加された精霊も、そうした能力があることを前提に選ばれているという可能性もあるだろう。

 

 ラウラとフィロメナの話を聞いて、そんなことを考えたシゲルは、ふとラグを見ながら聞いた。

「ということなんだけれど、実際はどうなの?」

 折角なのだから、答えを持っているはずのラグに聞いたほうが早い。

「そうですね。私たちの場合はともかく、ノーラやアグニはそうした能力を持つ者を最初から選んでいます」

 その明確な回答に、一同はやっぱりかという顔になった。

 そもそもノーラやアグニは、『精霊の宿屋』のシステムで選んだわけではなく、ラグたちが選んできた精霊をさらにシゲルが選んでいる。

 シゲルの護衛を出来る能力を持った精霊を選ぶのは、普段のラグたちの行動を見ていれば、良くわかることだ。

 

 ラグの答えにある疑問が湧いて来たミカエラが、更に問いかけた。

「そういうのって、契約する前から分かるものなの? 精霊が持つ能力を引き出せるかは、術者次第よね?」

「そうなのかもしれませんが、シゲル様ですから」

「あー、そういうことね」

 きっぱりとしたラグの返答に、ミカエラは少しだけ呆れつつ肩を竦めた。

 普段のラグを見ていればその答えが返って来ることが予想できたのに、気付けなかったミカエラの負けだ。

 

 ミカエラの様子を見て笑っていたフィロメナが、今度はシゲルを見ながら言った。

「まあ、そういうわけだ。シゲルは、ラグたちに感謝しないといけないな」

「何を今更。ラグたちがいなければ、自分がこんなにのんびりと旅ができているなんて、思っていないよ」

 心の底からそう思っているからこそ、シゲルはあっさりとそう答えることが出来た。

 実際、魔法の腕は伸ばしているが、シゲル自身はそこまで強くなっているとは言えない。

 そのことを良く理解しているからこそ、今のところシゲルは勘違いすることがない。

 精霊の強さが、そのまま自分自身の力だと勘違いするような輩にはならないと思っているからこそ、冷静に自分の力も見極められているのである。

 

 

 そんな会話もしつつ、シゲルたちは順調に洞窟内を進んで行っていた。

 これまで分岐点になるような分かれ道もなかったため、迷うようなこともなかった。

 そして、川のようになっている溶岩だまりを見つけてからしばらくして、ようやく目的地らしき場所へとシゲルたちは足を踏み入れることになるのであった。

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