表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/340

(11)戸惑う姫君、精霊の現状

 クルリ、ボムッ、サッ、クルリ→以下ループ。

 

「なあ、ビアンナ。傍で見ている分には面白くていいのだが、流石に気の毒になってきたぞ? どうにかならないのか、あれ?」

「どうでしょう? 何しろ姫様にとっては、人生で初めての経験ですからね。しばらくすれば落ち着くとは思うのですが……」

 ラウラを見ていたフィロメナとビアンナが、そんな会話をしていた。

 両者ともに呆れが入っているのは、仕方のないことだろう。

 何しろラウラは、昨日からずっと同じようなことを繰り返していて、全く改善する様子を見せていないのだ。

 最初のうちは微笑ましく見守っていたフィロメナだったが、流石にここまでくると痛々しく見えてくる。

 

 ビアンナとの会話で自分の気持ちに気付くことが出来たラウラだったが、それ以降、シゲルの顔を見ては顔を赤くして視線を逸らすということを繰り返している。

 さすがにそこまであからさまだとフィロメナも気付かないはずがなく、今もって改善していないラウラを見て、ビアンナに確認したというわけだ。

 そんなフィロメナに向かって、ミカエラが揶揄うような視線を向けて言った。

「あら、何を言っているのよ? フィーだって、似たようなものだったじゃない」

「そそ、そんなことはないぞ!? ……はずだぞ? はず、だよな?」

 最後の方は自信なさげな顔になって、フィロメナはマリーナを見た。

 

 フィロメナから視線を向けられたマリーナは、クスリと笑ってから答えた。

「残念ながら、今回はミカエラのほうが正しいわね」

「マリーナ!?」

 僅かに悲鳴のような声を上げたフィロメナに、ミカエラとマリーナは笑い出した。

 それを見て、フィロメナはわずかに肩を落として続ける。

「……そうか。傍から見るとこう見えるわけか。…………なんといえばいいのか……」

「別に何か言う必要はないわよ。こういうときは、黙って見守っているのが一番。それは、フィーもよくわかっているでしょう?」

 悩ましそうな顔になっているフィロメナに、マリーナがそう返してきた。

 フィロメナもマリーナも長い短いの差はあるにしろ、同じような経験があるだけに、ラウラの状態はそれなりに理解することが出来るのだ。

 

 

 そんな会話をしていたフィロメナたちのところに、シゲルが近寄って来てこそこそと話し始めた。

 勿論、少しだけ離れたところにいるラウラに、声が聞こえないようにするためだ。

「他人事のように話しているけれど、どうにか出来ないのかな、あれ?」

「あら。何を仰っているのですか。ある意味、望み通りになったのですから、ここから先はシゲル様が責任を取るべきです」

 きっぱりとそう言い切ってきたビアンナに、シゲルは何ともいえない顔になった。

「望み通りって……これはさすがに……いや、それはちょっと卑怯か」

 首を振りながらそう言ったシゲルに、ビアンナはニコリと笑い返した。

 

 ラウラがここまであからさまな態度をとっているので、シゲルも彼女がどういう状態なのかは確認しなくてもいい。

 厄介なことに(?)、それを嬉しいと思っている自分がいることも確かなのだ。

 そもそも、一緒に暮らすようになってからしばらく経つが、性格も容姿もなにも文句がないということは十分にわかっている。

 それどころか、巷に広まっているという噂の通りに、ラウラは『瑠璃姫』と呼ばれるにふさわしい人物なのだ。

 

 そんな非の打ち所がない女性に好意を向けられて、シゲルとしても悪い気がしないのは、当たり前のことだ。

 以前にあんな話をした以上は、ビアンナが言う「責任を取る」必要があることも理解していた。

「うーん。といっても、あの状態をすぐに直す方法なんて、さすがに分からないよ?」

 シゲルがそう言いながらラウラに視線を向けると、こちらの様子を窺っていたラウラの顔が赤くなり、視線を逸らされた。

 今のラウラの心境としては、話の内容は気になっているが、わざわざ近寄って来て聞きに来るのが怖いと言ったところなのだ。

 

 シゲルの言葉に、ビアンナがキョトンとした顔になって聞いた。

「落ち着くまであのままでよろしいのではありませんか? 無理に直そうとするとこじらせると聞いたことがありますよ?」

「こじらせるって……いやまあ、間違ってはいないと思うけれど、もうちょっと別の表現が……」

 シゲルはそう言いながらも声を小さくしていった。

 ここでそんなことを言っても仕方ないと思い直したのだ。

「そんなことよりも、ラウラがあんな状態で、この先の話し合いは出来るの?」

「その辺りは問題ないと思います。伊達に王族教育は受けていらっしゃいませんから」

 ビアンナがきっぱりとそう言い切ったので、シゲルはどうにか納得して頷いた。

 実際のところは半信半疑だったのだが、結局この後に行われた今後についての話し合いでラウラの挙動不審がなりを潜めているのを見て、教育ってやっぱり恐ろしいなと思い直すシゲルなのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 今後の古代遺跡について各国に広める旅については、十分に準備を行ってから一気に行くことになった。

 回る国は後三つくらいで十分だろうということになったので、そのための資料を主にフィロメナが用意することになったのだ。

 そのため、シゲルには空き時間ができていた。

 折角なので、その時間を利用して、『精霊の宿屋』の確認をすることにした。

 

 まず精霊たちだが、初期精霊の三体は順調に成長していて、上級Gランクまで上がっている。

 周辺探索で採取してくる物も、魔物との戦闘も十分すぎるほどの活躍を見せていて、正直シゲルの出番はないほどになっている。

 さらに、新たに加わった土の精霊のノーラは、中級Bランクとこちらもきちんと成長していた。

 問題なのは、中級Aランクで止まったままのサクラとスイだ。

 最近上がったばかりのスイはともかく、サクラはずっとそのランクで足踏みしたままである。

 

「うーん…………。上がらないのはいいとして、なぜ上がらないのか分からないのが問題なんだよなあ……」

 画面を見ていて思わずそう呟いたシゲルに、護衛についていたリグが反応した。

「シゲルは、私たちのランクが上がらないと気になる?」

「いや、そんなことはないよ。別に今のままでも困ったことがあるわけじゃないし」

「そうなの?」

 シゲルが『精霊の宿屋』のシステム画面を見ながら悩ましい声を上げているところを見ているリグとしては、少し不思議な感じがしたのか、首を傾げている。

 

 そのリグに、シゲルは一度頷いてから言った。

「そうなんだよ。『精霊の宿屋』の管理もちゃんと出来ているからね。ただ、折角成長することが分かっているのに、成長させてあげられないのが残念かな?」

 サクラとスイのランクは、既に上級精霊になることが出来ると示すように、その表示がされていた。

 それでもランクアップしていないのは、何か問題があるからだとわかっている。

 だとすれば、その方法を見つけてあげるのが自分の役目だと考えているので、シゲルは悩ましい顔をしているのだ。

 

 不満そうな顔になっているシゲルを見て、リグが慌てて首を振った。

「スイもサクラも、ちゃんとシゲルには感謝しているよ! だから別に残念に思う必要はないと思う!」

「そうなの?」

「うん!」

 初めて聞く話にシゲルが聞き返すと、リグは元気よく頷いていた。

 

 どうやらリグに気を使わせてしまったらしいと察したシゲルは、笑いながら続けた。

「そういうことなら、焦らずにのんびりとやっていくか。ああ、そうだ。ついでだから、自分は不満を持っているわけじゃないと伝えておいて。特にサクラには」

 サクラは、画面を通してしか見ることが出来ない。

 そのため、なかなか感情を察することも難しいのだ。

「わかった!」

 シゲルの言葉に、リグが嬉しそうな顔になって頷いていた。

 リグにとっては、シゲルがきちんとそれぞれの精霊を気にかけてくれているのが嬉しいのである。

 

 

 その後のシゲルは、リグと軽く会話をしながら『精霊の宿屋』の調整を行った。

 箱庭内は大きな変化を加えていないが、きちんとバランスが良くなるように細かい変更を加えたのだ。

 特に、植物に関しては、一つの種類に偏らないように、気を付けて植えている。

 以前の狭かった世界であればそれでも良かったのだが、これだけ広くなれば、病気などのことも考えると一種類に偏らせるのは得策ではない。

 それらの変更を行ったシゲルは、その日の夕食を作るために、自室を出ていくのであった。

初期精霊三体は順調、サクラとスイは足踏み状態です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ