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(6)ホルスタット王国の次は

 エルフの里からフィロメナの家に戻ったシゲルたちは、次の目的地について話し合っていた。

 そんな中で、ラウラが控えめにこんなことを言い出してきた。

「あの、ゲルリオン帝国が候補に上がっていないようなのですが?」

 ラウラのその言葉に、フィロメナたちの口がピタリと止まった。

 シゲルは、アマテラス号を手に入れる前の旅の間に、ゲルリオン帝国のことを聞いていた。

 だからこそ、ラウラからその名前が出たことが意外だった。

「いや、そうなんだけれど、ゲルリオン帝国ってホルスタット王国と仲が悪いんだよね?」

 これが、フィロメナたちがゲルリオン帝国を候補に上げていなかった一番の理由だ。

 

 シゲルの言葉で自分に視線が向いたことに気付いたラウラは、首を左右に振った。

「わたくしのことを気にされているのでしたら無用の心配です。というよりも、むしろ、だからこそ先にゲルリオン帝国に行くべきだと思います」

「……どういうこと?」

 シゲルは、そう言いながら首を傾げた。

 不思議そうな顔になっているのはそのシゲルだけではなく、フィロメナたちも同じだ。

 

 ホルスタット王国とゲルリオン帝国の仲が悪いのは、今に始まったことではなく昔からのことだが、ここ最近は特に悪いムードが漂っていた。

 その理由が、ゲルリオン帝国の第二皇子がラウラ姫に求婚をしたことから始まっている。

 ラウラがシゲルの元にいる時点で分かるように、ホルスタット王国はその求婚を断っている。

 それは、第二皇子であるグフタスの女癖が悪いということから始まっていた。

 

 もともとホルスタットの王家もその話を断るつもりでいたのだが、決め手になったのは、その話が一般の民衆に広まったときに反発の声が上がったことだ。

 これによりホルスタットの王家は大手を振ってお断りの連絡を入れたのだが、ゲルリオン帝国は当然というべきか納得しなかった。

 両国の関係を良くするためにもこの話は受けるべきなど、様々な理由をつけてはホルスタット王国に打診をして来た。

 その中心に第二皇子の姿があるのは、ホルスタットの王家も気付いていた。

 だからこそホルスタット王国もその話を断り続けて、今に至っているのである。

 

 関係が悪い国に敢えて行くというラウラの真意が分からずに、シゲルたちが首を傾げるのも無理はないだろう。

「シゲルさんたちは、味噌や醤油のことはともかく、これから古代文明についての話を各国にしに行かれるのですよね?」

「それは、まあ」

 そう言って頷くシゲルを見ながらラウラがさらに続けた。

「どの国にも平等に話をしに行かれるつもりなのでしたら、次にゲルリオン帝国に行っておくのは、今後の為になると思われます」


 シゲルたちは、自分たちが見つけた古代文明のことを、大陸中に広めようとしている。

 そのためには、国をえり好みせずに、出来るだけ多くの国と話をする必要があった。

 勿論、全ての国を回るつもりはないし、そんなことはできないだろう。

 それでも、両手で数えられるくらいの数は行っておきたいというのが、当初からの予定だった。

 ただし、そこにはゲルリオン帝国は候補とした上がっていなかった。

 それは、ホルスタット王国との関係を考えてのことだけではなく、フィロメナたちが王族との繋がりが薄いということも要因の一つとして上げられる。

 

「――直接王族と話が出来るかどうかは分からないことを気にされているようですが、今回の場合そこはあまり重要ではないのですよ」

 ラウラがそう言うと、ここでようやくマリーナが息をつくように言った。

「そういうことね。要は、私たちが話を持って行ったということのほうが重要なのね?」

「そうです。フィロメナさんたちと関係が濃い国に話を持っていて広めても、それは単に身内で騒いているだけということになりかねません。それを避けるためにも、次はゲルリオン帝国が良いのです。勿論、結果いかんにかかわらず、です」

 ラウラがそう言って一同を見回すと、全員が納得した顔になっていた。

 

 フィロメナたちはこれまで、話が伝えやすい所から広めて行ったほうが、世界中に広まり易いと考えていた。

 それに対して、ラウラの意見は、むしろどんな国でも平等に(?)伝えて行ったほうが良いというほとんど真逆の考え方だった。

 ラウラの言葉には一理も二理もある。

 だが、その考え方に問題が無いわけではない。

 

 そのことに気付いたフィロメナが、少しだけ首を傾げながら聞いた。

「言いたいことは理解できたが、それをやると古代文明の話が嘘だと断言されないか?」

「それはどこの国に持っていっても起こり得ることです。幸いホルスタット王国では前向きに検討されておりますが、全てがそうなるとは考えていたわけではないですよね?」

「それはまあ、そうだな」

 ラウラの問いかけに、フィロメナはすぐに頷いた。

 いくらアマテラス号という証拠があるからといっても、超古代文明があったなんてことは、受け入れないところは受け入れないだろうとは予想ができていた。

 むしろホルスタット王国では、上手くいったほうだと考えているくらいだ。

 

 歯切れが悪くなったフィロメナに、ラウラがさらに続けて言った。

「それでしたら、どこへ話をしに行ってもあまり状況は変わらないかと思います。シゲルさんのお話を聞く限りでは、これから先アマテラス号で色々なところに行くことになるでしょうから、話さえ広めておけばいいのです」

 超古代文明の証拠となり得るものは、今のところアマテラス号くらいなので、色々な場所でその姿を見せるのが一番いいというのがラウラの言いたいことだった。

 勿論、他にも遺跡から持ち帰った物はあるが、それらは決定的な証拠とはなり得ないものばかりなのである。

 それに、それらの物をこれから行くすべての国に渡せるわけでもない。

 

 フィロメナが考え込むように黙り込んだのを見て、今度はミカエラがラウラに言った。

「ラウラがゲルリオン帝国を押すのは、遺跡の話だけが理由じゃないよね?」

 ミカエラのその問いかけに、ラウラはあっさりと頷いた。

「はい。わたくしとのこともありますが、主にシゲルさんのことを知らせる目的もあります」

 ラウラの言葉に、シゲルは少しだけ驚いた顔になっていた。

 ここで自分が出てくるとは、考えてもいなかったのだ。

 

 その顔を見てクスリと笑ったラウラは、視線をシゲルに向けながら続けた。

「シゲルさんは無自覚なところがありますが、精霊使いとしての実力は超一流です。上級精霊を従えているところをきちんと見せた方がいいでしょう」

 噂だけだとそれがただの話だけだと考える者たちも出てくるだろう。

 実際に上級精霊がいるところを見せてしまえば、その思い込みもなくすことができる。

 そして、その事実をホルスタット王国とゲルリオン帝国の両方に見せることが重要なのだ。

 仲の悪い国が揃って事実だと認めれば、それは他の国でも事実だと認識される確率が高くなる。

 

 そこまでの話を聞いたフィロメナが、納得した顔になって言った。

「古代文明の事だけならともかく、シゲルのことを考えれば、言われてみればそうだな。そう考えると、確かに次がゲルリオン帝国というのはありか」

 思いつかなかったなと続けたフィロメナに、マリーナが頷いた。

「そうね。そう考えると、ラウラがいなければ、行っていなかった可能性もあるわね」

 ゲルリオン帝国に行くというのは、手ごろで広めやすい所から行こうとしていたフィロメナたちでは、まず思いつかなかった。

 長年一緒に行動して来たフィロメナたちは、似たような考え方をするようになっているので、ラウラのような別の視点からの意見が出てくるのは重要なことである。

 

 フィロメナたちが納得したところで、視線がシゲルへと集まった。

 そして、代表してフィロメナがシゲルに言った。

「というわけで、あとはシゲルの決断次第だ。要は、シゲルが今後どうしたいかに関わって来る話だからな」

 シゲルとしては、折角アマテラス号という足を手に入れたのだから世界中を見て回りたいという願望がある。

 とはいえ、変な絡まれ方をする国には入りたくないというのも本音だ。

 今のところシゲルに関する話はさほど広まっているわけではないが、それが逆に変に作用することもある。

 それを放っておくのか、自ら乗り込んで行って最初から誤解を解くようにするのか、それはシゲルの選択次第でしかない。

 

 最後の決断を求められたシゲルは、少し考えてから答えた。

「――それじゃあ、次はゲルリオン帝国に行こうか。避けて通って悪化させるくらいなら、自ら乗り込むのもありだと思う」

 シゲルのその答えに、ラウラはホッとした表情になり、そのほかの面々は笑顔を浮かべるのであった。

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