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その13 出ちゃった凶悪モンスター


 パーティを組む為に町の門まで歩いていると、自分を呼ぶ声にアルクルミは足を止めた。


「やっと見つけた。アル、何してんだよこんな所で。サクサクをまた私に押し付けて、自分だけ遊ぼうったってそうはいかないぞ」


 キスチスである。

 アルクルミは残念そうに幼馴染を見るが、理由は別にある。


「あーあ、キス。えらいところで私を発見しちゃったわね。見つけちゃったからには手伝ってもらうから、逃げようったってもう遅いよ」

「な、何? こいつら誰? ちんまいのもいるけど」


 そこには四人の少女が集まっているのだ。


「ちんまくて可愛い私はミカルミカと言います、ミカちゃんと呼んでください。お肉屋なのです」

「私はマリースマル、同じくお肉屋マリーだよ」

「こっちはまおちゃん、そして私は知ってるだろうけどアルクルミ、肉屋の娘です」


「さ、魚屋です」


「おおー! お魚屋さんに遭遇したのです」


 ミカルミカが目をキラキラさせて、くるりとキスチスの周りを回った。


「な、何なんだこれは? 何の集まりだよ」

「見てわからない? お肉屋協会だけど」


「知らないよ! その肉屋の娘っ子たちが集まって何してんだよ」

「見てわからない? 今からモンスターの討伐に行ってお肉を仕入れに行くんだけど」


 キスチスが何かを思い出したようなポーズを取った、仕草がわざとらしい。


「あ、いけない、私サクサクの面倒見なきゃいけないんだ。それではアディオス~」

「逃がさないからキス、手伝ってよ」


 逃げようとするキスチスを捕まえようとしたが、魚屋の娘はそれを避け逃亡に成功した。

 成功したと思った。


 逃げた先でキスチスは、サクサクに小脇に抱えられてしまったのだ。


「アルクルミちゃんたち、討伐に行くの? 私も行ってあげるよ! キラっ」

「本当? サクサクに来てもらえると助かるけど」


「お酒ばっかり飲んでても仕方無いしね、休肝時間も作らないとダメなんだよ」


 休肝時間て……休肝日の間違いじゃないだろうか。


 かくしてお肉仕入れのパーティは、アルクルミ、ミカルミカ、マリースマル、銀髪の少女に加え、サクサクとキスチスの二名追加で合計六名になったのである。


 町の門で結成したパーティは、町を出ると荒野を歩いて森に入った。


「な、なあアル。このパーティで大丈夫か? 私もアルもいつもの武器持って来て無いし、武器らしいのはあのマリーって子が持ってる肉切り包丁だけだぜ」


「サクサクがいるじゃない」

「そうか、サクサクがいたか。でもなーんか忘れてるっぽいんだよなあ」


 会話を聞いていたマリースマルがアルクルミに寄って来る。


「いつもの武器って、あなたたち普段から武器を持ち歩いているの?」

「うん、私はマリーと同じ肉切り包丁、キスは刺身包丁」


 二人はいつもそれを持って討伐に出かけているのだ。

 出かけているというより、出かけさせられているのだ、困ったものなのである。


「もしかしてあなたたち……」

「そうなのよ」


「少年少女強盗団なの?」

「違う!」

「違うわ!」


 思わず隣のキスチスも叫んでいた。


「何で私たちいつも少年少女強盗団と間違われるのか、これはちゃんと説明しないとだめだな」


「そうそうキス、説明してあげて」

「少年少女じゃねえよ、私は女だ」


 そっち違くて。


「ええ? マジ?」

「びっくりしたのですー」


 説明を受けたマリースマルはともかく、ミカルミカまで驚いている。


「カッコイイお兄さんだと思って、ちょっと色目を使って損したのです。女の子を騙すとは、あなたいい根性してるのです」

「ずいぶんな言われようだな、おい」


「私はてっきりアルクルミちゃんの彼氏なんだと思ってた」


「違いますマリー、彼氏ではありません」

「アルのその返し、色々と誤解を生むから違う言い方にして欲しいんだけど」


『んふふふふ~』と笑いながら、サクサクがキスチスの首に腕を回して絡み付いてきた。まだお酒が抜けていない感じである。


「振られちゃったんだね~少年。甘酸っぱい青春だね! お姉さんが慰めてあげよっか」

「お酒くさ! な、こうなるだろ、なんか傷つくんだよ。それに少年てなんだよサクサク、いい加減にしろよ」


「キスはスカートを穿けばいいのよ、それで一発解決なんだから。ねえ、まおちゃんはキスの事どう思う? ……まおちゃん?」


 アルクルミは先頭を歩く銀髪の少女の事が気になった。

 彼女は突然立ち止まって前方の茂みの小山を注視していたと思ったら、ゆっくりとこちらに振り向いたのだ。


「なあマリマリ、お肉にするモンスターは何でもいいんじゃろ?」

「え? マリマリって私の事かな? うん、お肉なら何でもいいよ。今の町の状態なら何だって売れそう。でも何で?」


 マリースマルは不思議そうに銀髪の少女の方へと歩み寄っていく。


「虫系とかはさすがに困るけど……」

「そうか。いや、モンスターが出たからな一応聞いてみたのじゃ。なに、虫じゃないから安心せい、ちゃんとした肉じゃな一応。マッドでデストラクションな味じゃが」


 全員で『え?』と前方の茂みを見る。

 それと同時に細い木が数本『メキメキ』と音を立てて倒れた。どうやら寝ていた怪物が立ち上がったようなのだ。


 な、なにこれ――


 それは大人の人間二、三人分はあろうかという背丈、ずんぐりと樽のような腹を持ち、頭は産毛が生えている禿げ頭で、鋭い牙だらけの口をしていた。

 茂みの向こうに見えていた茶色い小山は、このモンスターのお腹だったのだ。


「キス何これ」

「オークってやつなのか?」


「違うぞ、こいつは肉屋型モンスター〝まっどなブッチャー〟じゃ、やっぱり出おったか」

「だから肉屋型モンスターって何なのよ!」


 確かにそのモンスターをよく見れば、巨大な肉切り包丁を手に持っているから、見た目肉屋と言われてもそうなのかな、と思えてしまう。おまけに見慣れた禿げ頭なのだ。


 そのモンスターは方手に肉切り包丁と、もう片手には巨大なハンマーを握り締めていた。

 肉を切って骨を砕く、両方を備えているのだ。


「こいつはここにいるメンバーで相手をするには、ちょっと厄介なヤツじゃな。強さの桁が違うようじゃ」


 銀髪の少女は呆れたようにモンスターを見上げていた。


 まおちゃんに言われるまでもない。

 こいつは絶対にやばいヤツだ、今までモンスターと戦ってきたアルクルミの肉屋の本能がそう告げていた。


 肉屋VS肉屋の戦いが始まろうとしていた。


 次回 「まおちゃんが死んだ――」


 アルクルミ、圧倒的な強さのモンスターにパニック

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