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その9 お肉屋協会結成と紅白饅頭


 起きたミカルミカは身体の埃を払いながら話し始めた。道路に寝ていたから埃まみれなのだ。


「あれから町を訪れる信者が更に増えて、お店で売るお肉の供給が追いつかないので品切れ開店休業中なのです。お肉を取りに行かされるので、アホかと脱出してきたのです。冒険者の人に〝お願い〟攻撃してきたから細々とは入荷しているでしょう。後の事は私は知らん振りを決めるのです」


 なるほど、それは大変だ。

 でも聞きたかったのは、何故ここで寝ているのか、だったのだけど。


「お饅頭があまりにも甘くて美味しかったので寝ていたのですよ。ネムネム教の教義では美味しい時は寝るのです」


 でしょうねー。聞くまでもなかった答えが返ってきただけだった。

 でもやっぱり美味しい時まで寝てたら勿体無い、それに虫歯になりそう。


「ミカちゃんもこの町のお祭り目当て?」

「この町でカンニバルとかいう恐ろしげなものをやってると聞いて、肉屋として放っては置けなかったのです。ホラーなのです」


「ちょ、ちょっとやめてよミカちゃん」


 ぶるぶる震えるミカルミカの横で、アルクルミも震えた。銀髪の少女も震えている。


「アルさん私思うのです。ちょっと偵察に行きませんか?」

「て、偵察? どこに?」


「この町に巣食うお肉屋さんですよ。マッド肉屋は退治しに行かなくてはいけません、その為にはまず実情を把握する必要があるのです」


 ミカルミカがちょっとやる気を出しているようだ。


「こういう時はネムネム教だと寝るんじゃないの?」


「ネムネム教以前に私たち肉屋教団としては、立ち向かわなければいけないのです。アルさんも同じ教団員として頼りにしているのです」


「そんな教団に入った覚えはありません、せめて肉屋協会にしようよ、ミカちゃん」


「ではここにネムネムの町と、冒険者の町の肉屋協会が設立されたのです。ゆくゆくは世界をお肉屋で制覇しましょう」

「は、はい」


 世界制覇ってどうするの――


「わらわもアルクルとミカミカについて行ってやるぞ。相手が危険な肉屋だと危険が危ないのでな、なんせカンニバルじゃもんな」


 そう言って銀髪の少女が自分の言葉に震える。

 カンニバルという言葉が出る度に三人の娘は震えるのだ。


「な、何も無いと思うけど、ここで別れるのも寂しいからまおちゃんもついて来て」


「うむ、肉屋型モンスター〝まっどなブッチャー〟がおるかも知れんな。ヤツはとてつもなく危険なのじゃ。わらわの里の肉屋でも要注意になっておる」


 肉屋型モンスターってなんなの――

 初めて知るモンスターだが、肉屋の娘としては確認しておきたい事がある。


「聞いた事無いモンスターだけど、美味しいの?」

「あんなものを食べるやつなんかおらん、マッドな味しかせん。しかしうちの羊の大好物じゃな」


 まおちゃん、羊飼ってるんだね。でも羊ってお肉食べるんだっけ?


 アルクルミは疑問を浮かべつつ、前を歩く二人についていった。

 先頭を張り切って歩くのはミカルミカだ。


 途中で、アルクルミの目の前を歩いていた銀髪の少女が突然立ち止まった。

 急ブレーキをかけたが、背中に『むぎゅう』とぶつかってしまう。


「なんじゃあれは、紅白まんじゅうではないか! 何かめでたい事でもあるのか?」

「ああ、この町のご領主様のご子息と貴族の女の子の婚約祝いで……て聞いてないか」


 彼女はアルクルミの説明もろくに聞かずに、饅頭屋へと突撃していったのだ。

 お饅頭と見ると突撃、よほど好きなのだろうか。アルクルミもそこに急ぐ。


「おいまんじゅう屋、これは配っておるのか? 紅白まんじゅうというからには、屋根の上から撒かんとわらわも納得せんぞ」

「へ、へいらっしゃい。う、売り物ですんません」


 お饅頭を屋根から撒くってどこの風習かしら、とアルクルミが財布を取り出そうとすると。


「ここは私が払うのです。オジサン、お饅頭を紅白ワンセット下さい」


 さすがに一人二個は多すぎだと考えたのだろう、ミカルミカが紅い饅頭を銀髪の少女に渡すと、残りの白をアルクルミに渡してきた。


「ありがとう、ミカちゃんはいいの?」

「私はいいのです、この前お二人に手伝って貰ったのに何のお礼もできていないし、こんなので申し訳ないのです。これからカンニバルを退治に行くのに、縁起を担ぐのです」


 カンニバルという言葉を聞いてぶるぶる震えながら、アルクルミは白い饅頭を半分に割って、同じく震えているミカルミカに渡す。


「半分こしよう、紅白まんじゅうって結構大きいから、二つに割ったらちょうどいい大きさになるよ」

「ありがとうございます、アルさん。お肉屋教会は苦楽を分かち合うのですね」


 二人で笑い合う肉屋の娘ズを、銀髪の少女がポカーンと見ている。

 彼女は視線を落とすと、自分の手の中にある紅い饅頭を半分に割って、ぶるぶる震える手でそれをこちらに差し出してくる。


 この震えもカンニバルなのだろうか。

 口から何か出てる、涎じゃないよね?


「あ、まおちゃんはいいから、一個食べてね。あ、そうだ! じゃ、まおちゃんの紅い半分を私が貰って、私の白い半分をまおちゃんに渡すと」


「おお! 一個で紅白まんじゅうが出来上がったのじゃ! これは縁起がいいのう。アルクル、お前もしや天才ではないのか?」

「多分私は凡人の肉屋です」


 満面の笑みで半分紅白饅頭を口に放り込む銀髪の少女。


「もがあふぁふぁああふぁ」


 口いっぱいの饅頭で叫び声が出ないのだろう。


「うわあ、あんこぎっしりだねこのお饅頭」

「こちらのお饅頭も甘くて美味しいのです。それでは私はここで失礼して」


 アルクルミはミカルミカが寝ようとするのを、首根っこを捕まえて阻止した。


「ミカちゃん、今はネムネム教会じゃなくてお肉屋協会だから、寝ちゃだめだよ」

「うう、そうでしたー。二足のわらじが試されているのです。ああ、私は今試されているのです、これは神様の試練なのですね、ああ眠たい」


 ミカちゃん眠りたいだけなんじゃ……


「おお、あれは何じゃ、あの赤いの!」


 ネムネム教の次は、銀髪の少女である。隣の屋台に突撃だ!

 次から次へと、とにかくアルクルミは忙しいのだ。


 ここから先はお菓子屋台のゾーンなのだ。


 一体肉屋はどこにあるのか。

 カンニバルどこ行った。


 次回 「カーニバルの肉屋を偵察した!」


 アルクルミ、恐ろしい肉屋の登場に震え上がる

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