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その8 何故かお肉を取りに行く事になった


「何で私ここにいるの?……」


 アルクルミは呆然と草原を見つめている。


「わらわはあまりパーティを組んだ事はないが、やっぱりパーティはワクワクが止まらんのう」


 銀髪の少女は嬉しそうに先頭を歩いているが、彼女が何も武器を持っていない事にアルクルミは一抹の不安を覚えていた。

 この子のこの華奢な身体で武器を振るうとは思えない、もしかしたら魔法スキルを使えるのだろうか。


「あの……お二人はやっぱり冒険者なのですよね?」


 ミカルミカの問いだ、普通の娘さんがモンスター狩りに行かされるのを手伝うのだから、冒険者に違いないという期待もあるのだろう。


 しかし……世の中そう思うとおりに行かないのが常なのだ。


「ごめんなさい……私も普通の町娘で冒険者でもなんでもないの……」

「そうなんですか……じゃあの方が」


 ミカルミカが不安そうに先頭の銀髪少女を見た、それにつられてアルクルミも見つめた先で銀色の頭がくるっとこちらを向く。


「わらわも違うぞ? わらわが冒険者だったら天地がひっくり返るじゃろうな! 剣も持った事ないし、ついでに言うと魔法も使えんぞ、丈夫なだけが取り得なのじゃ。えっへん」


 やっぱりそうだったか……

 アルクルミの不安は見事に適中だ。このパーティには冒険者は一人もいない。というか何で胸を張ったんだこの子。


 後ろのミカルミカは半泣きになっているが、アルクルミはさして衝撃は受けなかった。


 どの道彼女が普段キスチスと組んでいるお肉仕入れのパーティは、冒険者ゼロであり、こっちの方が人数が多い分マシなのかも知れないからだ。キスチスはポンコツだし。


 出かける前に一緒に温泉に来ている冒険者のサクサクを引き込めていたら、このパーティの戦力が上昇したのだろう。

 しかし今頃はどこかでべろんべろんに酔っているだろうから、どうせ使い物にはならない。


 最善なのはカレンとみのりんの冒険者コンビを引っ張り出す事なのだが、どこに出かけているのか彼女たちとはこの温泉地で一緒に行動できないでいた。


「やはり帰った方がいいのでしょうか? うちのお父さんが言い出した事で、冒険者じゃない皆さんを危険な目に遭わせられないですし」


「大丈夫、私も実は冒険者の町で営業してる肉屋の娘なんです、こんな感じでお肉の仕入れにはしょっちゅう行かされてるから慣れちゃった」


「わあ! 奇遇ですね」

「奇遇というか、私がお肉屋さんを見つけてどうしても入ってみたくなっちゃったからなんだけど……それにミカさんの方が年上なので私に敬語は使わなくていいですよ」


「いいえ、人は年齢ではなく見た目が大事なのです、私の方がどう見ても幼いので敬語を使うのは私なのです、アルさんは私には普通の話し方で良いのです。私はミカさんではなくミカちゃんでお願いします。これはネムネム教の教えなのですよ」


「そうなんで……そうなんだ」


 そういえばこのネムネムの町は、ネムネム教という宗教の本山でもあったっけとアルクルミは思い出す。

 ネムネム教は冒険者の町でも活発に信者獲得に活動しているのだ、呑気な宗教なので冒険者には合わず、概ね町の人々が対象ではあったのだが。


「ミカさん……じゃなかったミカちゃんは何かスキルは持ってるの?」


「私ですか? 私はただただ可愛いだけが取り得ですよ? 私は〝可愛い〟を武器にこの世の中を押し切って生きていこうと思っています。幼女パワーは侮ってはいけないのです」


「へ、へえ」

「アルさんは何かスキルはお持ちですか?」


「私は……あはは、オジサンの天敵みたいなスキルで、勝手に出ちゃうから困ってるんだけど。言ってみれば悪さをするオジサンを退治するスキルかな」

「とても魅力的なスキルです、帰ったらとんでもない事を言い出した、うちのお肉屋の店主を退治して欲しいのです」


「お互い肉屋の店主には苦労するわね」

「本当なのです、帰ったら頭の毛を毟ってやるのです」


 お肉屋の娘同士顔を見合わせて笑った。


「まおちゃんは何かスキルを持ってるの?」


 先頭を歩く銀髪少女に聞いてみた。


「わらわか? 特に何も持って無いというかスキルって何じゃ? それは甘いのか?」

「スキルと聞いてお腹を鳴らした人を初めて見たよ」


「なるほど食べ物ではないのか。わらわが今持っておる物と言ったら、さっき買ってもらったおまんじゅうの包み紙くらいなもんじゃ、ほらこれ」


 そう言って少女は綺麗に折りたたんだ紙を取り出した。


「ゴミ捨てなかったんだ」


「捨てるなんてもったいない。これの匂いを嗅いでみい、すーはーすーはー。ほら甘いおまんじゅうのほのかな香りが染みついておるだろ、これでしばらくは楽しめるはずじゃな。これは宝箱に入れるつもりじゃ」


 帰ったらお饅頭を一杯買ってあげよう……アルクルミはそっと目尻の涙をハンカチで拭いた。

 ミカルミカも顔を伏せて目をごしごししている。


 アルクルミは話題を変えようと思った。

 どんなモンスターが出るのか知っておけば、一体くらいが相手なら自分のスキルでなんとかできるかも知れない。


「そ、そうだ、この辺に出るモンスターって何かな? ミカちゃん知ってる?」


「そうそう、私も悲しい話題から切り替えじゃなかった、楽しいモンスターの話をしようと思っていたのです。あ、でもモンスターの話はあんまり楽しくなかったかも知れないですね、これは失敗です」


「あはは」

「あははです」


 ぎこちなく笑い合う肉屋の娘ズを銀髪の少女は不思議そうに眺めていたが、やがて前方を指差して二人に確認を取った。


「あれじゃろ、こっちに突進してくるあの牛みたいなヤツ、あれがこのあたりのモンスターじゃろ?」


 その言葉にびっくりして前を見るアルクルミとミカルミカの瞳に、自分たち目掛けて突撃してくるモンスターの集団が映った。


 それは草原の主力モンスターである――


「あわわわ、あれ〝のっぱらモーモー〟の一群なのです!」


 数が多すぎる。

 ミカルミカの叫び声を聞きながら、アルクルミはくらっと眩暈を覚えた。


「これ、だめなやつじゃん」


 次回 「激闘! 牛モンスター!」


 アルクルミ、地面に埋まった銀髪の少女を掘り出す

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