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その7 コロッケパン販売開始!


 屋台には既に大量のコロッケパンが運ばれていた。


「これよりコロッケパンの販売を開始します」


『パチパチパチ』


 アルクルミの挨拶で周りの観光客が拍手をしてくれた。


 キスチスとアルクルミとサクサクが屋台の可愛い店員だ。

 それだけでも十分にオッサン客を呼び込めるのだが、この屋台の秘密兵器はそれだけではない。


 魔王のコスプレ(だと観光客や町の人々が誤解している)少女、キルギルスの呼び込みまでオマケで付いているのだ。


 この絶叫宣伝マシーンの呼び込みは、その可愛さと完璧な魔族のコスプレ(本物の魔族なのだからあたりまえなのである)とで、女性客も呼び込めるのだ。


 そして食べた客が美味しいと騒いでくれれば行列の出来上がりなのである。

 因みに最初のサクラ客は、パン屋と肉屋の奥さんが行った。店に戻る前に一芝居打ってもらったのだ。


「あらやだ奥さん、このパンとても美味しいわよ、まるで商店街のパン屋さんのパンに匹敵するわね」


「このコロッケもお肉屋さんのコロッケ並に、とてもおいしゅうございます。きっと美人の奥様が揚げなさったのね、おほほほほ」


「あらやだ美人だなんて、よく言われます。パン屋さんの奥様も確か美人で評判で」

「そんな事もありますかしらね、おほほ」


「なあアル。互いに褒めあって何してるんだこの人たち」

「ちょっと恥ずかしいかも」


 奥さん二人組のサクラ客はまだ続く。


「このコロッケのジャガイモなんて、まるで可愛い魚屋さんの息子さんが潰したみたいで柔らかいわね~」

「あらやだ本当、お魚屋さんの長年の技術の結晶かしらね」


「三店舗合同だからって、そこは魚屋さんを絡めなくてもいいのにね」


「いや、つっこむのはそこじゃないだろアル。パン屋の奥さん、いつも旦那が私にセクハラしてくるのを何だと思ってたんだ」


「うちの表六玉(ひょうろくだま)ときたら、娘さんのアルクルミちゃんにセクハラばっかり働いてごめんなさい」


「あらやだ、いいのよ減るもんじゃなし。うちの穀潰しもお酒を飲んで酔っ払ってばかりいるし、ホント困ったものよね」


「お母さんたち、お父さんや旦那さんの悪口を言い始めちゃった」

「うちのカーチャンも参戦したいだろうなあ」


「さあ、みなさん! そしてこの美味しいコロッケパンがなんと新発売なのよ! これは買わなくちゃ!」

「まあ大変! 私ももっと買わなくちゃ!」


『パチパチパチ』


 ドヤ顔で締めくくったヘタクソなサクラ客芝居に、周りの観光客が拍手をして、そして屋台に殺到したのである。


「一つくれ」

「こっちは二つ」

「私も欲しい」

「売ってくれ」


 ただでさえ観光客でごった返した町に、いい匂いの珍しい食べ物、お昼時、可愛い店員に可愛い呼び込み、面白い奥さんコント。

 これらが全て噛みあって恐ろしい効果を発揮したのだ。


 コロッケパンは飛ぶように売れに売れた。

 そしてもう一つの意外な要因があった。


「坊や、私に一つ売ってくださらない」

「あら可愛い坊やだこと」


「おい、私は」

「キス、お客さんに反論はだめ」


「うう、らっせー」


 男の子と勘違いされたキスチスが、観光客の奥様たちに受けたのである。


「この店員服を着ないからこうなるのよ」

「そんなひらひら着てられるかよ、そんなの着るくらいなら――」


「ねえ坊や、おばさんとデートしない?」

「だめよ、この坊やは私が目をつけたんだから」

「濃厚な夜のひと時はどうかしら」


「アル、今度その服を貸してください……」


「今度もう一着作るから希望の色を言って。キスは赤とかオレンジが似合いそう」

「ピ、ピンク以外ならおまかせします」


 その時一人の少年が屋台にやって来た。


「やあ、アルクルミさん、また会ったね。今朝はどうも」

「? 誰?」


「ほ、ほら、いつも会合とかで会うマリダンですよ。今朝もお会いしました」


 今朝? 誰だっけ? アルクルミにはトンと覚えが無い。今朝はコロッケパンの事で脳の99%を使用していたのである。

 お小遣いが絡んでいるのである、仕方の無い事だ。


「そ、そうですか。キス知ってる?」

「さあ、防災訓練やボランティアのやつかな。私は殆どサボってて行ってないからなあー、全然わからん」


「あ、あのアルクルミさん、この男の子は誰ですか。ま、まさかアルクルミさんの恋人じゃありませんよね? あははまさか」


「おいお前、私は――そうだった、お客に反論はだめなんだっけ。そう、そのとうりだ、です」


 ショックで白く固まった少年にサクサクが絡みつく。


「あははは! いいねえ少年。失恋たあ甘酸っぱい青春真っ盛りだねえ。お姉さんが慰めてあげよっか? うーい」


「うわ、サクサクのやつ酔っ払ってるぞ」

「いつの間に飲んでたのよサクサク。ああ、可愛い店員さんが酔いどれふりふり店員に!」


「らって、コロッケパンでお酒飲むの美味しいんらもーん」


「何? 酒に合うのか」

「俺にも寄こせ」

「よし飲むぞ」

「俺にも飲ませろ」


「はーい、お酒のおつまみコロッケパンはこっちだよー! いっぱい食べてグイグイ飲もう! うーい」


 酔いどれお姉さん店員の前に、酒飲みの行列ができた。

 オッサンたちは酒さえ飲めればなんでもいいのだ。


 もう一つの謎の要因が重なって、更なる販売速度の上昇である。

 みるみるコロッケパンが無くなっていく。


 めんどくさい事に、コロッケパン屋台の横にオッサンたちがぐるりと円陣を作り、酒を飲み始めてしまったではないか。

 その円の中心ではサクサクが酒瓶をラッパ飲みして、場は最高に盛り上がっている。


「なんだこれ、なんの宴会だよアル」

「困ったなあ邪魔だなあ。もっと困るのはあの宴会の中にお父さんが紛れ込んでいる事なのよ、店番どうしたのよ」


 コロッケパンが尽きかけた頃、アルクルミの母親が大量の出来上がったばかりの追加の商品を荷車で運んできた。

 そして帰りは肉屋の親父を荷車で運んで帰っていく。


「ああ! 俺はまだ飲み足りないのにー! サクサクちゃーん!」

「オッチャン! オッチャーン!」


 周りの酔っ払いたちも、突然の別れに涙をハンカチで拭いている。


 一体何のシーンなのよこれ……


 脱力してその光景を眺めていたアルクルミだったが、ぼんやりしている場合じゃないと追加のコロッケパンを並べ始めた。

 この大量のパンをまた売らなければならないのだ。


「私にまかせるのだ!」


 キルギルスである。

 魔族の子はパタパタと背中の翼で空中に浮かんで、盛大に売り子を始めたのだ。


「世界最強のコロッケがなんとパンに挟まれて、至福の食べ物がここに爆誕したのだ! この衝撃のシーンを見るのだ!」


 確かに衝撃のシーンである。何しろ十歳くらいの子が魔族のコスプレをして宙に浮かんでいるのだ。

 もうどこからどう見ても、魔族である。


 コロッケパンが飛ぶように売れるのはいい、しかし魔族が飛ぶのはアウトかも知れない。


「なななな、なんだ!」

「宙に浮かんでるぞ」

「ま、まさかこれって――」


「魔、魔族――!」


 観光客たちが顔面蒼白で見上げ浮き足立った。


『うわあああああああ』


 大パニックが起こったのである。

 ま、まずい事になってしまった。


 アルクルミの顔も蒼白である。


 次回 「コロッケパンの宣伝で町が滅びる!」


 アルクルミ、謎の団体にスカウトされる

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