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その1 メンチカツくださいな


「メンチカツくださいな♪」


 肉屋にやって来た女性客サクサクは、またもや聞いた事の無い商品を注文してきた。


「こんにちはサクサク、メンチカツって何?」

「ぐはっ! メンチカツだよ! 肉屋がメンチカツを知らないだと!」


「それはもういいから、コロッケの時みたいに教えてくれれば作れると思うわよ、どんなものなの?」


 彼女がコロッケを買いに来た時みたいな永久ループは回避しなければならない。


「ひき肉をコロッケみたいな平べったい円にして、衣付けて油で揚げたものだよ、これでお酒プハーなんだよ。牛メンチがいいかなあ」


「それなら作れそう……だけど」


 アルクルミは店の商品棚を見る。

 そこにはもう殆ど肉が無いのだ。


 魔王がこの町を滅ぼしに来るという噂で、滅ぼされる前にどんな町か見ておこうと観光客が押し寄せて来て、町のレストランや食堂が大賑わい。


 肉がそちらの需要にまわされて一般庶民に届かない状態なのだ。


「見ての通り、肝心のお肉が殆ど売り切れちゃってて、町のレストランも一般のお客さんも常連さんだから、板ばさみでうちの店でも悲鳴をあげている状態なの」


「誰が?」

「主にお父さんが叫んでる」


「大変そうだね」


「いつもお肉を仕入れてくれる業者や冒険者の皆さんには、増量をお願いしてるんだけど全然追いつかなくて――」


 そこまで言ったアルクルミは、彼女のお尻を触ってきた他の男性客の首の後ろに手を回し、腰に相手を乗せてそのまま床に叩きつけた。


「おおー腰車だね!」

「そ、そうね」


 今回の技名はあんまり美味しそうじゃないなとアルクルミが思った時、店に出てきた肉屋の店主がいつもの一言を発したのである。


「おいアル、在庫がねーから肉の仕入れに行って来い」

「はいはい、そうなると思ってました。儲かってるんだからお小遣い増やしてよね」


 今回はさすがに予想していた事なので、アルクルミは袋と肉切り包丁を準備した。

 本当は文句を言ってもいいはずなのだが、だんだんと慣れてしまっている自分が怖かった。


「と、言うわけでサクサク、私もモンスターを倒してお肉の仕入れに行って来るよ。私が仕入れてくるお肉の量なんてたかが知れてるんだけどね」


「へー、なんだか面白そうだし私も一緒に行くよ。どーせ町の外に用事があったしね」


「本当に? 冒険者の人が一緒に来てくれると助かるわ!」

「同じ女の子同士、このサクサクちゃんにドンとまかせなさい!」


「娘がすまないねえ、おいアル、ちゃんと大人の女性の言う事聞いて邪魔するんじゃないぞ」


「なによそれ、まるで私がわがまま言ってるみたいじゃないの、ねえサクサク」


 アルクルミの父親に自ら望んでついて行くのだと伝えてくれるつもりだろうか、サクサクは肉屋の店主の前に進み出た、そして。


「サクサクは十七歳です!」


「え、えーと。おいアル、ちゃんとサクサクちゃんの言う事聞いて邪魔するんじゃないぞ」


 店主は迫るサクサクに一瞬気後れしてしまったが、オッサンから見たら十代も二十代もあんまり変わらないのであった。




****




「いいお父さんだね」


「そう? 娘をモンスター狩りに行かせるド鬼畜親父だよ。そうそう、この前サクサクにお酒飲まれてお父さん泣いたんだよ、笑っちゃうよね」


「だめだゾ、お酒を他人に飲まれてしまったら誰でも泣くんだから。お父さんの悲しい心をちゃんと理解してあげないとね」


「ご、ごめんなさい」


 あれ? そのお酒を飲んだのサクサクなんだけど、何で私怒られたの?


 なんだか釈然としないまま、町を出る前にもちろん魚屋に寄ってキスチスも召集する、とにかく量を運ばないといけないからである。


 サクサクが牛メンチを食べたいと言ったので、荷車を引いて草原に行く事になった。


「大丈夫かアル、草原のモンスターは森の〝やんばるトントン〟より強いぞ」

「今回は冒険者も一緒だから平気よ」


「そうそう、牛モンスターの一頭や二頭このサクサクちゃんが、サクサクっと倒してあげるから! サクサクだけにね!」

「あ、ハイ」


 キスチスはどことなく年季の入ったギャグを繰り出す、一つ年上という冒険者を見る。


「その武器、レイピアだよな」

「そうだよ、私はフェンシングっていう、こういう武器を使う競技をやってたからね、慣れてるのさ。キミのは何?」


「私のは、ショートソードだ!」

「おおっ! それ見てるとなんだかお刺身でお酒が飲みたくなるね!」


「そりゃキスのそれは刺身包丁だもん、騙されないでサクサク」


「なんだよアル。モンスターも倒せて魚も薄く切れる、最強の便利グッズだろ?」

「わかったから、その魚屋グッズを鞘に戻して荷車を押してくれないかな」


「アルクルミちゃんのは迫力あるね! モンスターも一撃で叩き切れそう、それで今まで何体も倒して来たんだね」

「あはは、そうだね」


 実は何体もモンスターを倒しているのだが、この肉切り包丁では一度も仕留めていないのであった。


 肉屋の娘と魚屋の娘、そして冒険者の娘(二十七歳)は、牛モンスターを求めて荷車をひきひたすら草原を進んだ。

 しかし冒険者も立ち入らない危険な場所に差しかかっている事に、彼女たちは気付かない。


 そこは牛モンスターである〝のっぱらモーモー〟の中でも、特に危険とされている種のテリトリーだった。

 そして前方にその危険種である〝牛〟がその姿を現したのだ。



 目の前に現れたのは牛に似たモンスター〝のっぱらモーモー〟

 姿も大きさも普通の牛とは変わらない、ただ頭にドリル状の角がついている点がモンスター然としていた。


「よーし出た出た! あれが牛モンスターだね! じゃお姉さん、サクサク倒しちゃうゾ」


 サクサクはそう言うとモンスターに突っ込んで行く。


 走りながらサクサクは腰のレイピアを抜き、モンスターの正面めがけて一撃!

 しかしモンスターは頭のドリルでそれを跳ね除けてしまう。


 すかさず二撃、三撃と突きを入れるもことごとく跳ね返されたサクサクは、一旦数歩後ろに下がった。


「すごいな、中々やるじゃないのこの牛。フェンシングのうちの県代表よりも強いかも!」


 それってどのくらい強いの……?


 サクサクのよくわからない比較に、アルクルミがクエスチョンマークを一個出したところで、牛を見て知らない間に別のクエスチョンマークを出していたキスチスが叫ぶ。


「あああ、思い出したよ! だめだそいつ、普通の〝のっぱらモーモー〟じゃないぞ! 特殊部隊モーモーだ! なんだか見た事あると思ってたんだ」


 そうである、目の前にいるのは〝特殊部隊モーモー〟だ、それはかなり危険なモンスターなのだ。


 次回 「遺跡の中のワインセラー」


 めちゃくちゃ強い特殊部隊モーモー

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