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その3 永久ループ脱出、コロッケを作ろう


「ジャガイモ下さい!」


 ジャガイモ屋でジャガイモをくれというのも変な話だが、張り切っているアルクルミは勢いでそう言った。


「いらっしゃい、どのジャガイモかな」


 ジャガイモ屋というだけあって何十種類ものジャガイモを売っているのだ、いつも家で食べるのは数種の芋だったが、コロッケには何がいいのかがわからない。


「どれがいいの? サクサク」

「ポテトサラダやフライドポテトもいいね! 一杯キューっとやりたいね!」


 一緒について来たサクサクに尋ねると、芋の種類ではなく料理名が返ってきた。


 この人はあてにならないな、茹でて潰すって言ってたからコレでいいよね。


 いつも潰して料理に使っている芋をドッサリ買い込むと、次の店に行く。

 小麦粉と玉子は家にあるのだけじゃ足りないかな、揚げる時のパン粉と、後はタマネギも入れた方がいいのかな。


 ここはアルクルミの料理の腕と知識が試される時である。母親から時々料理を教わっているのだ。


 買い物が終わるとアルクルミは魚屋に行った。

 コロッケに魚を入れる為ではない、労働者を連行する為だ。




****




 そして現在、肉屋の家の台所にいる。

 参加者はアルクルミ、サクサク、連行されてきたキスチスだ。


「今からコロッケを作ります!」

「え? 討伐に誘われたんじゃないのかよ私は」


 キスチスは文句を言うが、隣の女性も気になったようで。


「この人誰?」

「サクサク十七歳です!」


「あ、どうも、キスチス十六歳だ……です」


「こんな可愛い男の子と知り合えてお姉さん嬉しい」

「女だ! です」


 二人の漫才を聞きながら水を張った大きな鍋に、洗ったジャガイモを放り込むアルクルミ。

 茹で上がるまで時間がかかるので、彼女は椅子に座って『さあどーぞ』と言って二人を眺めた。


「おいアル、ドヤ顔で待ってたって私は漫才やらねーぞ。で、コロッケって何なんだよ」


「お肉屋さんのコロッケはね! ほんのり甘くてカラっと揚がっててサクサク! あ、私の名前もサクサクだけどね! これは神様がくれた偶然だね!」


「サッパリわからん」

「甘いってことは砂糖も少し入れた方がいいのかな」


 こういう時は料理ができるアルクルミは頼もしい、彼女にはある程度の完成形が見えていた。

 キスチスだったら恐らくジャガイモをそのまま揚げていたに違いないのだ。


 茹で上がったジャガイモの皮を剥き、大きなボウルにそれを入れると。


「はい、キスの出番だよ」

「え? 何が? 何の私の出番が来てしまったんだ?」


「キスがジャガイモを潰すに決まってるじゃないの」

「何がどう決まったんだよ」


「力仕事は男の子の仕事でしょ」

「あーやめやめ。アルまでそんな事言うんなら、私帰って魚でも売ってるわ」


 帰ろうとするキスチスは、それでもチラっとジャガイモが入ったボウルを見ている。


(コロッケが気になるのねキス)


「ねーサクサク、コロッケって美味しいんでしょ」


「美味しいよ、揚げたてなんてサックリ揚がってて中がホクホク、学生時代に学校帰りによく買って食べた食べた。あ、中学ね」


「揚げたてが食べられるのは、その場に居た人だけなんだよねー」


 結局、キスチスはジャガイモを潰しているのである、揚げたてを食う! その一念だ。



 台所は二人に任せてアルクルミは店に行き、トロール肉を機械に入れてひき肉にし始めた。


「一体何を始めたの?」


 ひき肉機械のハンドルを回す娘に、店番をしていた母親が聞く。因みに父親は別の部屋にて二日酔いで死亡中だ。


「店の新商品よ。お母さん、揚げるのにラードが必要だから使うね」

「ラードは捨てるほどあるから自由に使っていいわよ、お父さんなんて禿げに効くとか言い出して頭に塗ろうとするから困ってたのよ」


「変な気起こさないように今のうちに全部毟っちゃおうか」


 奥で肉屋のオヤジがくしゃみをするのを聞いて、母娘は爆笑した。



 アルクルミが台所に戻ると、全力を出し切って大量のジャガイモ潰しが終わったキスチスが、椅子の上で白くなっていた。


 キスチスが潰したジャガイモにみじん切りで炒めたタマネギ、トロールのひき肉を入れて、砂糖胡椒を投入し練りこむ。

 それに小麦粉、たまご、パン粉で衣を付けてラードでキツネ色にこんがり揚げた。


 完成だ!


「おおー!」


 アルクルミ、キスチス、サクサクの三人はできたてのコロッケを前に目を丸くする。


「こ、これがコロッケか」

「コロッケだと思うけど」

「うん、間違いない、コロッケだよ」


 早速揚げたてコロッケを口に運ぶ。


 サクッ!


「アチアチ、うんめえーー!」

「美味しい! ホントにサクサクのホクホク!」

「これよこれ! ねえお酒無い? 揚げたてでキュっといきたい」


「え? 未成年なのに飲んじゃダメよ」

「いいからいいから、気にしない気にしない。人生何も気にせずドンといこう!」


 アルクルミは押し切られて家にあった父親の酒をサクサク(二十七歳)に渡すと、彼女はジョッキに入れて飲み始めた。

 早速アルクルミの母親と父親も招集されて、いよいよコロッケのお披露目だ。


「アル、何だこれは、俺への嫌がらせか?」


 二日酔いの店の親父が死んだ目で娘に聞いた、揚げ物を見ただけで『ウッ』っとなっている。


「コロッケよ、これをこれから店の新商品として売ろうと思ってるのよ。揚げ物見て気持ち悪いのはお父さんの責任だからそれは知らない」


「はあ? 肉屋が揚げ物を売るだあ? ふざけんなよアル、肉屋は肉を売るんだよ! イテテテ」


 二日酔いの頭を押さえながら娘に食って掛かった店主に、同じく食って掛かった人物がいた。

 それは娘のアルクルミではない、サクサクだ。


「はあ? はこっちのセリフよ! おいこら禿げオヤジ、いい気になってハゲてんじゃないよ! 肉屋がコロッケを売らないで何が肉屋だ! ふざけた事抜かしてると残った髪全部引っこ抜くぞ! うーい」


「ひいぃ、誰だよこの酔っ払いの姉ちゃんは、なあ母ちゃんからも言ってやってくれ」

「美味しいからいいんじゃないの」



 肉屋の店頭に並べられたコロッケは、珍しさと美味しさもあって飛ぶように売れた。

 最初は味方を得られずに落ち込んでいた肉屋の店主も、その売れ行きにどんどん上機嫌になり。


「おいアル、もっと量産しろ」


 そこで代わりに落ち込んだ人物が約一名、ジャガイモ潰しを任命されたキスチスである。


「なんで、コレ私の仕事になってんだよ」


 彼女は涙目でせっせとジャガイモを潰しまくったのであった。


 第8話 「新商品コロッケを作ろう」を読んで頂いてありがとうございました

 次回から第9話になります


 コロッケが来たのなら、今度はメンチカツの出番です


 次回 第9話 「ミノタウロスの牛メンチカツ」

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