その3 結局カエル獲りに行く羽目になった
あんまり帰りたくないんだよねえ……
家に帰るアルクルミの足取りは重い。まだしらばっくれて遊んでいたかったが、もうお昼なのでご飯を食べに戻らないといけないのだ。
財布を持って出なかったのは失敗だった、お腹が空いて仕方無い。
彼女はキスチスの家に上がりこんで昼食を頂くという図々しさを、持ち合わせていなかったのだ。
よく朝食や昼食や夕食をご馳走になってはいるのだが、自分の都合でそれをやろうという気までは無かった。
仕方なしに家に帰ると、やはり父親が待っていたのである。
うわー……
一気に彼女の顔が曇る。
「アルクルミちゃんお帰りなさい」
ひい、気持ち悪い、サブイボ出た。
「た、ただいま。何よ急にちゃん付けして、鳥肌立っちゃったけど」
「アルが家にカエル。という事で、そうそうカエルの話なんだけどな」
強引な話の持って行き方をしないでもらえるかな!
「またその話? カエルのお肉を取って来いって言うんでしょ、嫌よ、断わります、お断りです。お父さんが行けばいいんじゃない、カエル獲りのハゲ坊って言われてたんでしょ」
あ、しまった。つい口が滑って言い間違えた。
『ポキン』
親父の心が折れたようだ。
なんとか踏みとどまろうと自分にベタベタだった二十年前の娘の姿を思い浮かべようと試みたのだが、娘はまだ生まれてない。
残念な事である。
ションボリと親父は店内の椅子に座っている。
「ごめんなさい、ごめんなさい。今のは違うから。ついうっかりというか、違うから。お父さんの事をカレンもすごくいいって言ってたよ。そうそう、言ってた」
「カレンちゃんが?」
「ほんとだよ、若い女の子が褒めてるんだからもっと自信を持ってよ」
決してウソではない。
尤もカレンの場合は、他意も無く純粋に頭を洗うのがラクチンそうで好きというだけの話なのだが。こればかりはうっかり口を滑らすわけにはいかない。
「そうか、カレンちゃん、とうとう俺に惚れたか」
そんな話は砂粒ほどもしていないけど……
「俺なあ、ガキの頃なあ、頭に一ゴールドハゲがあってよくからかわれたんだよ。嫌な思い出がよぎっちゃった、ずっと年下の女の子にそこを指でツンツンされてショックだったんだ」
そっち? そっちの落ち込みだったの? 変なトラウマを発動させないでもらえるかな紛らわしい……
でも随分ひどい事する女の子もいたもんだ、ちょっと許せないかな。自分も知ってる人なのだろうか。
父親側についた娘は色々と商店街の女性たちの姿を思い浮かべる作業に入った。
「そいつは今、奥で昼ご飯作ってるわ」
私は今、のろけ話を聞かされたようなもんなのだろうか、力が抜ける。
お母さんなら仕方無いよね、多分お父さんが悪い。
娘はあっさり母親側についたのである。
だが普段は絶対口にしないような言葉を吐いてしまったのは事実で、少女は深く反省した。
肉の仕入れに追い詰められていたのだ。
「わかったわよ、行くよ、行けばいいんでしょカエル獲りに。ただしお昼ご飯を食べてからね、お母さんにツンツンの話教えてもらおうっと面白そうだし」
奥で母娘が楽しそうに笑っている声を聞きながら、拗ねた店主はしばらく店で店番をしていたのである。
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「そんなわけで行こうキス」
「え、どんなわけ? 行くってどこに?」
「カエル獲り」
「なあ、アル。今日は会話が成り立ってないぞ、まあいいか」
アルクルミは当然のようにキスチスを討伐に誘いに来ていた。一人で行くなんてアホかである。
「カエル獲り名人のタケ坊がカエル獲って来いって」
「誰だよそれは」
魚屋のオジサン、つまりキスチスの父親が店先にいたので、何とはなしに父親の事を聞いてみる。
「ねえオジサン、カエル獲り名人のタケ坊って知ってるよね。有名だって聞いたけど」
「誰だいそりゃ、聞いた事無いな。魚獲り名人のヒサ坊なら知ってるが。もちろん俺の事だ、有名だったんだぜ知ってるだろ?」
初耳です。
「あ、オジサンが子供の頃の話、何十年前か知らないんだけど」
「十年前くらいかな?」
なんでそんなめんどくさいボケをかましてくるんですか。
ジト目になったアルクルミに、渾身のギャグが滑った事に気が付いたオッサンは少し慌てる。
「ああ、カエル獲り名人のタケ坊な、知ってる知ってる。トンボ獲るのが上手くてなあ、いやあれはトンボ獲り名人のヨシ坊だったか。キノコ採り名人はカズ坊だし、スカートめくり名人はチェキ坊……」
どれだけ名人が多いのよこの町。最後の人は犯罪者だよね、ちゃんと処刑されたんでしょうねチェキ坊。
「うり坊?」
「それは〝やんばるイノイノ〟の子供だよキス」
お父さん全然有名じゃないじゃない、褒めて損した。
めんどくさくなったアルクルミはここでこの調査を中止した。元々そんなに興味があったわけでもない。
「カエルならこの前の池に行こうぜ、釣りもしたいしな。魚を釣ってそれをエサにしようぜ」
「この前はそれで酷い目に遭ったじゃない。よりにもよって魚のモンスターを釣ったんだよキスは」
「大丈夫だよこの前は油断したけどさ、陸に上げてしまえばあいつら基本的にピチピチしてるだけでどうしようもできないから」
言われてみればそうか、この前は私を助ける為にキスが逃げ遅れたんだった。
アルクルミは了承する事にした。
アルクルミとキスチスの二人組は町の外に出て草原を通り、この前酷い目に遭わされた池へと向かう。
池に到着すると、キスチスが早速釣りの準備を始めた。
何もモンスターのカエルじゃなくても、普通のカエルでもいいはずなんだけど……
アルクルミは池のほとりを探すが、カエルは一匹も見当たらない。
「まあ待ってろってアル。すぐにエサの魚を釣ってやっからさ」
キスチスが釣竿の糸を池に投げ込みながら笑う。
「まあのんびり待つけどね」
「きたきたー!」
「え? もう釣れたの? 入れた瞬間だよね、網、網どこ!」
「大物の予感! これは大きいぞアル!」
「大丈夫なんでしょうね! また魚モンスターじゃないんでしょうね!」
「大丈夫だ! この感覚は魚モンスターじゃない! いくぞアル! せーの!」
釣りあがる獲物。
確かにキスチスの言うとおり魚のモンスターではなかった。
釣れたのはカエルモンスターだった。
次回 「さあこい! カエル」
キスチス、カエルにパクパクされる




