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鏡の地平 (7/9)


 



「逃げてぇっ、みんなぁっ!!」


 

 絶望を叫ぶラキアに、ナヴァルはそうはさせまい、と動く。

 

 


「 どうする、ヤツラのランナバウトの方が、あの嬢ちゃんに、近い!」


「 こうするもねえ、

 一番近いやつに機銃をあびせてやる!」


「 ラジャー!」



 バリバリバリ!……機銃の斉射音が、けたたましく、叫ばれるように、響いた。


……一機、二機……

 損傷をもたらしめた敵機体が、数機、擱座してその場で動きを停めた。

 が……

 


「これでも、追いつかんか! ……!」

 

 

 そう判断したリレンスの決断は、素早かった。

 

 

「ナヴァル!スロットルを入れろ、最快速だ!」


「アイアイ!」


「全力で走行しろ、何にも構うな。

 あの嬢ちゃんたちのところに、滑り込められれば、それでいい!」



 ナヴァルの操縦桿を握る腕の手に、冷や汗がよぎる。



 

「シミター・ストリーキングを、見せてやれ!」



hoフゥ!」

 

 

 ラヴァルの顔に、決意がみなぎった。

 



「……ゴゥゴゥゴゥゴゥゴゥ!!!! ムーブ、ハリーアップ!!!!」




 機体の動力系を空ぶかしさせて、

 密林でやるには到底、……動作タイミングなどの都合により…

…200番部隊の教練所では推奨されない、とされた、

 高速度域での高機動戦闘、しかも、それの白兵戦!


 それを、ラヴァルとリレンスのシミター機・302-5番機は、

 敵部隊に対して、果敢に、仕掛けようとしていた。


 そしてたった今……

 ナヴァルの操縦の腕は確かなものであった。

 ドリフト・スピンかのような強引な操縦操作で、

 ラキアと、その少女へと迫り寄ってくる敵ランナバウトとの間に、シミターはねじ込まれたのだ。


 

「!? お、おれちゃん、さん……」



「嬢ちゃん、生きてるかぁ!? このまま、俺たちが援護する!お仲間の上空の魔道士に、ピックアップしてもらえ!」



「お、おれちゃん、さ……「ラキアちゃん、大丈夫なのっ?!」……あ、イーリエちゃん!!」


 ラキアのことを想い、なによりも焦っていたのだろう…

…急降下の如くの速度でダイブして、上空から舞い降りたイーリェに抱き留められて、ラキアの身柄はなんとか保護された。

 


 イーリェは上空の魔法少女たちに応答と援護の指示を出し合う……

 そしてラキアの眼の前では、

 300番部隊第二小隊・その五番機、というナヴァルとリレンスのシミターが、

 肉薄していた敵ランナバウトに、牽制射撃を見舞いながら……

 これ以上へのラキアへの接近を阻止するべく、積極的な阻止迎撃を行っていた。

 

 

 大地の地面の、土塊の上のラキアを庇うように、

 その前方でポジションを取った、ナヴァル操縦手とリレンス車長の、シミター302-5番機は、

 傷ついた、いたいけな少女を守る不動の守護者かのように…

 敵の魔の手。それをし折り、ついえさすべく、

 シミターによる射撃戦闘のフェーズへと、流れるように持ち込んでいた。

 そして戦端は開かれた……

 密林の中、銃撃の音が相互の交互に、木霊する。

 空中を交錯する曳光弾の炎光が、

 互いの火線の数の分だけ、放たれては閃いて……薄暗い森の中で明滅した。

 敵のランナバウト隊とこちらシミター一機との、銃撃戦である。

 けれど、もうこちら側の達成目標はクリアできた!

 あとは、相手がどう出るか…

 スマートな判断として、引き下がって撤収するのもいい。

 ただ、自らの機への撃墜スコアの記入となしえれるなら、

 まだこの戦場の場で、踏み留まり、踏ん張っても、良い。

 自分たちシミター隊の“ディナー・タイム”は、今からだ…

…目の前にありつけた戦果と戦勲のチャンスに、

 確かにナヴァルは不敵な笑いをこぼした。



「あ、ぁ……おれ、ちゃ、ん、さ…」



 一方の保護されたラキアは……


 敵たちとの間に、灰色のシミターの機体が割り込んで、

 遮る“壁”となってくれたかのような。その一連。

 確かにこの瞬間、畜鬼とも恐れられる…その灰色の怪物は、この少女のための守護精霊となった。

 ラキアは、そのシミターの勇姿を、

 其れを操縦する…俺ちゃんさん…ナヴァルの勇躍を、

 生涯忘れ得ぬものとして、

 脳裏と、心と、その目に…あふれる涙で潤むその視界の中で、焼き付けた。



「こちら、イーリエ! ラキア少尉の保護に成功しました!」




 よっしゃ!

 


「救出、完了! これで、あとは……」


 

 力まかせに強引な、スマートではない己等シミターの行動ではあったろうが、

 しかし、牙には牙を、剣には剣を、だ。

 そう判断しての己の反射とその筋立てはうまくいったらしい。

 全ては順序よくいった! リレンスがそう胸をなでおろしかけた……



「……なにっ?」



 ブザーの警告音が、密閉された容積のあまりないコクピット内でけたたましく鳴り響いた。

 その時、シミターのセンサーに感知したものがあったからだ。

 飛翔してきた“弾頭”の物体、

 それは……

 

 


「しまった、パイロチューブだと!?」





……密林のさなかで、炸裂音が鳴った。


 

 


*****


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