5(5/6)-ルーのお礼?-
* * * * *
「…………」
どっかの馬の骨がたそがれていますよっ、と。
「………」
よけいなこと、しちまったのかなぁ、
「…厭、そんなことはない……筈」
大事な、誕生日のケーキがつくれるのだ……渡した材料はまだ数回分使えるはずだ。余分を見て多めに買っておいたのだ。
でも、やっぱり雰囲気と気分の問題、というのがある。
盛大にそれをぶちこわされたからこそ、あの場でルーの奴は、泣いてしまったのだ……
誕生日の前日の席でそれをやられたのだから、ルーの奴にとってはたまったもんではないだろう、と俺は感じた。
そうかんじていた、その日の夕方頃のことだった。
「………あの、」
俺の部屋を尋ねたのは、ルーのやつである。
「ゆうた、すみませんでした……あのあと、タチアナにも言われたんです。ゆうたが誕生日のボクの為に、大切な材料を買って渡してくれたんだ、って……」
泣きはらして赤くなった両目をこすりながら、
ルーのやつは、すっかりしおれてしまっている。
まぁな、と言葉を返そうとして……
しまった、と俺は青ざめた。
俺の机の上に置かれている、洋菓子のパウチのことである。
「あっ、“丸太のけぇき”……」
スーパーで売ってる、袋入りの輪切りバームクーヘンだった。
ルーのはなしに食欲を刺激されたので、
こないだ食べようと思って買っておいたのを、手が着いてないままの奴だった。
「…たべてみて、いいですか?」
「……いいぞ、」
「………、」
「………、、」
「手作り、のよりも、おいしい、ですねっ、」
ほろり、とルーの目から、涙の粒がこぼれておちた……
「………~~~~~、、、、。。。」
「えっ、ひゃっ!」
そんなルーのやつの手を、俺は引っ張りながら、
一階のキッチンへと誘った。
「なんですか、これ、?」
「これはな……、、、、」
用意したのは、我が家愛用の、一リットルの高脂肪牛乳と、
ふるーちぇ、である。
まったく、シンプルイズベストの精神を忘れていた。
この異世界にはないであろう、
シンプルかつ独自性のある味の食べ物ならば、
ルーのやつは気を取り直してくれるに違いない。
なにより混ぜるだけで簡単に作れるこれは、
ルーのやつにとっても、いい学習の経験になるだろう。
甘いもの好きな我が家において、特にこれを特別好む、母親と父親、
それに妹さまの采配によって、
我が家の食料庫には常時これの元が複数個常備されているのだ。
「いいかぁ? これをこうしてだな……」
「あっ、すごい……」
ボウルに出した牛乳で、ふるーちぇの元が溶け込んでいくと、
ミルクの風味の匂いと、
あの独特の甘い果物の味が、香うようにあふれ出してくる。
これは、まるでルーのやつの体臭だな、なんてのは言わないが……
「そんでさ、」「ほえっ?」
いまいちルーのやつがはっきりしないので、
あまり考えず俺は行動した。
ルーのやつの背後に立った俺。
そうすると、ルーの背後から、
俺はルーのやつの手首を……かるく握ってやって、俺がルーの動きをうごかしてやる。
「これは、こうしてやってな………」「あっ……、」
シリコンへらを棚から取り出して、あとは混ぜるだけ……、、、、、、
マスタースレーヴ? 二人羽織、といった方が正しいだろうか。
なのだが、
なんだろう、
内に収まるこいつの、
ドキンドキン、という脈拍が俺にまで伝わってきて、
こいつの小さな呼吸の声が、
だんだんと高鳴るようにきこえはじめていて、
俺の身体におさまるルーのやつの体温が、
すごく上がった体感がある。、、、、。。。。
「………、、」
無言のまま、ルーは俺の握った腕の動きをなぞるまま、
ボウルにふるーちぇを溶かす作業をした……。。。。。。
「さぁって、」「! わ、わ、」
あんまり混ざらなかったが、照れくさいのは俺もであったので、
お椀を二つ用意して、作った半混ざりのふるーちぇを、取ってやる。
「さて、いただきます、だな」
「えっ、えっ、えっ……、、、ゆぅ、た……、、、、、、」
そういって首を下に下げた俺は、びっくりした。
すっかり頬は赤色に染め上げ、ぼぅっ、とした、様子の…
…ぼんやりしたような様子のルーの顔が、そこにはあったからだ。
吐息はこまやかにかすかに、しかし荒くなっていて、
その小さな呼気は、熱くて、小刻みに震えて吐かれる。
「あっ、………、 、、、、」
目も潤んでいて、
そこにはどこに出したって恥ずかしくないような、
溶けるような、とろけるかのような、そんな砂糖の像かのような……
儚げな美少女が、現れていた。
「うっ、……、とりあえず、たべるぞ。」「! うん、うんっ!」
またにこやかな、満面の、
満たされ切ったかの笑みで微笑まれたわけだが……
心臓に悪い、とはこのことか!
このへんてこなルーのやつの破壊力と威力は、俺にとって、すさまじく甚大だった。
……はっ! いかんいかん、
頭を切り替えていかねば……
「はぐっ、ん、!」「どうだ?」
「とってもひんやりしてて、ミルクとくだもののあじがして……、!」
「 ふるーちぇ、おいしいっ! 」「だろ~、?」
つめたい牛乳のおいしさは普遍的だ。
これなら熱っぽくなったルーのやつも、元通りになるに違いない。
……と、俺は楽観していた。
結果をみてみやう。
俺はふつうに戻った。
だが、ルーのやつだけが、ふつうに戻れていない。
「……ねぇ、ゆうた。」「……ンッ??」
見下げると、ルーのやつが、口をひらいたままで、
「あーん、して………」
「………、、、、」「あぅ、ひゃぁっ、うはっ♪」
ひとくち分を運んでやると…(後で気づいたが、そのときは俺のスプーンを使ってしまっていた)…
ルーのやつは、何故かはしゃぎながら、その一口を食べた。
「ゆめみたい、です、ねぇっ♪」「…、…ま、まあな……」
なんというか、今日は心臓に悪い日だ……
このゆうたとルーの奇行ぶりを、
「………、、、、」
塾から帰ってきた、ゆうたの妹が、
冷ややか~、に、見ていた。……
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