7(7/10)-かみ?紙?神!-
今回の連続投稿は後、残り三話となっております…
今回もごゆるりと…
× × × × ×
「だいたいね、あーたも不幸ネ。でも、ワタシの方がもっと不幸ネ」
「う、ウム……」
「ワタシの商会も、ワタシが“まだ”あーたの御用商人やってるのも、
ワタシの父上があーたの家臣だったから、
しかたなくここで商売しているだけネ
もし不足があった場合、情けご容赦なく、出て行きマス」
「う、う、うむ…ッ」
「ソノアカツキには、今までの貸したお金、指そろえて、即日返してもらうネ!」
テュポンのなじりが、絶好調に高まったとき、
「や、やめ、──やめろぉ!」
扉が開け放たれて、小柄な身体の子供が割り込んできた。
ルーテフィアだ。
我慢が利かなくなって、ルーテフィアは突入してしまったのだ。
「! これ、ルーや!!」
「おじいさまをいじめるのは、このボクがゆるしません!」
精一杯にルーは虚勢を張った。
自分がなにをできるかだけど……
それでもルーはおびえる感情を振り絞った。
「フーン、」
制止するガーンズヴァルの声を背景に……
テュポンという名前のそのオーク顔は、値踏みするかのような目でしばらくルーテフィアをみたあと、
「ちんちくりん、ネ」
「む、むっ……!」
あしらうようにテュポンは言葉を続けて、
「子供はオトナ同士の話に首を突っ込まナイ、これ心がけることネ」
「子供では……──!」
ルーのその虚勢をはったりだと見抜いてか、
テュポンは、それからしばらく、考えた、というような顔をしたのち、
「あーた、おんなのこのおひめさまを娶れるだけの立派さがないネ」
「はい?」
「ワタシの娘はあーたにゾッコンくびったけで、ちっちゃいときから今日までずーっと、あーたに惚れてるなのネ。
ワタシにはおとうさんとしての義務と責務があるネ。
結婚相手はよーく考えるように、ってすっぱくいっても、
カラスも鳴かない無駄足だったノーネ。
あーた、こんな貧乏貴族に生まれておいて、甲斐性あるかなのネ?」
「は、はぁ……?」
「甲斐性だけなら、あーた、ワタシの家に嫁げば、まあなにもしてやらないわけではないし、一応おかねもちのなかまいりなノーネ。
ただ、性別の問題は残るノーネ?
まあ最近は、女同士でもこどもをつくれる技術があるノーネ。
娘は万が一にも心配ないっていうてるノーネ。だけどね……」
「!? え、えぇと……」
「というか、あーた、」
テュポンは、びし、と指さし、
「本当はおんなのこじゃないカネ?」
「 ! 」
びっくぅ、! とルーテフィアのアホ毛が跳ねた。
ガーンズヴァルは愕然とした表情となって、
脂汗と冷や汗を顔面中から垂れ落としている。
この家庭の、核心的な秘密が、今、このテュポンに試されている……
一方のアリエスタ、はというと、
(あぁん、ルーテフィアさま、ステキ!)
(わたしのずっと夢見憧れてきた、いとおしの、王子様………、、、)
萌えていた。
(初めてあった日は、雪の日だった。貴方とわたしがまだ幼かった頃の、
お父様が開いた晩餐会の時のことだった……)
(あのころから……! かっこ……かわいく? 美しく成長された!
そんな貴方はもう借金の抵当に、
伴侶としてわたしが手に入れることを、
お父様になんども約束を求めたの。
お父様は渋るけど…
…でも、おうちが畳まれちゃうんじゃ、保護者は必要だわよね?)
このアリエスタは、ルーがおんなのこであることを知らなかった。
(さらば、ガーンズヴァル……勇者の最期よ!)
アリエスタも最高潮に達していた。
「ま、またれてくれ、テュポンよ、ルーも抑えるのだ……」
へこへことするばかりのガーンズヴァルは言葉を続けて、
「紙を買うための、金子の、支援を……」
「あーた、ショウキで言ってるのかネ?」
紙、そうか、その事か!
ルーテフィアは脳裏に、
あの分厚く束になった白き純白の、魅惑の、こぴーようし、という
モノの姿を、ありありと思い出すことができた。
ルーは勢いよく振り返り、
「ゆ、、ゆうた! ボクに、ボクたちに、紙を分けてくださ……──」
が、ゆうたの姿は、いない。
「……あ、あれ、? ゆ、ゆうた? どこにいったのですか?」
みすてられた。
ルーテフィアの脳裏に、そんな言葉がよぎった。
「……え?」
ゆうたの姿は、忽然と消えてしまっていたのだ。
扉の向こうをみても、いるのはなぜか鼻血をだして抑えているアリエスタだけ。
永劫の別れのように思えた。
「ぅ、ぅぇ、、うぇぇ、ぅえぇぇぇ……、……ぐすっ、ぐしゅっ」
ほろほろ、と涙が、両目から垂れおちてきた。
涙はとまらない。
垂れおちるそれを、止めて終わらせようとしても、
泣きやむことができない。
(ルーテフィアさまがお泣きになられてるわ!
どうしよう!? 冷静になるのよ、わたし、…アリエスタ…!
でもこのままなら、確実にルーテフィアさまを伴侶に迎えられる!
紙を買うためのおかねなら、わたしのお小遣いならまあ足りなくはないけど……
どうしよう、ここまで無策だったなんて、
心苦しさと罪悪感がわいてくるけど……
でも、それでいい。いや、それがいい。……、
わたしとルーテフィアさまの幸せな結婚生活のためには、
代償がひつようなの。
きらわれるのはこわいけど……
今のこれの、この瞬間は必要な対価なのよ!……わかれ、わたし!)
助けそうになっている自分の心情を躊躇させるために、アリエスタは思いつけるだけのいいわけを自分の中で唱えていた。
「ゆうたぁぁぁあぁ、ぐすっひぐっひっぐ、、」
ルーテフィアは、
己がいかに甘い考えでいたことを痛烈に後悔していた。
いまこの瞬間まで、口の立ち頭の回転も捗るゆうたの支援と援助をアテにして、自分の行動というのは成り立っていた。
ゆうたと出会って以来、いままでがそうだったのだ。
ルーテフィアは絶望するしかなかった。
「ゆうたぁぁ、ゆうたがいないと、ボク、なにもできないよぉ、
ボク、やくたたずだったよぉおぉっ!」
「孫よ……」
泣きわめくルーテフィアに、ガーンズヴァルは己を恥じることしかできなかった……
そのまま永劫とも思えるかの経過で、数分が経過した。
そのとき、
「……──きゃっ?!」
アリエスタはその何事かに驚いた声を上げて、
ルーテフィアは泣きじゃくりが一瞬止まって、
部屋の中のテュポンとガーンズヴァルが胡乱げにそこを見た、
その直後……
がぁん! と扉が開け放たれる音が響いた。
外の冷たい外気が、
空気となってこの応接間に吹き込んだのがその時だった。
急速に換気が行われて、空気が入れ替わる感覚が、
この場のすべての人間が感じ得ることだった。
「ガーンズヴァル爺、紙が、紙が必要なんだろう?」
声のした方へと、異世界の皆の視線がふりむけられた。
手押し台車いっぱいにコピー用紙の未開封束を積んだ、ゆうたの姿がそこにあった。
* * * * *
「役所の書類だから、こんくらいは必要かって見繕ってきたが……」
ゆうたはなんてことない、と鼻をすすって、
「おやじの部屋の仕事用の予備と、居間のコピー機用の予備と、
俺の部屋の予備。
全部あわせたが、なんとか間に合うもんだな。」
「ゆうたぁ!」
「ぬわっ?!」
ルーが、ゆうたの胸元に抱きついた。
顔の涙と鼻水をこすりつけて、ルーテフィアはゆうたに泣きじゃくる。
「ぐしゅっ、ぐすっ、ぐずっ、ぅっ、ひぐっ、ぅうぅっ」
「なんだなんだ、どうしたんだよ、ルー!?」
「あ゛り゛か゛と゛ぅ、ございますっ……
…ぐすっ、おじいさまの窮地を、
ボクの家の一大事を救っていただけた…
ボクのことを、たすけていただいた……
…ぐずっ゛、ぅぇぇ、ふぇえっ、」
ルーテフィアは、なおも泣きじゃくりながら、
「このおれいは、受けたご恩は…
…とてもではなくお返しできないです……ぐしゅっ、」
ゆうたの胸元から顔を上げて、
「ゆうた……! ありがとぅっ!」
そうしてさらに、再び顔を胸元に押しつけた。
ルーテフィアはなきじゃくりながらだし、
それをゆうたは優しい表情で見守っていた。
「ちょっと、チョット、」
そこを遮って、
「話があるネ」
テュポンは、ニッ、と悪面相を笑まさせた。
* * * * *





