5話「癒しはここにあります」
パルフィと過ごす時間は癒しそのものだった。
何よりも平和。
変に気を遣うこともなく。
意外なことだが、私たちはまるで昔から知り合いだったかのように穏やかに語らうことができた。
「このお茶、良い香りですね」
二人向かい合って飲むお茶からは柔らかな深みのある匂いが漂っている。
まろやかさと渋さが入り混じり、さらにそこに僅かな甘みが加わったような、そんな味わい。
静けさの中、お茶が良い意味で心に刺激を与えてくれる。
「じっくり発酵させた茶葉を使ったお茶なんだそうです」
「えっ、発酵ですか」
「そうなんです。僕はあまり詳しくないんですけど、でも、結構人気のある御茶みたいで」
「そうなんですか……」
ベルガルと一緒にいる時とは違って、会話がさらさらと流れてゆく。しかもその言葉たちに棘はなく。むしろ、彼の口から出る言葉は、そっと我が身に沁み込んでいってくれるようなものばかりだ。
「やや高めではあるんですけどね」
「高級品?」
「いやいや、それほどのものでは。ただ、一般家庭で飲むには少し高級寄りかもしれません」
「そういうことですか……! 分かってきました」
どうでもいい話かもしれない。
でもそれが何よりも愛おしい。
「興味あります? お茶とか」
「はい」
「あ、それじゃあ、後でお茶図鑑お渡ししますよ」
「え」
「贈らせてください」
「そんな!? ……い、いけません、そのような贈り物を誰にでもしていたら。善良な心で、だとしても、時に誤解を生んでしまいます」
言えば、彼はふふっと笑う。
「ご安心を。誰にでも、なんて、そんなことは絶対にないですから」
パルフィは柔らかな表情ながらはっきりと言った。
「僕が誰にでもそういうことしてるって思ってます?」
「貴方のことはまだあまり知らないので、いきなりだと若干そう思ってしまいますね」
「それは……問題ですね。もっと信頼してもらわなくては」
「あ、何というか、すみません。私、パルフィさんのことを信頼していないわけではないんです。悪い人だって思っているわけではなくて……」
そう、パルフィのことは気に入っている。
でも真っ直ぐに彼を信じられない部分もあるのだ。
「……ただ、色々あった後なので、男性を素直に信じられないといいますか……嫌なことが似たような感じで繰り返されたら嫌だなって、少しそう思ってしまうんです」
ここは敢えて本当のことを言うことにした。
すると彼は。
「そうですよね、すみません余計なことを言って」
穏やかな目をしたままそう返してきた。
彼は怒らなかった。
それが何よりも救いだった。
「気にしないでください、アリシーナ様」
言われて、思う。
それって……、と。
「あ、あの……」
「何でしょう?」
「その、様とつけるのって……どうにかなりませんか?」
小さなことを気にし過ぎているのかもしれない。でも一度気になるとどうしても気になってしまって止まらなくなる。その苦痛から逃れるため、私は思考を口から出してしまった。
少し戸惑った顔をするパルフィ。
「貴方は王家の方なのですよね、なら私のことを様とつけて呼ぶ必要なんてないのでは……」
「ですが命の恩人ですよ?」
「でも、私はただの女です」
「しかし、王子の婚約者だったほどの女性ではないですか」
そう言われて。
「けれど愛されてはいませんでした!!」
感情が溢れ出してしまった。
みっともない。
でも止められなかった。




