4話「これこそ、心待ちにしていた日です」
その日は少し喋ってパルフィと別れたが、連絡先は交換することができた。
……いやまぁ交換と言っても向こうのものをこちらが貰っただけなのだが。
しかし、次に繋がる良い出会いとはなった。
私たちはまだ特別な関係でも何でもない。が、彼との出会いは私の日常に新たな光となり降り注いでくれて。希望ある未来、明日を、想わせてくれるような。そんな、前向きなものとなった。
また彼に会える。
ふとそう思う時、なぜだか分からないけれど頬が緩む。
温かい気持ちになれるのだ。
ある夜、母がにやにやしながら近づいてきて「最近楽しそうね」なんて言ってきた。私は「どうして?」と尋ねた、すると彼女は嬉しそうな面持ちで「いい感じじゃない? パルフィくんと」と返してきて。それによって母の言いたいことを察した。でも一応「そんなのじゃないわ」と言っておいたけれど。それでも母はまだにやにやしていて、まるで彼との幸せな未来が訪れることを待ち望んでいるかのようだった。
――そしてついに、パルフィの別荘へ行く日が来る。
せっかくなので少しおめかし。
髪は後頭部で一つにきっちりまとめ、軽く化粧を施して、ドレスはシンプルで控えめなデザインながら高級感のあるターコイズブルーのものを。
「わっ、今日一段と綺麗ですね!」
第一声、彼にそう言ってもらえて嬉しくて。
「そ、そうでしょうか……」
でも、純粋に喜んでいるような振る舞いをすることはできなかった。
「嬉しいです、ありがとうございます」
そう言うのが精一杯だった。
もっと真っ直ぐに喜べたなら、もっと愛されただろうか。
ふとそんなことを思って。
でも心の中で首を横に振る。
――大丈夫、彼なら悪く思ったりしない。
「ではこちらへ、どうぞ」
そう言って手を差し出してくるパルフィ。
日頃は純粋な子どものような雰囲気もある彼なのだが、いざこうしてすっと手を差し出してくれているところを見ると何だか凄く大人っぽい――って、何を考えてるんだ私は!?
「あ、えと……ありがとうございます色々」
「いえ! あ、そうでした。別荘は今日のために念入りに掃除しましたので、かなり綺麗になっているはずですよ。不快にさせてしまうことはないはずですので心配なさらないでください」
「そんなあれこれ言いませんよ私」
「あはは、そうですよねすみませんー……」
苦笑したり、軽やかに言葉を交わし合って、歩いてゆく。
そうして案内されたのは、別荘内にある広間だった。
石を連想させるような灰色の壁、ベージュの高そうな絨毯が敷かれた床。すべてが少し独特な、異国の文化を感じさせるような仕様となっている。しかし、それでいてどこか懐かしさを感じるような、そんな不思議な魅力もある。
「どうぞ、ソファに」
「あ、はい」
一つのテーブルを挟むように置かれた二つのソファ。
私たちはそれぞれに座る。
広い二人掛けソファを一人で使えるという贅沢な時間である。
「もう少ししたらお茶が届くと思いますので」
「そうですか……!」
思わず顔から本心がこぼれてしまっていたようで。
「何だか嬉しそうですね」
そんなことを言われてしまった。
だが彼の読みもあながち間違ってはいない――だって私は、この日が来るのを楽しみにしていたから。
「はい、私、ティータイムは結構好きなんです」
「なら良かったです」
柔らかく微笑む彼の顔を見ていたら、何だかほっこりした。




