■7.対馬大虐殺。(後)
時間を少々巻き戻す。
朝日に輝く海面に航跡を残しながら、井口浜海水浴場へ向かうソルゲ型エアクッション揚陸艇――それを護衛する浦項級コルベット艦『安東』は、接近してくる艦艇の姿を洋上に認めた。その艦影は韓国海軍のものではない。
すぐさま『安東』艦長以下、乗組員達に緊張が走った。浦項級コルベット艦は76㎜単装速射砲2基・40㎜連装機関砲2基・ハープーン艦対艦ミサイルを装備と、排水量約1000トン前後の艦艇にしてはかなりの攻撃力を有しているが、所詮は吹けば飛ぶような小艦艇に過ぎない。格上の海上自衛隊の護衛艦と真正面からの殴り合いになれば、容易に撃破されてしまうであろう。格下の200トン級ミサイル艇(はやぶさ型)が相手でも、一筋縄の戦いにはならぬ。苦戦を強いられることは必至である。
逃げるか、と『安東』艦長は数秒考えたが、その選択はありえない、とすぐに思い直した。この場を離れれば、ソルゲ型エアクッション揚陸艇は無防備のまま放り出されることになる。不利であっても一戦交えるほかない。
このとき悲壮な覚悟を固めていたのは、『安東』側だけではなかった。実は『安東』へ接近していたのは海上自衛隊の護衛艦ではなく、海上保安庁の巡視艇『なつぐも』であった。『なつぐも』の排水量は約100トンと『安東』の1/10に過ぎず、武装もGAU-19/A (12.7mmガトリング重機関銃)のみであり、戦闘力という点では比較にすらならない。
(巡視艇『なつぐも』)
それでも『なつぐも』側は退くことなく、法執行機関として毅然とした態度で『安東』へ接近を試みた。停船と退去命令を出すためである。この時点で『なつぐも』側は相手の所属を見極めることが出来ておらず、相手が1000トンクラス以上の船舶、あるいは艦艇であることだけ把握していた。領海に侵入する船舶に対応するのが海上保安庁の仕事であり、軍艦の対応は海上自衛隊の仕事なので、もしこの時点で領海を遊弋する不審船が韓国海軍所属艦艇、ということがはっきり分かっていれば、不用意に接近はしなかったかもしれない。
さて、「艦影見ゆ」の報告から間をおかず、『安東』艦橋の見張り員は朝日の下ではっきりと、“JAPAN COAST GUARD”の青文字を視認した。途端に、緊張の糸が途切れた。なんだ、海洋警察庁か、というわけである。また『なつぐも』側からも、海上保安庁所属である旨と停船命令といった各種信号が送られてきたため、これで『安東』側は接近中の船艇が、海上自衛隊の所属ではない確信を得た。
「射撃する」
そして『安東』艦長は、躊躇なく発砲命令を下した。『なつぐも』を捨て置けば、こちらの動向が筒抜けとなる。76mm単装速射砲2基が『なつぐも』に指向された。毎分80発近く発射可能な連射性能をこの砲は有しており、命中すれば100トン級の巡視艇など木っ端微塵に吹き飛ばしてしまう。
「あっ――!?」
『なつぐも』乗組員は砲が指向されるのを目撃して、すぐさま回避運動をとったが遅かった。至近の距離で砲弾が炸裂し、後部右舷側に破片が叩きつけられて無数の破孔が生まれ、続く砲弾が船首を切断した。第七管区の海上保安本部に射撃を受けている旨を報告する時間もなく、次の瞬間には砲弾が船橋に飛び込み、乗組員らを爆風と鋼鉄で殺傷し尽くした。
……。
対馬島、北九州一円を極大の暴力が蹂躙した。大虐殺である。韓国軍はこの緒戦の段階で、戦争遂行の障害になりそうなものすべてを破壊しようとした。『なつぐも』はただの一例に過ぎない。韓国海軍艦艇に接近した海上保安庁の巡視船・巡視艇、航空機、海上自衛隊の哨戒機はみな攻撃を受けた。
韓国陸軍特戦司の隊員が比田勝港と同港付近にある海上保安署を不法占拠すると、洋上に出ていた比田勝海上保安署所属の巡視艇『はやぐも』は大急ぎで帰港したが、保安署の向かい、比田勝港国際ターミナルのある埠頭から軽機関銃や自動小銃による攻撃を受けた。『はやぐも』も『なつぐも』の同型の巡視艇であり、防弾性が高いとはいえない。誤射の危険性が拭えないために地上の韓国兵へ12.7mm重機関銃による正当防衛を行うことも出来ず、やむなく避退したものの多くの負傷者を出してしまった。
韓国軍はさすがに警察官を積極的に殺傷しようとはしなかったが、それでも対馬北警察署・対馬南警察署は占拠された。この時点で両警察署は独島警備隊(日本国島根県竹島を占拠する武装警察部隊)に倣った、対馬警備隊の拠点になることが決まっていた。
九州地方北部では韓国陸軍の玄武巡航・弾道ミサイルの誤射により、多くの県民が犠牲となった。地上に必中の兵器はほぼ存在しないと言っていい。それが長距離を飛ばす弾頭ならばなおさらである。
特に航空自衛隊西部航空方面隊司令部のある航空自衛隊春日基地周辺は、衝撃波で薙ぎ倒され、業火で焼却され、人々の営みのあった街並みは物言わぬ瓦礫の山と化した。春日原北町・千歳町・光町は壊滅。JR鹿児島本線・春日駅の駅舎は崩壊し、線路がめくれ上がって無残な姿を晒した。
「受け容れ態勢を整える。これから全職員に緊急呼集をかける。ここにいる皆も協力して欲しい。家族や知人、友人の安否が気になるところだろうが……すまない。これは“戦争”だ」
航空自衛隊春日基地から西方数百メートルの位置にある自衛隊福岡病院は、官民の別なく負傷者を受け容れることを決定。自衛隊病院のみならず、民間病院の職員達も混乱する早朝の街を駆け抜けて職場に集った。彼ら自身の戦争に立ち向かうためである。福岡県知事の要請を待たずして、国立九州医療センター(福岡県福岡市)以下の福岡県災害拠点病院では、傷病者の受け容れ態勢の準備や、外部へ派遣する医療班の編成が始められた。
県警、消防、海保、そして市町村職員も同様である。異変を知った家族に「家のことは大丈夫だから行ってこい」と叩き起こされ、とるものもとりあえず自分の持ち場に走る者もいた。
航空自衛隊に比較すると、陸上自衛隊の被害は僅少であった。九州地方に駐屯する主要部隊は、第4師団(福岡県福岡市)と第8師団(熊本県熊本市)であるが、この2個師団は隊員達に対して速やかに呼集をかけた。同時に偵察部隊を編成し、主要市街の情報収集を開始した。
防衛省は都道府県知事や海保関係者からの要請を受け、災害派遣を決定。また早朝のため都道府県知事と連絡がとれない場合であっても、自主派遣として現地部隊に出動を命じた。
ただしこの時点では自衛隊は韓国軍に対して、正当防衛の範囲内でしか反撃を実施することは出来ない。今回の韓国軍からの弾道・巡航ミサイルが対馬島・九州各地に落下した“事件”は、現時点では武力攻撃事態(我が国に対する外部からの武力攻撃)ではない。防衛省内の制服組(武官)と背広組(文官・官僚)の意見の摺り合わせ、閣僚級の会議を経て、日本政府がこれは武力攻撃事態であると認め、防衛出動命令を出さない限り、韓国軍への反撃開始は難しい。
出典・海上保安庁ホームページ(https://www.kaiho.mlit.go.jp/07kanku/aboutus/aircraft.html#)
韓国軍の快進撃はここまでです。




