表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/58

■6.対馬大虐殺。(前)

 陸上自衛隊対馬駐屯地は、韓国陸軍・空軍の執拗な砲爆撃の対象となった。

 同駐屯地の対馬警備隊は1個普通科中隊を基幹とする部隊(約300名から400名程度)である。配備されている車輛は、非装甲の73式トラックと軽装甲機動車。重火器は対戦車ミサイルと迫撃砲を装備しているが、あくまでも普通科部隊の域を出るものではない。


 それでも韓国陸軍は陸上自衛隊対馬警備隊を軽視することはなかった。

 緒戦で彼らに壊滅的打撃を与えることが出来なければ、対馬島攻略が難航することは目に見えていたからだ。事前の情報収集で、対馬警備隊はレンジャー資格の保有者が多いということが分かっている。そして衛星画像を見れば一目瞭然だが、対馬島は大部分が森林地帯だ。生半可な攻撃で彼らを眠りから“叩き起こす”だけの結果に終わると、対馬警備隊はすぐさま態勢を立て直し、ヤマネコのごとく森林に潜んで抗戦を開始するであろう。彼らは榴弾砲や主力戦車を装備しているわけではないため、強力な火力を持続して発揮できはしない。が、それでも森林に潜む警備隊員の狙撃銃や対戦車ミサイルによる攻撃は、上陸したばかりの部隊を悩ませるに足る。


 また歴史的な経緯や土地柄から、自衛隊に対して好意を抱く対馬市民は少なくない。彼らを通して、上陸部隊の動きは警備隊に筒抜けになる可能性が高く(しかしながら島内には事前に潜伏させておいた韓国軍関係者も存在するため、対馬島という土地が一方的に韓国軍に不利、ということはないのだが)、警備隊が韓国側の弱点を的確に衝いてくる恐れがあった。



挿絵(By みてみん)

(中距離多目的誘導弾)



 故に、韓国軍は過剰にも思える火力を対馬駐屯地に叩きつけた。

 複数発の玄武巡航ミサイルが飛来し、クラスター子弾を撒き散らす。庁舎が徹底的に破壊された。対馬駐屯地北東・中央部の駐車場と、南東部の訓練場に駐車している高機動車や73式トラックの車列が次々と爆発炎上し、車体の天蓋を噴き上げる。

 続いて厳原町や美津島町の宿舎といった、島内に分散配置されている駐屯地外の官舎が標的となった。決して誤爆ではない。自衛隊員の家族を殺傷しようが、まったく無関係の非戦闘員を戦火に巻き込もうが、おかまいなしの凶行である。ひとりでも多くの自衛隊員を殺害しようという意志が、明け方の大虐殺を引き起こした。


「北朝鮮の攻撃か、派手にやる……」


 対馬警備隊長兼対馬駐屯地司令の大谷勝義一等陸佐は、彼の居住する官舎の被害が少なかったこともあって、まったくの無傷で官舎を出ることに成功した。続いて駐屯地に向かい、部隊の掌握に努めようとした。が、彼が見たのは轟轟と火焔を噴く職場。続いて頭上を飛び越していく戦闘機の編隊であった。


「おい、おい!」

「隊長! これはどういう――」

「よかった、無事だったかあッ!」


 大谷一佐は五体無事でいる当直の幹部を目敏く見つけると、まず何よりも彼の無事を喜んで声を上げた。炎上する庁舎を前にして、生存者の存在は絶望的ではないかと思いこんでいたからである。


「他の当直や警衛は? 掌握出来ているか?」


 大谷一佐が問うと、当直の幹部は興奮した口ぶりで現状を報告した。

 幸運にも対馬駐屯地の当直勤務者はほとんど健在であるという。現在は当直陸曹が中心となって、駐屯地内の消火を試みている。が、先程の攻撃で消火ポンプ班の装備が損傷してしまい、苦闘が続いていた。武器庫だけでもなんとか守り抜こうとしたものの、その武器庫にも火が回ってしまい、誘爆の危険があるためにもう近寄ることも出来なくなってしまった。

 駐屯地の警備にあたる警衛隊は負傷した警衛司令に代わり、分哨長の陸曹が指揮を執っており、更なる攻撃(例えばゲリコマによる襲撃など)に備えているが、現実には負傷者多数のため最低限の歩哨しか再配置出来ていなかった。

 だが大谷一佐はよし、と力強くうなずいた。一時は壊滅を覚悟していたが、思いのほか駐屯地の特別勤務者(当直・警衛)が健在であった。まだ組織として戦える、とわかって元気が俄然出てきたのである。


対馬駐屯地ここは棄てる」


 大谷一佐は思い切った決断を下した。武器庫にまで火が回り、使える自動車もほとんど残っていない以上、ここに残っていても何の意味もない。むしろ危険だ。対馬駐屯地は現状、敵に都合の良い的にしかならず、営外の隊員達を集結させたところで航空攻撃を受ければ、今度こそ対馬警備隊は壊滅する。

 まずするべきは島内の隊員達を掌握することであった。被爆した官舎を回り、隊員とその家族を救助。同時に緊急連絡網を活用して電話やメール、SNSで隊員に呼集をかける。駐屯地には信用できる幹部と陸曹数名を残し、事態を飲み込めないまま、とりあえず駐屯地に駆けつけた隊員達の対応にあたってもらう。


(ミサイルから航空機まで繰り出してきた大規模攻撃だ。航空攻撃だけで終わるとは到底思えない)


 大谷一佐の直感は当たっていた。

 とはいえ、武器がない状態で隊員を掻き集めて何が出来るだろうか。


(救助活動と情報収集。陸自第4師団司令部への情報提供、増援部隊の支援……)


 防衛出動命令が出るまでは正当防衛しか許されない現状では、正規軍が対馬島を攻撃してきた場合、もとより対馬警備隊の戦力では単独で対馬島を防衛することは困難である。それをよく知っている大谷一佐は、真正面から武器を持って戦うことにこだわることはなかった。対戦車ミサイルを撃ちかけることだけが戦争ではないのだ。


 ……。


 玄武巡航・弾道ミサイルと韓国空軍戦爆連合による攻撃を受け、炎上する陸上自衛隊対馬駐屯地と海上自衛隊対馬防備隊・警備所を確認した韓国軍側は、早くも勝利を確信した。

 特に数日前から外資系の宿泊施設に泊まり、観光客を装って島内に潜伏していた韓国陸軍特殊戦司令部(以下、特戦司)の隊員が、陸上自衛隊対馬駐屯地の車輛の大半が大破炎上した旨を報せてきたことは大きかった。これで生き残った隊員達を警備隊が早々に掌握し、戦闘準備を整えたとしても、彼らは島内を徒歩で移動することになるだろう。韓国海軍の揚陸艇を吹き飛ばしてしまえる、車載式の中距離多目的誘導弾も出ては来るまい。


 韓国軍の対馬島侵攻は、複数箇所で始まった。

 突如として対馬島中央に所在する対馬やまねこ空港の駐機場に、韓国陸軍の大型輸送ヘリCH-47D・LR(長距離航続型)複数機が着陸。そこから降り立った韓国陸軍特戦司・空輸特殊作戦旅団は、速やかに対馬空港を占拠した。仮に対馬空港が航空自衛隊との共用空港であれば、航空自衛隊の基地警備隊が抵抗したかもしれない。だがしかし、同港は純然たる民間空港であった。常駐する空港職員はみな拘束され、あるいは銃口を突きつけられて、韓国軍の指示に従うほかなかった。無血で対馬空港は陥ちた。

 続けて彼らは管制塔を利用して、周囲の旅客機に対馬空港に着陸を試みず、近隣の空港へ向かうよう指示を出した。これで彼らは1本とはいえ、1900mの滑走路を自由に使えるようになった。韓国軍が装備・運用するCH-130H戦術輸送機は、離陸に約1100m・着陸に約600mしか必要としないため、これで十分である。勿論、固定翼機のみならず、CH-47Dのような大型輸送ヘリの離発着も可能だ。時速約250㎞と鈍足である大型輸送ヘリでも、韓国国内の基地から対馬空港まで2時間とかからない。主力戦車をはじめとする装甲車輛を運ぶことは出来ないが、物資や人員を運ぶのはヘリでも十分である。


 それに若干遅れて、韓国海軍第1艦隊所属哨戒部隊の浦項ぽはん級コルベット艦に護衛されたソルゲ型エアクッション揚陸艇2隻が、対馬島北部にある井口浜海水浴場に進出した。井口浜海水浴場の砂浜は幅で言えば約150m程度、奥行きは数十mと決して広いとは言えない。それでもここが揚陸地点として選ばれた理由は、対馬島はリアス海岸の地形が多く、エアクッション揚陸艇で素早く揚陸が出来る砂浜が他にそう多くはなかったためである。

 勿論、この海水浴場だけで人員や車輛、物資を揚陸するのは窮屈だ。

 であるから韓国軍は、島内に存在するいくつかの港を押さえにもかかっていた。漁港の近くにある市立小中学校や県立高校の校庭に強行着陸した輸送ヘリから、次々と韓国陸軍特戦司の人間が現れ、漁港に散っていく。漁港の岸壁に漁船が係留してあると邪魔なので、現地の市民を脅して漁船を退避させるためである。こうすればチャーターした民間船舶でも輸送は可能になる。特に釜山行き定期便のフェリーが運航されている比田勝港を、韓国軍は優先して手中に収めた。


出典・陸上自衛隊HP(https://www.mod.go.jp/gsdf/equipment/fire/index.html)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ