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■5.北九州、壊滅。(後)

「春日DC、春日DC。こちら6SQロウレル61。築城被爆。築城コントロールとの通信途絶。ミサイルの迎撃を望む、発砲許可を求む」


 前述の通り、第19警戒隊をはじめとするレーダーサイトとの通信が途絶した時点で、築城基地からは緊急発進任務に就く第6飛行隊および第8飛行隊のF-2A戦闘機4機が、情報収集のために飛び立っていた。そこに“弾道ミサイルと思しき飛翔体の迎撃を実施中”という海上自衛隊護衛艦隊からの通報を受け、同隊は追加で空対空装備のF-2A戦闘機を空へ上げようと努力した。

 が、弾道・巡航ミサイルによる攻撃を察知してから、築城基地の滑走路が破壊されるまでの時間はわずか数分。緊急発進任務に振り分けられていた機以外のF-2Aに空対空装備を施し、発進準備を整えられるだけの時間では到底ない。

 結果、飛び立てた機は第6・8飛行隊あわせて6機。しかも装備は領空に接近する航空機に警告を実施する緊急発進機と同様のため、射程10㎞前後の短距離誘導弾・AIM-9サイドワインダーと、固定武装の20㎜バルカン砲のみである。


「繰り返す。春日DC、こちら6SQ。築城コントロールとの通信途絶。ミサイル迎撃の許可を求む」


 空に舞い上がった第6・8飛行隊の操縦士達も戸惑った。管制塔と通信設備が破壊されたか、築城基地第8航空団司令部とは通信が途絶。そして航空自衛隊春日基地に所在する、防空指揮所(DC)とも連絡が取れない。


「6SQ各機。こちら6SQロウレル61。6SQは隊法95に基づき迎撃を実施する」


 やむなく第6飛行隊・第8飛行隊機は独自の判断で、巡航ミサイルの迎撃を実施することに決めた。

 自衛隊法第95条では“自衛隊の武器等の防護”と“施設の警護”のために、“合理的に必要と判断される限度での武器使用”が認められている。“合理的に必要とされる限度での武器使用”とは、明確に基準が存在するわけではない。が、警察官職務執行法に当て嵌めて考えるならば、拳銃を使う相手に対しては拳銃を使用、といった相手と同程度の武器使用を指すのであろう。

 つまり一応の法的根拠はある。

 早速、第6飛行隊は遅れて飛来した玄武巡航ミサイル六発を、サイドワインダーで迎撃することに決めた。とはいえ無遠慮に誘導弾が撃てるわけではない。周辺空域の旅客機誤射を防ぐため、必ず一度は標的を目視し、巡航ミサイルであることを確認する。さらに市街地上空でミサイルを撃破するわけにはいかないため、迎撃地点にも細心の注意を払う必要があった。


「FOX2――」


 福岡県北九州市南小倉地区に広がる山地上空が、格好の迎撃空域となった。

 射程が短いサイドワインダーでは巡航ミサイルの撃墜は難しい、と操縦士達は知りつつの射撃である。だがいま地上の人々と仲間達を救うには、これしか手段がなかった。必中の祈りとともに、サイドワインダーが空中を奔る。

 結果、四発の玄武が爆散した。残るは二発。一発は航法が甘かったのか、山腹に激突。ただ残る一発は第6飛行隊の攻撃をすり抜けてしまい、築城基地へのコースを辿った。

 が、ここで戦闘態勢を整えた第8基地防空隊が対空戦闘を開始。基地防空用地対空誘導弾が、今井津須佐神社(福岡県行橋市)上空で敵弾頭を破壊した。弾体を構成していた大部分は鎮守の森に落下し、市民に被害が及ぶことはなかった。まさに神佑である。


「ロウレル61、こちら8SQアビイル81。対馬島上空に国籍不明機アンノウン多数。対応する」


「アビイル81、ロウレル61了解。……NK(※北朝鮮)か?」


 他方、第8飛行隊のF-2A戦闘機2機は対馬島上空に迫る国籍不明機――否、領空侵犯機への対応に向かった。機数は12。朝鮮半島方面から飛来したことに加えて、編隊を組んでいることから状況を判断すれば十中八九、北九州一円にミサイル攻撃を仕掛けている軍事組織のそれに違いない。

 が、1%でも民間旅客機誤射の可能性があるのならば、領空侵犯機を目視して旅客機でないことを確認しなければならない。また法的には未だ領空侵犯機自体からは射撃を受けていないわけであるから、正当防衛は成立しない。この時点では領空侵犯機に対し、武器を使用することはできなかった。


(もどかしいが仕方がない)


 第8飛行隊機は領空侵犯機に接近するより前に、位置エネルギーを稼ぐべく高度を上げた。一般的に現代の空対空戦闘は、高度は高い方が有利と言われている。ミサイルの射程はより高い高度から発射した方が延長されるし、回避運動をとるにしても下方へ逃げられる高所の方が有利だからだ。

 2機は高度をある程度稼いでから、北九州市上空を経て洋上に出る。


 と、次の瞬間であった――警告音。


「ブレイク」


 編隊長は短く指示を下した。第8飛行隊機は脱兎のごとく逃げ出した。F-2戦闘機の備えるレーダー警戒装置が「自機が何者かからレーダー照射を受け、現在のところ捕捉照準されている」と、第8飛行隊の操縦士らに対して一斉に告げたからであった。


(ミサイルか――!?)


 操縦士らが見るにレーダー照射元の方向は北――地理的に表現すれば、釜山南方沖のあたりである。事前に集積されているデータと照合すると、韓国海軍のそれに近いとすぐに判明した。


「SM-2発射準備完了。よろしいですか」

「自衛隊機に我が空軍機への接近を許すと友軍誤射の可能性が高まり、攻撃の機会を失う。その前に攻撃せよ。対馬周辺海域は我が軍の“聖域”であることを思い知らせてやれ」

「……了解。SM-2発射」


 第8飛行隊を照準したのは、釜山南方沖に遊弋する韓国海軍世宗大王級駆逐艦『世宗大王』だった。『世宗大王』は護衛艦『こんごう』同様にイージス防空システムと、対航空機用のSM-2スタンダードミサイルを備えており、対空戦闘を得意としている水上艦艇だ。

 噴煙曳きながら、SM-2が空へ舞い上がる。

 他方の第8飛行隊機は反転し、SM-2に対して背中を見せるようにして飛んだ。敵誘導弾の最大速度はマッハ3.3、対するF-2A戦闘機は最高速度で飛んだとしてもマッハ2が精々である。

 だがしかし、敵誘導弾の方が優速であったとしても、遠距離から発射されたのであれば、単純に正反対の方向へ飛べば振り切れる可能性は高まる。誘導弾のロケットエンジンは長時間燃焼するわけではないため、彼我の距離が開けば開くほど誘導弾の速度は落ち、運動性能も低下する。一方の逃げる側――今回はF-2A戦闘機だが、こちらはエンジンが止まることはなく速度も運動性能も落ちないため、遠距離からの攻撃ならば逃げ切れる、というわけである。


「韓国海軍(ROKN)?」


 ただしSM-2を躱したところで、空対艦誘導弾を装備していない現在の第8飛行隊には反撃手段がない。編隊長は歯噛みした。対馬島沖を敵艦に抑えられている以上、領空侵犯機に接近できないではないか。

 第8飛行隊がやむなく対馬島周辺空域に近づけないまま離れていくのを尻目に、12の領空侵犯機――韓国南部の大邱空軍基地と泗川空軍基地から出撃したKF-16戦闘機4機と、F-15K戦闘機8機から成る攻撃隊は、対馬島上空に至った。


「ピースアイ01。こちらストライカー201、ヤマネコを目視。ヤマネコは被爆炎上。玄武カメの攻撃は有効と認む」

「ストライカー201。ピースアイ01、了解。貴隊の周囲に脅威となる敵航空機はない、所定の行動に移れ」

「了解。ストライカー201、攻撃を開始する」


 高空に控えるAIM-120中距離誘導弾を備えた護衛役、KF-16戦闘機のカバーのもとで航空爆弾を装備したF-15Kが低空侵入する。


 その先には陸上自衛隊対馬駐屯地がある。


■6.対馬大虐殺。に続きます。

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