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■48.白龍vs海龍!(前)――ヘリボーン、厳原!

(注)残虐な描写が多いです。白龍作戦を発動したJTF-防人と第1海兵師団“海龍師団”の対馬諸島攻防戦は全話通して死闘であると考えて頂ければ幸いです。両陣営ともに死傷の描写が多くなります。また前話ラストと微妙に繋がらないのですが、ご了承ください。よろしくお願いいたします。




 厳原いづはら港の南側には張り出した岬があり、そこには標高約190mの向山むこうやまが鎮座している。その向山を盾にAH-64D戦闘ヘリコプター4機は、厳原港に接近した。前述の通り、攻撃ヘリは敵の反撃に対して脆弱であるが、その一方で地形を活かした戦術を採ることが可能である。厳原港を守る海兵隊も、山の向こう側に潜むAH-64Dに攻撃を仕掛けることは出来ない。


「GTM(対地目標モード)」


 1機のAH-64Dが慎重に高度を調整し、メインローター最上部にあるAN/APG-78レーダーのみを山の稜線から露出させた。次の瞬間、AH-64Dの正面90度に亘ってビームが6㎞先まで照射され、静止敵目標・移動敵目標が特定される。この間、わずか6秒。情報はすぐに他の3機に共有された。続いて左側面90度も索敵し、不意打ちの反撃を受ける可能性を潰す。


(思いのほか敵が多い)


 コールサイン“アパッチ1”の前部操縦席に座る射撃手は、多目的表示画面に表示されたレーダー地図に視線を落とし、舌打ちをしかけて止めた。

 港湾施設から離れた市街地にあった敵陣地は、陸自特科火力投射と航空攻撃、艦砲射撃で叩けたが、厳原港自体に対しては積極的な攻撃が出来ていなかった。重装備を積み下ろし可能な橋頭堡を築くために厳原港を獲りに行くのに、不確実な攻撃で岸壁を破壊してしまうと、元も子もなくなってしまうからだ。

 そのため港湾施設を守備する敵部隊は、対戦車ヘリコプター隊が直接照準で排除するしかない。また敵は装甲車輛や自走対空車輛を数多く持ち込んでいることから、後からわらわら湧いてくることだろう。巧妙に隠蔽された陣地もあるかもしれない。それらを炙り出す威力偵察任務も、彼らには課せられていた。

 その4機の武装はといえば、いま翼下にAGM-114ヘルファイアミサイル8発と、70㎜ハイドラロケット38発が吊り下げられている。前者で港湾施設を防衛する車輛を撃破し、後者は市街地や港湾周辺の山地から攻撃してきた敵を制圧するのに使う。


「アパッチ4、ATM(対空目標モード)」


「ウェポンズフリー、エンゲイジ」


 1機がレーダーを対空走査へ切り替えて警戒を開始するとともに、残る3機は安全な向山の陰から躍り出た。抜き打ち。黒々とした弾体が火を噴きながら空中へ滑り出し、僅かな時間を置いて目標に直撃する。

 港湾最奥部さいおうぶの埠頭に配置されていた2輌のK30自走対空機関砲は、向かって来るヘルファイアミサイルに対して迎撃を試みた。が、正面から見て約18cmの全幅しかない高速の弾体を撃ち落とすのには、時間が足りなかった。1輌は車体前面の機関室にヘルファイアが飛び込み、文字通り内部から爆発四散。もう1輌は1発の迎撃に成功したものの、続くもう1発のミサイルが車体上部から飛び込んで、乗員を皆殺しにしてしまった。


「畜生ッ」


 脅威度の高い自走対空機関砲を潰したことで安堵したその2秒後、最左翼の“アパッチ3”の操縦士は小刻みな衝撃を感じると同時に、自機が上げる甲高い悲鳴を耳にした。


「アパッチ3、10時方向! 漁協近くの建物から撃たれてる!」


 建物の屋上。銃架に据えられた機関銃が火を噴き、滞空する“アパッチ3”を叩いたのだ。機体表面に複数の弾痕がつき、後部にある衝突防止用ストロボ灯が弾ける。“アパッチ3”の射撃手は冷静さを失わないように、敵火点を睥睨する。

 その“アパッチ3”に留まらず、他の機体も四方八方から射撃を受けた。厳原港を自衛隊がりに来ると睨んだ林中将は、それまでの消極的な姿勢を捨て、積極的な反撃を実施するように命令を下していたのである。よって重機関銃から自動小銃まで、あらゆる小火器を使った対空火網が形成された。

 鉄と鉄が激突し、火花が散る。AH-64Dは東側諸国製23mm機関砲の射撃を受けても飛行が継続出来るように装甲化されているため、この程度の十字砲火では大したダメージにはならない。だがしかし、操縦席を覆うキャノピーは別だ。こちらはアクリル樹脂に過ぎず、小銃弾を止められるか怪しいものである。呑気にはしていられない。

 そのため各機は回避運動をとって敵の火線から逃れ――抵抗するその全てを、地獄の業火で焼き払った。

 鎮守の森がロケット弾の斉射に蹂躙され、敵兵が潜む建物が火焔と黒煙を吐き出し、海運会社のコンテナで築かれた防御陣地が秒速400mで翔ける鋼鉄の礫に吹き飛ばされた。

 が、一方的な蹂躙は続かない。


(レーダー警報――)


 レーダー信号探知装置が敵レーダー波を捕まえたらしく、間の抜けた合成音声が操縦士達に警戒の必要を告げた。発信源の所在は捕捉出来なかったが、AN/APG-78レーダーが先に発見出来なかったということは、おそらく8、9km先にいる。当然、ヘルファイアミサイルの射程外だ。

 日韓戦争勃発以降、韓国軍が発射したレーダー波の記録を元にアップデートされ続けてきたAH-64Dの電子装置は、即座に自機を探知したレーダーの型式を特定した。


(KSAM『天馬』かよ!)


 相手は射程約10㎞の自走対空ミサイルである。前述の通り、射程10㎞と言えば、AH-64Dが有する火器の射程よりも長い。反撃はかなわないであろう。AH-64Dは自動的に対抗電波を生成して敵レーダー波を妨害したが、効果のほどは分からない。4機の戦闘ヘリを駆る操縦士らは、すぐさまマニュアルモードでチャフをばら撒きつつ、同時に急旋回した。回避機動を取りつつ安全地帯――向山の陰にいったん隠れようというのである。

 一方の『天馬』は戦闘ヘリ4機を追尾し、地対空ミサイルを発射した。その速度はマッハ2を超える。ヘリコプターが振り切れる速度では、決してない。しかも『天馬』のそれにはレーザー近接信管と指向性炸薬が採用されており、直撃せずとも敵航空機に致命的なダメージを与えられるように設計されている。

 AH-64Dの運動性が勝つか、それとも対空弾の弾速が勝つか。


 結論から言えば、AH-64Dの決死のダイブが功を奏した。

『天馬』の欠点はミサイルを小型化するために、発射母機が最後まで目標を捕捉しなければならないことだ。ミサイル自身が目標を追尾するわけではないため、発射母機側の追尾レーダーが敵を見失うと、そこで誘導が途切れてしまう。

 故にミサイルは向山の裏側に隠れたAH-64Dを見失ってしまい、そのまま向山の上空を越えて尾浦海水浴場の方向へ飛び去ってしまった。


 一方でレーダー照射を受け続けたAH-64Dの電子装置は、『天馬』の所在を概ね掴んでいた。それを元にして反撃は瞬時に行われた。操縦士は『天馬』の位置を通報する。すると、『天馬』と相性の悪いAH-64Dではなく、洋上の護衛艦『しまかぜ』が127㎜速射砲を猛射し始めた。

『天馬』が陣取っていた市街地から若干外れた高台が、速射砲弾の乱打によって滅茶苦茶に蹂躙される。『天馬』を運用する韓国兵は失敗した。再びAH-64Dが出現すると睨んで移動をしなかったのである。そのため彼らは自らの生命を差し出すこととなった。土煙の中で『天馬』と数個の生命は四散の憂き目に遭った。

 さらに爆装したF-2A戦闘機が飛来し、厳原港近傍にあるレンタカー店を初めとする幾つかの屋上付きの建物に誘導爆弾を投下。これより厳原港を奪還せんとする部隊の障害となる敵兵が潜めそうな場所を、虱潰しに空爆する作戦である。


「……」


 JTF-防人の司令官である西部方面総監、湯河原ゆがわら陸将以下幕僚達は厳しい表情のまま、実戦部隊の報告を聞き続けた。攻略の第一目標を厳原港としたのは彼らだが、やはり最後まで迷いがあった。

 対馬市の中心部からやや外れた海水浴場の方が、敵の抵抗は少ないかもしれない。だが対馬島の砂浜はいずれも狭いため、上陸した後の補給は続かないことが予想された。LCACや舟艇を往復させなければならない上、物資を荷揚げして集積しておくスペースもない。効率が悪すぎる。その状態で韓国軍第1海兵師団を相手取って戦い続けるのは難しいであろう。

 ならば最初から整備された大規模な港湾施設を、ヘリボーンで奪取した方がいい、というのが彼らの考えであった。敵砲迫を制圧し、厳原港を使えるようになれば、輸送艦は勿論のこと速力30ノット以上を誇る『ナッチャンWorld』といった高速民間フェリーでも補給を実施出来る。荷揚げした物資を保管するスペースも十分だ。だがしかし、敵の激しい抵抗が予想される――。


 まさに苦渋の決断、である。


 威力偵察も兼ねて送り出した4機のAH-64Dが母艦となっている護衛艦『いずも』へ帰還するとともに、湯河原陸将は無言の内に大きく頷いた。

「よろしいですね」と、西部方面総監部幕僚長の錫村治すずはらおさむが確認する。そうして間髪入れず、第3対戦車ヘリコプター隊・第4対戦車ヘリコプター隊、CH-47を主とする第1輸送ヘリコプター団、そして厳原港の奪取を任された第1空挺団・水陸機動団の出撃命令が下された。


 陸海空自衛隊による艦砲射撃と航空攻撃の最中、露払いのAH-64DとAH-1Sが厳原港上空に姿を現し、周辺の制圧を開始。続けて第102飛行隊のUH-60JAブラックホークが、厳原港最東部にあたる対州フェリー乗船所へ突入した。


「撃て」


 その途端、対州フェリー乗船所の北側に広がる森林から猛射が始まった。無限に広がる空色を背景にして爆音を轟かせて出現した迷彩の鉄籠は、あまりにも目立ち過ぎる。当たるか当たるまいかはともかく、第102飛行隊は滅茶苦茶に撃たれた。

 だがしかし、第102飛行隊側も負けてはいない。第1空挺団や特殊作戦群を支援するための最精鋭ヘリ部隊である彼らは、急旋回して敵の射線を外しつつ反撃した。第102飛行隊のUH-60JAは俗に“ドアガン飛龍”とも呼ばれる特別仕様であり、側面に12.7mm重機関銃を備えている。

 弩弩ドド、と飛龍が咆哮した。コンクリートの壁を粉々にする重機関銃の連続射撃。海兵隊員らは反射的に身を竦め、頭を下げる。元より制圧目的、命中は期待していない連射であったが、不運なひとりの韓国兵は肩を射抜かれた。次の瞬間、彼の肩甲骨は文字通り粉砕され、肩回りの動脈・静脈が引きちぎられ、血煙が散ったかと思うと大量の血肉が弾ける。もうそこに肩部と腕は消失していた。切断された上腕から先は、30メートル後方へ吹き飛んでいる。


「あ゛」


 同時に敵弾がドアガンを操作していた自衛隊員の腹を射抜いた。銃弾が抜けると同時に彼は後背へ転倒し、喉を震わせながら血溜まりに身を横たえる。すぐさま傍の隊員が躊躇することなく、鮮血で染まるその傷口を押さえた。

 そうしている間に、銃撃の標的にならなかった2機のUH-60JAはスムーズに埠頭へ降下し、第1空挺団の隊員約20名を降ろすことに成功した。彼らは迷うことなく半ば放置されているコンテナに身を隠し、北方の森林地帯に潜む敵兵に対して反撃を開始する。


「RPG! RPGィッ!」


 最後尾を往くUH-60JAに正対し、ひとりの勇敢な海兵隊員が身を乗り出しているのを、たまたま機関銃を操る射撃手が目撃した。何かを担いでいる。携行型対空ミサイルか、それとも無反動砲かは分からなかったが、反射的に彼は叫んだ。

 海兵隊員がパンツァーファウスト3を発射するのと、UH-60JAが降下を開始するのはほぼ同時であった。駄目元で発射したのかもしれないが、しかし韓国兵の狙いはかなり正確であり、2秒前までUH-60JAのメインローターが存在していた空間を約4㎏の弾頭が通過していった。一方のUH-60JAは、演習ではあり得ない勢いで岸壁上に接地した。機体がバウンドし、若干バランスを崩したがなんとか着陸に成功。兵員室から次々と空挺団員達が飛び出て行く。


「さっさと焼き払ってくれ!」


 UH-60JAと空挺団員の小火器では、敵を制圧するのは困難だ。対戦車ヘリコプターAH-1Sコブラがハイドラ70㎜ロケット弾を連射し、それでようやく森林地帯からの射撃は衰え始める。先程の勇敢な敵兵も至近距離に着弾したロケット弾の破片を浴びて、上半身がじれた死体となって転がった。


 全機のUH-60JAが降下に成功したことで、まず空挺団員約50名が対州フェリー乗船所とその周囲に降り立った。身軽になったドアガン飛龍は離脱することなく、上空から機関銃を使って引き続き周囲の制圧にあたる。この時点で飛龍らのその姿は、満身創痍と言ってよかった。被弾していない機は皆無であり、機体側面の弾痕が痛々しい。


(護衛艦とF-2の攻撃で大方片づいたんじゃなかったのかよ、先遣のアパッチは何やってたんだ!?)


 投入された新手のAH-64D戦闘ヘリコプターの操縦士達も、銃弾が命中する音を聞きながら、四方八方の敵目掛けて火力投射を続けていた。先の編隊と同様に、厳原港全域を見渡せる南方の向山上空から制圧射撃を実施している。ハイドラ70㎜ロケット弾で厳原港西方の森林地帯を攻撃し、観測ヘリの求めに応じて特定の建造物を30㎜チェーンガンで狙撃、あるいはヘルファイアミサイルで破壊し続けていた。ここまでほぼ一方的に敵を蹴散らしているが、それでもなかなか敵の抵抗は収まらない。


 操縦士らの焦りが募ってきた頃、事は起きた。

 回避どころか、察知すら出来なかった。

 最左翼、AH-64Dのテイルローターが消滅した。操縦士と射撃手ガンナーは何が起こったかを理解する前に、五体を揺さぶる衝撃に襲われた。西方の厳原総合運動公園方面からマッハ2で飛来した『神弓』ミサイルの直撃を尾部に受けたのである。切断されたテイルローターは宙を舞い、そしてテイルローターを失ったAH-64Dの機体は緩やかに回転を始めて、そのまま数メートル下へ墜落した。


「あ゛あ゛――っ」


 2つの生命は、無意識の内に悲鳴を上げた。メインローターは木々を薙ぎ倒し、薙ぎ倒しながら折れ曲がり、折れ曲がりながら砕けて飛散する。機体胴部は密集する木々をへし折り、地球の重力に囚われたまま無残にも地面に叩きつけられた。


 ……が、生きている。


「まじかよ」


 正常な思考を取り戻した操縦士の第一声がそれであった。生きている。幸運だったわけではない。向山の直上数メートルという低高度であったことと、森林が偶然クッションのような役割を果たしたこと、そしてAH-64Dの操縦席下部が重機関銃ならば抗甚する装甲で覆われていたため、彼らは生存することが出来たのである。これが地上から数十メートル上空を飛んでいたら、生命の保障はなかっただろう。


 一方、降着に成功した空挺団員と、敵海兵隊員の間で始まった地上戦は、第1空挺団側が苦戦していた。未だ後続のCH-47に空輸されている隊員と重装備が到着していないこともあるが、問題は海兵隊側に迫撃砲、12.7mm重機関銃を初めとする重火器が揃っていることであった。


(身動きがとれないな)


 第一陣を指揮する幹部は、周囲の砲声に紛れて舌打ちを連発した。

 防御側の海兵隊員は森林内のどこかに12.7mm重機関銃を据えつけ、狙撃銃として運用しているらしく、身を隠すコンテナから姿を晒してしまったひとりの空挺団員が餌食となった。鉄帽テッパチを抜かれ、脳漿を辺りにぶち撒け――即死である。その上、敵は迫撃砲で対州フェリー乗船所周辺に対する攻撃を始めていた。狙いは甘い上に、連射速度は緩やかであるから、さしたる脅威にはなっていないのが救いであったが、生きた心地はしない。

 精強を誇る第1空挺団といえども、地に足を着けてしまえばそれは単なる軽歩兵であり、さらに小勢ともなればこの状況を単独で打開することは困難である。

 だが無理にこの小隊規模の隊員で突破を図る必要はない、と思い直す。

 こちら側には航空支援がある。すぐに増援を載せたCH-47の群れが駆けつけ、そして水陸機動団が現れる手筈になっているのだから。

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