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■47.白龍、覚醒。(後)

 与えられた猶予の24時間を、韓国軍第1海兵師団の将兵は有効に活用した。

 米国政府の仲介の下に日韓両政府関係者が協議した結果、対馬島西部に中立地帯が設定されることになった。つまり対馬島西部に、陸上自衛隊が強襲上陸する可能性はない。

 また市民の早急な避難が困難である離島に関しても、中立地帯に指定された(対馬諸島は100以上の島から成る)。これにより陸上自衛隊が小島を占領し、そこに火砲を揚陸して対馬島の韓国軍本隊へ攻撃を仕掛けてくる可能性もなくなった。

 以上の事情から、韓国軍第1海兵師団は無人島に対する監視といった余計なことを考えず、対馬島の東海岸の守りのみを考えればよいことになった。現地住民の避難を促し、守備部隊を再配置する。米国政府が絡んでいる以上、中立地帯を無視するような戦術(例えば中立地帯に対空ミサイルを配置するといったもの)は採用出来ないが、一方の陸海空自衛隊側も意表を衝いた対馬島の西海岸側への強襲上陸は行えない。

 勿論、第1海兵師団長の林中将はもとより自衛隊は東海岸に来ると考えていたので、抜本的な防衛計画に変更はなかった。自身の仮説が補強される形になっただけである。


 対する陸海空自衛隊は24時間を経て、再び対馬島東海岸に対する攻撃を開始した。その主力は陸上自衛隊第3対戦車ヘリコプター隊と、航空自衛隊第6・8飛行隊のF-2A/B戦闘機である。

 海の青を流し込んだ蒼翼そうよくが、超低空をける。韓国空軍・海軍の援護を得られない海兵隊は、水平線の向こう側に存在する標的を捕捉することが出来ないため、洋上を往くこの戦隼せんじゅんの接近を察知するのが遅れた。

 4機のF-2Aは対馬やまねこ空港に十分接近するや否や、天を衝くような急上昇に移り、ポップアップ攻撃を実施した。翼下の500ポンド(約230㎏)誘導爆弾・計8発が解き放たれ、数㎞先の敵陣地目掛けて慣性誘導の下で突っ込んでいく。

 最初の4発は対馬空港から南西に数百メートルほど離れた勝見ノ浦浜に着弾した。浜を睥睨する位置に築かれた火点のいくつかが、この攻撃で吹き飛んだ。この時、離れた天幕で休息していたり、塹壕の中に潜んでいたりした海兵隊員は幸運であった。12.7mm重機関銃の傍に待機していた隊員らは爆風に薙ぎ倒され、内臓をぶちまけながら絶命した。ちぎれた上半身が打ち上げられ、木の枝にひっかかったまま無残を晒す遺体もあった。

 対馬空港の南西の市街地に向かった残る4発は、内包していた破壊力を解き放つと、衝撃波を以て建造物を蹂躙した。爆弾が直撃した和風レストランは、瓦と外壁と硝子を飛散させ、目の前の道路を瓦礫で埋め尽くした。爆風に晒され、大きく跳ねる電線。次の瞬間には火花を散らしながら千切れて、道路を鞭打つ。


 この第6・8飛行隊の攻撃に前後して、海上自衛隊も対馬島に対する艦砲射撃を実施した。

 このとき投入された水上艦艇は、はたかぜ型護衛艦『はたかぜ』と『しまかぜ』である。彼女達に白羽の矢が立った理由はいくつかある。通常、護衛艦は単装速射砲を1門のみ備えている場合が多いが、それに対して『はたかぜ』・『しまかぜ』は127mm単装速射砲2門を装備しており、単純に瞬間的な火力が高い上、予想外の事態で1門が使用不能になっても、もう1門で射撃を継続出来るようにトラブルに強い。

 また射程の長い127mm単装速射砲を装備している護衛艦で、対地射撃任務に充てるのに丁度いい艦艇が『はたかぜ』と『しまかぜ』しかなかった。こんごう型護衛艦やあたご型護衛艦といった所謂イージス艦は対空戦、あるいは対弾道ミサイル防衛に専念させるべきであるし、このイージス艦やヘリコプター搭載護衛艦の援護に就く、新鋭艦のあきづき型護衛艦やあさひ型護衛艦をそこから外すことは出来ない。

 他にも海上幕僚監部以下、海上自衛隊の高級幹部には護衛艦に対地射撃をさせることを忌避する勢力があり、彼らを納得させるためというのもある。現在、『しもきた』は補給と揚陸部隊の積載のために戦列から離れており、敵対空ミサイル陣地への洋上からの制圧に穴が空いていた。それを埋める戦力は、旧式艦が望ましいというのである。

 こうした事情から1986・1988年竣工の『はたかぜ』・『しまかぜ』ペアに攻撃は任された。


挿絵(By みてみん)

(護衛艦『しまかぜ』と127mm速射砲 ※1)


 対馬島から約15km離れた洋上から、両艦の127mm単装速射砲は猛然と火を噴いた。1分間に30発から40発発射可能の速射砲だが、1分間も連続射撃はしない。韓国側の対砲迫レーダーで所在が露見し、反撃を受ける可能性を思えば、長時間の継続的な射撃は危険である。だがそれでも単純計算すれば、15秒間の射撃でも10発の射弾を送り込めるのだから、両用砲の速射たるや恐ろしい。

 上島と下島を縦断する国道382号線沿いが、この鋼鉄の雹嵐ひょうらんに蹂躙された。

 韓国軍に接収されていた県立高校の校舎へ127mm弾が突き刺さる。窓ガラスをぶち破って内部で炸裂した砲弾は、教室内の掲示物を引き裂き、机を吹き飛ばし、全てを廊下側の窓へ叩き出した。一弾が物資置き場になっていたテニスコートに飛び込んで炸裂する。砕けた校舎の外壁がぼろぼろと崩落し、校庭には破片の雨が降り注いだ。

 標的となった自動車販売店の大駐車場もまた同様に粉砕された。取り扱い車種が列挙されている看板に砲弾が直撃し、最上部のメーカーマークが粉々になって下界へ飛散する。流れ弾が霊園の敷地内に落着し、幾つかの墓石を薙ぎ倒した。

 対馬空港の駐車場もまた断続的な射撃を以て制圧された。対馬空港と接続する県道64号線は、複数の砲弾を浴びて装軌車輛でなければ通行出来ないほどにまで路面状況が悪化した。

 そして『はたかぜ』『しまかぜ』両艦は、徐々にその射弾を厳原港周辺に集中させていった。


 第1海兵師団長の林中将がついに自衛隊側の企図に勘づいた頃、湯河原陸将以下JTF-防人は大々的に打って出た。空海からの攻撃を厳原町内に絞り、特に厳原港・フェリーターミナルの周辺部に対してはAH-64D戦闘ヘリが制圧にかかる。そのAH-64Dに続いて、CH-47から成る編隊が姿を現した。



(※1)出典:海上自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ddg/hatakaze/)

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