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■34.隠密偵察。(前)

 竹島・対馬交換論が成立する見込みは薄い。竹島奪還に成功した陸海空自衛隊は、いよいよ武力行使による対馬諸島の奪還に向けて、本格的に動き始めた。


 まず第3潜水隊のおやしお型潜水艦『くろしお』・『もちしお』が攻勢的な機雷戦に打って出て、釜山・対馬の海上交通路を遮断した。機雷のみならずそうりゅう型潜水艦『じんりゅう』・『しょうりゅう』が対馬島の周辺海域に潜んでおり、接近する敵水上艦艇や韓国軍がチャーターした大型船舶を襲撃した。


 これを受けて韓国海軍は機雷の掃海と、そうりゅう型潜水艦の排除を試みたが、いずれも失敗した。

 前者には襄陽ヤンヤン級掃海艇『襄陽ヤンヤン』と『甕津オンジン』が投入されたものの、すぐさま航空機から通報を受けた『じんりゅう』が50㎞以上離れた海域から発射した艦対艦誘導弾の攻撃を受けた。襄陽級掃海艇の主な武装は20㎜ガトリング砲1基なので、迎撃出来る見込みはない。満載排水量約700トンの小艦艇は、瞬く間に海中へ没した。韓国海軍が保有する掃海艇は1999年から就役した襄陽級掃海艇が3隻、さらに旧式の江景カンギョン級掃海艇が6隻あるのみだから、最新鋭掃海艇2隻轟沈はかなりの痛手である。

 後者の潜水艦狩りに関しても、難航した。P-3CK対潜哨戒機や対潜ヘリを飛ばして海自潜水艦を捕捉しようと試みたが、対馬諸島周辺空域は海上自衛隊護衛艦『あしがら』・『ちょうかい』が備えるスタンダードミサイルの射程内に収まっているため、どうしても行動に制限がかかる。韓国海軍参謀本部では水上艦艇を捜索に出すことも考えられたが、返り討ちに遭う可能性が高いという結論に達したため、水上艦艇の投入は躊躇された。


 だがしかし、陸海空自衛隊側が対馬方面で一方的に有利であるかと言えば、そういうわけでもなかった。

 東アジア最強クラスと称してもよいであろう通常動力型潜水艦、そうりゅう型も無敵ではない。雷撃を仕掛けようと思えば敵水上艦艇に接近しなければならず、敵の対潜魚雷の射程に入らなければならないし、航空機から敵の位置情報を得て艦対艦誘導弾を発射するとしても、1度に発射可能な誘導弾の数は魚雷発射管の数に依存するので、最大でも6発が限界だ。対空火器が充実している水上艦艇が複数隻存在している場合に対しては、艦対艦誘導弾が迎撃されてしまい、攻撃がまったく通らない可能性もあった。

 また自衛隊機を対馬諸島に接近させ過ぎるのも危険であった。韓国空軍は対馬空港に射程50㎞を超える中距離地対空ミサイルシステムを展開、韓国陸軍は本島の要所に自走対空ミサイル『天馬』や30㎜自走機関砲『飛虎』を配置しているため、不用意に近づけば攻撃を受ける。


「敵の規模と配置を知る必要がある」


 対馬諸島奪回のためには、とにかく情報が必要であった。

 特に航空自衛隊は敵の地対空ミサイル陣地の所在を、海上自衛隊は韓国軍が地対艦ミサイルを対馬諸島に運びこんでいないかを気にしていた(韓国陸軍は地上発射型に改造したハープーン対艦ミサイルを有している。これは大型トラックに4発搭載する自走式を採っており、射程は100㎞以上あるので侮れない)。

 先にこの地対空・地対艦装備を撃破しておかなければ、陸海空自衛隊は多大な出血を強いられることになるであろう。逆に言うと、敵の地対空ミサイル・地対艦ミサイルさえ無力化してしまえば、陸海空自衛隊は海・空から一方的に攻撃を仕掛けることが出来るというわけだ。


 まず航空自衛隊がRF-4EJ戦術偵察機による情報収集を実施した。しかし、前述の通り敵が中距離地対空ミサイルを対馬本島に配備しているのと、釜山沖に韓国海軍イージス艦『世宗大王』が遊弋しているため、どうしても活動範囲が制限されてしまう。下島(対馬本島の南半分)の一部を偵察したところで、敵の対空砲火に晒されたため、やむなく撤退せざるを得なかった。

 同時に電子情報収集機を出し、敵が発する電波から地対空ミサイル陣地の位置を特定しようともした。これはある程度うまくいったが、相手がレーダーの電源を秘匿目的で落として温存を図っていた場合、必ず見落としが出る。


 RF-4EJ戦術偵察機が持ち帰ったフィルムの現像後、隠密上陸による情報収集を任務とした偵察部隊が編成された。ヒューミントを得手とする陸上自衛隊陸上総隊中央情報隊と、戦術レベルでの判断に長ける陸上自衛隊水陸機動団偵察中隊から選抜した隊員を対馬諸島へ送り込み、情報収集にあたらせる作戦である。敵地に潜入させ、敵陣を偵察させようというのだから当然リスクはあるが、やらざるを得なかった。

 ただし有利な点もあった。

 現状の対馬諸島は韓国軍の占領地であり、そういう意味では敵地だが、元をただせば日本国長崎県である。韓国軍に降伏していない対馬出身の対馬警備隊員が現地にはいるし、対馬市民が協力してくれるかは不明だが、偵察中隊の人間を積極的に韓国側へ通報することはないだろう。隠密上陸時の水際で韓国軍将兵に発見されるようなことがなければ、潜入は容易である。


 対馬島内では韓国軍が検問を設置して、職務質問等をしている可能性がある。そのため福岡県公安委員会・長崎県公安委員会が渋々“偽造”した交通免許証と、同名義でこれまた作成された健康保険証、生活感を出すために新規作成したタカハシカメラのポイントカードを財布にしまい、彼らは壱岐群島から出発した。

 足に関しては指呼の距離なので、チャーターした漁船が使われた。陸上自衛隊水陸機動団に採用されている快速の戦闘強襲偵察用舟艇ラバーボートか、海上自衛隊特別警備隊の機動船を使用しても良かったが、水際で事が露見した時に言い訳が立たない。


「日本国内から日本国内に潜入するんだから簡単な任務だ」


 と、偵察中隊の隊員のひとりは緊張をほぐすためにそう言ったが、実際にうまくいった。払暁、対馬市厳原町内に“漂着”。そのまま徒歩で北上して、朝には市街地に出た。潜入成功である。




隠密上陸のくだりのディティールは自分でも納得がいっていないので、あとで改稿するかもしれません。

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