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■33.策謀渦巻く極東。(後)

 海外メディアが一斉に日本国自衛隊が竹島を奪還した旨を報道すると同時に、韓国国内のたがが外れた。騒乱状態。破壊的な反・白政権デモが全国各地で自然発生し、これを取り締まるべく出動した各地の韓国地方警察庁の機動隊員と激突した。


「白政権は家族を家庭に戻すことを約束しろ!」


 ソウル特別市、釜山広域市といった大都市では徴兵対象者・学生の肉親がメインとなって、大通りを封鎖したり、与党議員事務所に駆けこんだりといった示威行動が頻発した。いよいよ敗北が続く戦況を見て、息子や孫が無謀かつ必要性の薄い対日戦争に駆り出され、戦死してしまうのではないかと考え、行動を起こす者が急増してきたのである。徴兵対象者の父親、祖父になると「男たるもの徴兵は義務であるし、万が一のときには国家に身を捧げるべきだ」と主張する者もいたが、内心ではやはり自分の息子が心配である。肉親のことを気にかけない人間などいない。


「東海沿岸の原子力発電所が壊滅すれば、東海全体が汚染されるではないか!」


 諸産業からの反発も根強い。

 東海(※日本海の韓国側呼称)沿岸の漁業組合は、白大統領が主導した日本国内の原子力発電所に対する攻撃を一斉に非難した。成程、東海沿岸部の原子力発電所が攻撃を受け、甚大な被害を受ければ、東海で漁業を営む人々の生活は風評被害で立ち行かなくなるだろう。消費者達は実際に放射線量が高いか低いかといった科学的な問題には興味がなく、イメージで物を選んで購入するから、東海側の水産物というだけで敬遠されるようになることは目に見えていた。

 さらに日本との繋がりが深い観光業や製造業といった、対日開戦以来は休業状態が続いているような企業の勤め人達が、都市部の反戦デモに合流し始めた。


「白大統領閣下。警察力では対処出来なくなる可能性に備えましょう」


 反戦デモの激化を見て、朴陸軍参謀総長は白大統領にそうアドバイスした。

 まずソウル地方警察庁の警察力では、1000万人都市であるソウル特別市の治安を今後も維持し続けることは困難だと考えられた。そのためまず2個師団を主力とする首都防衛司令部に出動準備を整えさせ、周辺の自治体からソウル特別市に暴徒が流入するのを防ぐため、韓国西部の防衛を担当する第3軍の第1軍団・第7軍団から、朴陸軍参謀総長が選抜した諸部隊に、交通管制をかせることを決定した。

 他の自治体に関しても同様である。特に釜山広域市に関しては、陸海空自衛隊による攻撃があった場合に備えて、すでに第2軍から1個師団を展開させている。


「……」


 さて。一方、日本国内――東京都■■市■■■■■の一室では、サラリーマンに扮した大韓民国国家情報院の工作員2名と、■■■■■■■■■■(通称“朝鮮■■”)・■■組の担当者2名が■■■■拉致計画に関する打ち合わせを始めていた。

 殺風景な部屋。あるのは長机、両者が座る飾り気のないパイプ椅子のみ。机上に茶が供されることはない。■■組の担当者に、国家情報院の人間をもてなす気持ちは一切ないからだ。日本国内において工作活動を任される■■組と、大韓民国国家情報院は言うまでもなく犬猿の仲。


(米帝の南傀儡政権、その走狗と仕事をすることになるとはな)


 特に■■組の担当者は、相手のことを見下していた。

 大韓民国を自称する彼ら南朝鮮はアメリカ帝国主義に支配されており、資本家と地主による圧政が布かれている。にもかかわらず南朝鮮の人民達は厳しい監視社会の下で洗脳教育を受け、資本主義の毒に犯されているために、アメリカ帝国主義を憎悪するどころかその怒りの矛先を、圧政から解放された社会主義国家・朝鮮民主主義人民共和国に向けているのであった。

 そうした事実を知ってか知らずか、南朝鮮の人民を抑圧する傀儡政権の利益のために動いているのが目の前の国家情報院の人間である。彼らは自らを縛る鉄鎖を点検し、補修するが如き最も愚かな人種であり、南北統一の暁には利敵行為のかどで処罰されるべきだ、と■■組の担当者達は考えていた。


(だがしかし、本国――朝鮮労働党統一戦線部・朝鮮人民軍偵察総局の意向とあれば、逆らうわけにはいかない)


 朝鮮民主主義人民共和国には諜報機関が複数存在するが、朝鮮■■に対して大韓民国国家情報院に協力せよと今回指示してきたのは、まず対外工作を担当する朝鮮労働党の諜報組織、統一戦線部であった。さらに続けて朝鮮人民軍に属する諜報機関、偵察総局の工作員から直接にコンタクトがあった。

 当然ながら朝鮮■■の組織は、本国の意向に逆らえない。本国には親類縁者が半ば人質のような形で居住しているし、何より反対した朝鮮■■関係者は殺害されるであろう。

 朝鮮人民軍偵察総局は2017年に金■■(要人)のVXガスによる殺害に関係したという噂であったし、実際に朝鮮■■へ直接コンタクトをとってきた朝鮮人民軍偵察総局の人間は、本国から派遣されて来たにもかかわらず“日本国籍”を有する者であった。


――“背乗り”。


 つまり日本国籍を本来持っている日本人をひとり闇に葬り去り、それに成りすましている類いの人間であった。存在自体が非合法。拉致でも暗殺でも平気でやるだろうという凄味があった。

 朝鮮■■側の人間としては、本国がどのような意図を以て大韓民国国家情報院に協力せよ、と言ってきているのかは分からないが、大人しく従うしかない。


 両者は互いに信頼してはいなかったが、■■■■拉致計画に関する話し合いは思いのほか順調に進んだ。変に世辞を言ったり、腹を探り合ったりしなかったためであろう。目的遂行のために何が必要か、現状で不足している物は何か。両陣営が供出し合える物は何か。話題は次々ドライに切り替わっていった。

 計画に参加する人員は数十名規模。多くは朝鮮■■の■■組であるがほとんどは陽動要員で、実行は大韓民国国家情報院の工作員がやる。武器は瀬取りで密輸した火器類。政府機関である国家情報院と、潤沢な資金を持つ朝鮮■■が組んでいるので軍資金には困らない。日本国内には工作に有利な基盤、協力者が存在する。日本国内に居住する朝鮮人を脅迫して、協力させてもよかった。


 話し合いの最後に、可及的速やかに計画を実行に移すことが確認された。夏にまで計画実行が伸びると、■■■■が通う■■■■■■■■■■■■■(場所)は夏季休暇に入ってしまう上、■■■■が外遊に出てしまう可能性があったからである。

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