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■31.策謀渦巻く極東。(前)

【注意】


今回の話に関しては後半、伏字(■■)が多く用いられています。拙作は日本国に対して極めて悪質な害意を持つ大統領の下、万が一韓国軍が日本国に攻撃を仕掛けた場合、何が起こるかをフィクションでシミュレーションしたいという目的で書かれているものであり、“それ”が起こる可能性に触れたいという意図があります。そのため伏字を使用しています。表現としては『小説家になろう』の禁止事項に違反していないと思われます。しかしながら、運営の方が不適切と判断された場合には削除となる(あるいは一発で退会処分になる)と思われます。一発で退会処分となった場合、再連載場所はTwitterで告知いたします。ご了承のほど、よろしくお願いいたします。




 6月8日午前、臨時に開かれた記者会見で神野義春内閣官房長官が、独島警備隊と韓国軍海兵隊員の降伏を受け容れたことを発表した。同時に戦闘上陸大隊の隊員が撮影した複数枚の写真が公表された。特に日章旗が掲げられた灯台を収めたそれは極めて印象的で、マスメディアの関係者は勿論、多くの日本国民の記憶に残るものになった。海外メディアもこの灯台の写真を報道に供した。


旭日きょくじつ新聞】

“竹島の戦い――自衛隊、日本海へ戦線拡大”


産業経済さんぎょうけいざい新聞】

“67年ぶり竹島、日本国に還る”


日夕にっせき新聞】

“竹島奪還、日韓戦争激化”


 竹島奪還の一報は臨時ニュースや号外の新聞といった形で日本中を駆け巡った。

 韓国軍の侵略に憤っていた日本国民は、溜飲を多少下げた。だがしかし、特別喜ぶこともなかった。反応としては微妙である。竹島は長年、韓国側の挑発に利用されてきた因縁の地ではあるが、奪還に成功したと言っても単なる孤島に過ぎない。60年代における金鍾泌キムジョンピル(韓国の政治家・首相経験者)の発言を借りるならば、「海鳥が糞を垂れているだけ」の小島であるから、竹島が戻ってきたと言われてもあまり嬉しくない、というのが日本国民の多くの感想であった。

 むしろ竹島奪還成功に対して、激しい反応を示したのは旭日きょくじつ新聞を初めとする左派メディアだった。竹島に対する攻撃は旧軍を彷彿とさせる無秩序な戦線拡大であり、自衛隊の行動を到底容認出来るものではない、と彼らは報じた。共産日本党の機関紙である『しんぶん赤労』に至っては、これは古川内閣と自衛隊による侵略戦争である、とまで言い切ったほどである。


 だが旭日きょくじつ新聞といった左派メディアの“戦線拡大を招く”という指摘も、あながち間違いではない。日本側に独島を奪い取られた韓国側が、報復攻撃に打って出るのは当然の成り行きであった。

 6月8日正午、韓国陸軍は日本海側の自衛隊関連施設に対し、玄武巡航ミサイルによる攻撃を実施した。これは白大統領が朴陸軍参謀総長以下、陸軍組織に強く命令して実現させたものである。朴陸軍参謀総長は「玄武巡航・弾道ミサイルは北韓に対する有力な反撃手段であり、また国際世論は日本に対して同情的であるから、誤爆の可能性が高い長射程ミサイルの日本本土に対する攻撃は避けるべきだ」と抗弁したが、白大統領に結局押し切られてしまった。憲法の規定では韓国軍の最高指揮者は大統領であるから、こればかりはどうしようもない。

 攻撃に使われる玄武III型巡航ミサイルの最大射程は約1500㎞あるから、日本海沿岸部の自衛隊関連施設は射程に収まる。大統領からの命令を受けた韓国陸軍ミサイル司令部は、報復の対象として航空自衛隊小松基地を挙げた。成程、小松基地はF-15J/DJから成る戦闘機部隊が配備されているから、戦術的に理に適っている。

 だがしかし、ここでも白大統領の横槍が入った。


「2020年東京オリンピックを放射能オリンピックにしてやれ!」


 思考が下衆のそれであるが、日本国が関わると彼の人格が破綻することは今に始まったことではない。

 白大統領の意向を受け、韓国陸軍ミサイル司令部は攻撃目標に急遽、原子力発電所を追加した。具体的には関西電力の大飯おおい発電所(福井県おおい町)と、高浜発電所(福井県高浜町)である。

 大飯発電所は1基で約120万キロワットという莫大な電力を賄える原子炉を2基運転している原子力発電所であり、高浜発電所もまた約90万キロワットの原子炉2基を擁する。大飯・高浜の4基で概ね出力は約400万キロワット。関西電力の総発電量が約3600万キロワットであるとすると、1割以上はこの両発電所が賄っていることになる。

 一応、原子炉自体は非常に堅牢に設計されている(時速700㎞以上のF-4ファントムII戦闘機を激突させた実験にも耐えるほどである)が、原子炉の外にある補助施設に関してはその限りではない。放射能汚染が起きずとも攻撃を受けたこの4基が運転停止に追いやられれば、近畿地方の電力事情は逼迫し、国民生活に大きな影響が出ることは明らかであった。

 攻撃がうまくいけば、リターンは大きい。

 だが韓国陸軍ミサイル司令部は、攻撃作戦の成功の可能性は低いと考えていた。


「おそらく自衛隊は日本海沿岸における稼働中の全原子炉に地対空ミサイルを配置していると思われます。日本国内から得られた情報によると6月1日の開戦以降、陸上自衛隊のトラックが原子力発電所近辺で目撃されているようです」


 ミサイル司令部の情報幕僚は日本国内に潜んでいる協力者から、かなり正確な情報を掴んでいた。韓国と日本は海に隔てられているとはいえ、最も近い隣国である。開戦直前に韓国政府の関係者が身分を偽って日本国内に渡航していたし、日本国内に生活拠点を有する韓国政府の協力者も多い。

 であるから自衛隊の特別な動きは、ほとんど筒抜けであった。平時における原子力発電所には地対空ミサイルなど配備されていないから、自衛隊が重装備を運びこもうとすればすぐに分かる。


「一方、火力発電所等は無防備です。彼らとて全てのインフラを防衛出来るほどの地対空ミサイルを装備しているわけではありませんから。これは私見ですが、最初から自衛隊の基地にのみ攻撃を集中させて戦況の好転を狙うか、無防備な火力発電所を狙って攻撃を仕掛け、日本国民の厭戦えんせん気分を煽るか、どちらかに絞った方がいいと思われます」


 情報幕僚の意見具申を容れたミサイル司令部の司令官は、朴陸軍参謀総長とともに白大統領へもう一度意見したが、白大統領が癇癪かんしゃくを起こしたために説得を諦めた。白大統領が望んでいるのは放射能汚染を起こして、日本の名誉を致命的に失墜させるための軍事作戦であって、成功の可能性が高い軍事作戦ではなかった。


 実際、白大統領により『オペレーション・冥府王デビョルワン』と命名されたこの攻撃は失敗した。日本側も韓国軍が航空自衛隊小松基地や、日本海側の原子力発電所といった重要施設の攻撃に出る可能性は考えていて、出来得る限り防御を固めていた。小松基地は空中哨戒中のF-15Jと第6基地防空隊が敵巡航ミサイルを迎撃し、大飯発電所・高浜発電所に関しては陸上自衛隊中部方面隊第8特科群の03式中距離地対空誘導弾がこれを迎え撃った。

 宇宙空間を飛翔し、マッハ10以上の速度で落下してくるような弾道ミサイルとは異なり、誤解を恐れず言えば巡航ミサイルは航空機とほとんど変わらないため、相手が防空態勢を整えて手ぐすね引いて待っているところに攻撃を仕掛けても、うまくいかないのは当然と言えば当然であった。


 そして原子力発電所が攻撃の標的となった旨は、すぐに日本政府首脳部に伝わった。


「正気だとは思えない」


 広世信太ひろせしんた経済産業相は呻き声を上げ、トレードマークの黒縁眼鏡を外すと頭を抱えた。眩暈に襲われたのだ。まさか本当に国際世論を無視して原子力発電所に攻撃を仕掛けてくるとは――いつも彼らは予想の斜め上をいく。原子炉を標的として韓国軍が攻撃を仕掛けたということが知れ渡れば、世論に大きな波紋が広がるであろうとも思った。

 他の閣僚達もまた黙ったまま考えを巡らせていたが、突如としてひとりの男が立った。


「なんとかならないのか!」


 国家公安員会委員長を務める佐久間蔵人さくまくろうどである。強面こわもてに相応しく、短気で知られる彼はこのとき相当苛立っていた。その感情の矛先はその場に居合わせた火野統合幕僚長に向いた。


「なんとか、とは――」


「自衛隊の戦闘機やミサイルで韓国を攻撃して、韓国軍のミサイル攻撃を止められないのか、ということだよ!」


 顔を真っ赤にした佐久間は、滅茶苦茶に唾を飛ばしながら語気を荒げる。


「今回、白の阿呆たれは原子力発電所を狙ったからいいが、次はどこに攻撃してくるかわかったもんじゃない! 以前の説明にもあったが、韓国軍のミサイルが日本のほとんどの場所に届く以上、今度は火力発電所が攻撃されるかもしれないし、もしかしたら新潟市や京都市みたいな政令指定都市を無差別に攻撃するかもしれん。守るのはいいが、こちらから攻めなければ止められないぞ!」


 佐久間の指摘は間違ってはいない。自衛隊機が韓国領内にまで侵入し、韓国陸軍の玄武巡航ミサイルの発射を妨害したり、韓国空軍の航空基地を無力化したりしない限り、また韓国軍はいつ何時なんどきでも再攻撃が可能である。

 しかしそれは無理だ、と火野は内心で呟いた。

 韓国国内に展開する敵ミサイル部隊や航空基地を攻撃する能力は、陸海空自衛隊にはない。韓国国内への攻撃作戦となれば、敵の航空部隊の抵抗を排除しながら行わなければならない。万が一、操縦士が緊急脱出した場合、その救出はどうするのか。敵の防空態勢はどうやって切り崩すのか。航空自衛隊には実戦に投入可能な電子戦機がないし、対レーダーミサイルもない。空対艦誘導弾でも転用しない限り、長射程の対地ミサイルもないため、航空爆弾で攻撃を行うしかない。数年前に購入した滑空爆弾GBU-39は射程が約100㎞あるが、あくまで参考・試験用に調達されたものであるから実戦は考えられていないし、数も少ない。


「佐久間先生、落ち着いてください」


 火野を庇うように、小谷防衛相が口を挟んだ。


「自衛隊は専守防衛を是とする政治的方針の下、国家の独立と国土の防衛、国民の生命と財産を守る組織です。韓国国内の航空基地やミサイル陣地を叩けるような攻撃的装備品は持っていないのですから、敵地攻撃は諦めるしかありませんよ。自衛隊が韓国軍のような巡航ミサイルを持っていないのは、統合幕僚長の責任ではなく、われわれ政治家の問題です」


「むう、まあそう言われればそうだ……」


 素直に引き下がった佐久間だが、やはり焦りは隠しきれない。他の閣僚達も同様だ。在日米軍ありきで整えられてきた自衛隊が行使する武力は、敵を屈服させるような決定打に欠く。

 閣僚達はもう一度、その場で今後の方針を確認した。

 まず竹島と対馬諸島の交換を持ちかけて停戦、講和の道を模索してみる。だがしかし、今回の韓国軍の反応を見るにこの竹島・対馬交換論は成立しなさそうである。結局は攻撃を仕掛けて来る韓国軍に出血を強い、対馬方面で決定的勝利を得て、白政権に戦争遂行を諦めさせるほかないということになった。


◇◆◇


 一方、敗北・失敗続きの韓国軍に愛想を尽かしていた白大統領は、大韓民国国家情報院に対日工作を計画するように命令していた。


「■■■■拉致計画」


「はい大統領閣下。■■■■を拉致し、日本政府に対する外交カードとして利用する――あるいは、■■■■を暗殺することで日本国に致命的なダメージを与える計画です」


 対する国家情報院は白大統領が満足する対日工作案をぶち上げた。その狙い通り、白大統領はそのレジュメの表題を見るなり、恍惚として表情を見せた。この計画が成功すれば、確かに白武栄の名は安重根同様に歴史に残るであろう。

 執務室の黒革張りに身を預けたまま、白大統領はレジュメをめくりながら幾つか担当者に質問した。


「しかし■■(未成年のこと)とはいえ、■■■■は■■(身分)だ。日本警察の警護も厳重なのではないか」


「■■■■が通う■■■■■■■■■■■■■(場所)には、刃物を隠し持った素人の不審者が侵入出来た過去もあります。■■(場所)を襲撃するのは、短機関銃で武装した■■■■(警察の名前)と交戦することになりますから難しいですが、彼の■■(場所)か、その周辺で仕掛けるなら可能かと。この計画に関しては、われわれ国家情報院職員、日本国内の協力者、そして北韓の偵察総局が全力を挙げて実行します。成功する可能性は十分あります」


「だがまだ■■(年齢)か」


「■■(年齢)とはいえ公人です。良心の呵責は必要ありません。我々には復讐を成し遂げる権利がある」


 力強く言い切った国家情報院の担当者に、白大統領は勇気をもらった。

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