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■30.日章旗はためく竹島。(後)

 昇る朝日に照らされて輝く日本海を、おおすみ型輸送艦『おおすみ』が往く。この『おおすみ』は200名以上の自衛隊員と数十両の車輛を輸送することが出来る艦艇であり、その針路の先には竹島があった。

 独島警備隊の降伏を受け容れた日本政府の対応は素早かった。

 すぐさま陸上自衛隊水陸機動団・水陸機動団戦闘上陸大隊の1個中隊と、UH-60多用途ヘリコプターを載せた『おおすみ』の竹島派遣を決定した。

 これは勿論、降伏した警備隊員と海兵隊員を捕虜にするためである。最初はヘリ部隊を派遣すればそれで済むと思われていたが、地盤が崩れて宿舎が倒壊したということで独島のヘリパッドを利用することは危険だと判断された。であるから竹島の浅瀬か、半ば瓦礫の山になった停泊施設に戦闘上陸大隊の水陸両用装甲車AAV7を乗り上げさせ、捕虜数十名を運ぶことにした。独島警備隊から出た負傷者に関しては、動けるようであればAAV7に乗車させるが、移動が無理な場合はUH-60で吊り上げて搬送する。

 脆弱な『おおすみ』の援護に関しては前日同様、竹島周辺海域には航空自衛隊第306飛行隊のF-15J戦闘機と、海上自衛隊第3護衛隊群が展開している。

 それに加えて『おおすみ』には、あぶくま型護衛艦『せんだい』と『おおよど』が帯同していた。万が一、降伏を申し入れていたはずの独島警備隊側から攻撃があった場合、この2隻が間髪入れずに反撃することになっている。『せんだい』と『おおよど』はともに1991年に竣工した姉妹艦で、艦対空誘導弾を備えていない旧式艦ではあるが、1分間に80発以上を発射可能な76㎜速射砲を有している。独島警備隊が抵抗することがあれば、東島に存在する人工構造物と生命は瞬く間に粉砕されることになるだろう。


挿絵(By みてみん)

(AAV7)


 しかし、恐れていたような事態はまったく起きなかった。

 降伏を一旦決めると、独島警備隊の隊員達は前日までの徹底抗戦の精神はどこへやら、「北韓に降伏するよりはマシ」「これで独島の限界孤島生活とおさらばだ」「日本のメシはうまいのか」などと口々に言い合い、陸上自衛隊のAAV7が近づいて来るのを視認すると同時に、みな手を高々と上げ、シャツとパイプを組み合わせて作った白旗を振った。

 洋上の『おおすみ』から発進したAAV7と戦闘上陸大隊の隊員が、降伏した彼らを収容するのにさほど時間はかからなかった。その後、自衛隊員らは灯台に日章旗を掲げると複数枚の写真を撮り、再びAAV7に乗り込んで撤収した。

 竹島は完全なる無人となった。

 本来ならば自衛隊員なり、海上保安庁の職員なりを配置すべきなのだろうが、自衛隊にとってもこの竹島は守り難い土地である。竹島守備隊を新設して配置したとしても、韓国陸軍、あるいは韓国空軍が長射程の対地ミサイルを使って反撃してくれば、すぐに壊滅してしまうであろう。

 勿論、無人島にして完全に放棄するということではない。韓国政府関係者が漁船に乗り込み、漁師に変装して再上陸を試みる可能性もあるので、戦闘上陸大隊の撤収以降は護衛艦や艦載ヘリが周辺海域を常時監視することになっている。


「成功か――」


 竹島奪還成功の報告を受けた古川内閣の面々は、安堵に近い喜びに満ち溢れた。

 事前の防衛省関係者からのレクチャーでは、独島警備隊と陸上自衛隊の戦闘上陸大隊の間で、泥沼の銃撃戦が生起する可能性もあると聞いていた。独島警備隊が騙し討ちを仕掛けて来た場合、第一撃は防ぎようがない。独島警備隊は周辺を一望出来る高所に陣取ることが出来る一方、戦闘上陸大隊の隊員達は身を隠す場所がないので、撃たれ放題になってしまう。頼みの綱の水陸両用装甲車も、対戦車火器や無反動砲には耐えられないだろうという話であった。


「終わってみると呆気なかった」


 胸のつかえがとれた古川首相は大きく伸びをした。

 続けてすぐに眠気が押し寄せてきて、慌てて欠伸を噛み殺した。昨夜は総理大臣公邸に泊まったが、あまり眠れなかった。古川首相個人が公邸での寝泊まりに不慣れなこともある(普段は自宅で寝起きしている)が、やはりストレスによるところが大きかった。が、とりあえずひとつの山場は越えた。今晩はゆっくり眠れるだろう。

 その首相の様子を見た小谷防衛相は、微笑みながら言った。


「自衛隊の隊員が“スクープ写真”をたくさん撮ってくれているみたいですから、後で見せてもらいましょう。歴史的一枚になるかも」


「日章旗を掲げた灯台の写真なんか、連中悔しがるだろうなあ」赤河財務相はにやりとして笑った。「ところで昼食はどうだい、2階の食堂でカツ丼でも」


 ははは、と閣僚達は笑った。縁起担ぎでカツ丼を食するなど陳腐にもほどがあるが、日韓開戦以来、赤河財務相は真面目にカツ丼(官邸食堂価格300円)どころかカツ重(官邸食堂価格980円)ばかりを食べていた。それを見た周囲は豪胆な政治家のようで案外ジンクスを気にするのかもしれない、と感じた。

 ちなみに自民党幹事長の浜幸造もチョコレート菓子のキットカットを買い占めて、周囲の議員や官僚に差し入れしまくっていた。しかも油性のマジックでキットの部分を塗り潰し、“絶対”と書き入れて、“絶対カット”にして配っている。

 つくづく日本は言霊ことだまの国だな、と小谷防衛相は内心でおかしがった。


 しかし竹島の奪還で戦争が終わるわけがなく、すぐさま韓国軍による反撃が始まろうとしていた。





出典・陸上自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/gsdf/equipment/ve/index.html)

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