■26.好餌、竹島。(前)
戦局自体は自衛隊側の優位で進行している。
6日、海上自衛隊第1航空隊のP-3C対潜哨戒機が韓国海軍の張保皐級潜水艦1隻を、長崎県五島列島北方沖にて捕捉、撃破した。
この張保皐級潜水艦の任務は約20個の機雷を五島列島の東側に敷設し、佐世保周辺海域を封鎖することにあったが、あまりにも荷が重すぎた。対馬諸島南方沖の水深は100mから150m程度、五島列島周辺海域の水深となれば100m未満にしかならない。そのため潜水艦は身を隠し難い浅い深度を、しかも日本側の航空優勢下での行動を強いられた。困難に過ぎる任務であった。
海上自衛隊は、潜水艦の襲撃と爆撃機による機雷敷設により散々に苦しめられた先の大戦の反省から出発した組織である以上、対潜水艦戦と掃海に長けている。鼻先をうろつかれて気づかぬはずもなし。前述の通り、海上自衛隊第1航空群司令部は潜水艦隊司令部に対して、味方潜水艦の所在を確認していたため、発見から攻撃、そして撃沈までスムーズに運んだ。
同日、対馬諸島方面では韓国空軍による航空作戦も実施された。攻撃対象とされた目標は2つ。1つは唐津湾に遊弋していると思しき、海上自衛隊護衛艦隊。もう1つは緒戦で無力化し損ねた、航空自衛隊第43警戒群の脊振山分屯基地のレーダーサイトである。
「対馬諸島方面の航空優勢、海上優勢を確保する」
金空軍参謀総長と空中戦闘司令部司令官の強い指導の下、韓国空軍は攻勢に出た。
対馬諸島を保持するためには航空優勢、海上優勢を手にする必要がある。
そのためにはまず九州地方に配されている海上自衛隊の護衛艦隊を撃破しなければならなかった。敵のイージス艦が九州地方北部で睨みを利かせている限り、壱岐周辺空域は勿論、対馬諸島周辺空域に接近する友軍機は、いつ対空攻撃を受けてもおかしくない。
攻撃命令はF-15K戦闘攻撃機を運用する第11戦闘航空団に下った。F-15Kは航空自衛隊のF-15Jとは異なり、AGM-84ハープーン対艦ミサイルを装備することが可能だ。この空中発射型ハープーンであるが、高高度から発射した場合、その射程は200㎞以上にもなる。発射母機であるF-15Kが、護衛艦の反撃を受けることはほとんどないであろう。
一方で金空軍参謀総長は、自衛隊機による妨害を恐れていた。
ミサイルの射程は一般的に機体の高度に依存する(高高度から発射した方が射程は延伸する)ので、射程距離を確保するために高高度を往くF-15Kの編隊は早々に航空自衛隊に捕捉されるであろう。そうなればいくら世界最強の中距離空対空ミサイルAIM-120を装備させていたとしても、爆装するF-15Kの不利は免れない。とりあえず空中戦闘司令部ではKF-16戦闘機を護衛機とし、自衛隊機への対処としたが、不安を払拭するのは難しかった。
攻撃に参加する兵力はF-15Kが16機、KF-16が12機の計28機。
より多くの戦闘機を参戦させることは不可能ではなかったが、攻撃部隊の規模をこれ以上拡大すると、B737早期警戒管制機による指揮管制の効率が落ちる。F-15Kには対艦ミサイルを2発装備させる(最大で3発装備可能である)ため、対艦攻撃力の観点で言えばこれで十分だと考えられた。
おそらくこれは韓国空軍における史上最大規模となる航空作戦であったが、それ故に航空自衛隊はすぐさまこれを察知した。第602飛行隊のE-767早期警戒管制機は、まず護衛のKF-16戦闘機12機の離陸を捕捉。続けてF-15K複数機と、KF-16に対する空中給油の実施を捉え続けた。
「大邱基地からの出撃機数は16」
「欺瞞がなければ主力はF-15Kを擁する大邱の第11戦闘航空団か」
「攻撃の矛先は南か、東か――」
航空総隊司令部では対応を迫られたが、冷静な判断を下した。
韓国空軍の狙いは南方――行動中の護衛艦あるいは九州地方の自衛隊基地に違いない。戦略的・戦術的に考えると、韓国空軍にとっては日本海側の小松基地も目の上のたん瘤だろうが、いかんせん遠方に過ぎる。と、なればやはり対馬諸島を守るため、その鼻先を攻撃するのが自然であろう。
水上艦艇を叩くつもりか、それとも緒戦で攻撃しなかった海上自衛隊佐世保基地を攻撃するか。佐世保基地が大打撃を受ければ、海上自衛隊の行動には大きな制約がかかることになる。在日米軍に対する誤爆を避けるために、航空機を繰り出して航空攻撃を実施する可能性は十分考えられた。
どちらにしても、要撃の必要がある。
九州地方北部で戦闘哨戒中であった第305飛行隊のF-15J戦闘機に加え、那覇基地から新田原基地に移駐させていた第304飛行隊のF-15Jを出撃させた。機数で言えば20機に満たないため、数的不利は否めない。が、沿岸部では陸上自衛隊・航空自衛隊の高射部隊、海上では水上艦艇の援護を受けられるため、トータルの戦闘力は韓国空軍側の攻撃部隊に勝っている。
(※1 韓国空軍F-16戦闘機)
航空戦はまず第304・第305飛行隊のF-15Jと、韓国空軍側の護衛機KF-16による視界外戦闘から始まった。
このとき戦闘に参加していた第304・305飛行隊のF-15Jは1985年以降に納入された機体で、近代化改修がその後になされた所謂J-MSIP機である。主武装は射程100㎞を超える99式空対空誘導弾であり、名実ともに航空自衛隊――否、東アジア最強クラスの制空戦闘機だと言える。
対するKF-16は90年代に生産された機体であり、アメリカ空軍のF-16C/Dブロック50/52(90年代に登場したタイプ)に相当する性能を持つ。仮に自衛隊のF-15JがJ-MSIP機ではなく、近代化改修に対応出来ないPre-MSIP機であったならば、KF-16に対して苦戦を強いられたであろう。視界外戦闘における主武装は米国製のAIM-120C。所謂アムラームと呼ばれるミサイルで、90年代から多くの戦闘機を実戦で叩き落してきた代物である。
その戦闘の結果は歴然だった。
一瞬にして韓国空軍の護衛隊の半数、6機のKF-16が99式空対空誘導弾の餌食となった。対する韓国空軍側が放ったAIM-120CもまたF-15Jに食らいついたが、撃破出来たのは2機に留まった。
日韓ともに発射した空対空ミサイルはジャミング等の誘導妨害に強い高性能兵器であるが、KF-16の電子機器が劣弱であることが命運を分けた。KF-16の戦術データリンクは旧式で情報共有と連携が難しい上に、搭載されているレーダーの性能が劣っているため、攻撃開始のタイミングがF-15Jよりもワンテンポ遅れる形になってしまったのである。
だがしかし、残るKF-16は不利を知りつつも戦域から離脱することなく、F-15Jに食らいついた。操縦士達の士気は高い。護衛機が全滅したとしても、攻撃機が空対艦ミサイルの発射出来れば作戦は成功である。
「ドロップ」
F-15Kからも被撃墜機が出たが、多くはAGM-84ハープーンの発射に成功した。全弾28発。イージス艦のような防空に特化した水上艦艇でなければ、到底捌き切れる規模ではない。
攻撃の標的となったのは、第2護衛隊・第8護衛隊の護衛艦6隻である。
「SM-2発射用意」
前述の通り、九州地方北部に遊弋する第2・第8護衛隊所属の護衛艦は『いせ』、『あしがら』、『あさひ』・『ちょうかい』、『しまかぜ』、『すずつき』である。ここではイージスシステムを搭載した『あしがら』と『ちょうかい』が本領を発揮した。ソビエト連邦軍の対艦ミサイルによる飽和攻撃に対応するために導入されたイージスシステム搭載型護衛艦は、1度に10個以上の航空目標を攻撃可能である。
火焔を噴きながら舞い上がる艦対空誘導弾SM-2は、高高度を飛翔するAGM-84を次々と撃墜していった。危なげもない。28発全てが空中で爆散するか、制御を失って錐揉みしながら落下した。完封である。
「全機帰投せよ」
韓国空軍側は攻撃が成功したか否か、よくわからないまま戦域から離脱し始めた。
すぐさま自衛隊機が追撃を行い、1機のF-15Kを撃墜したが、それ以上の戦果拡大は望めなかった。釜山南方沖には韓国海軍のイージス艦『世宗大王』が控えており、追撃の最先鋒にいたF-15Jは反撃を受けた。『世宗大王』のSM-2は射程範囲ギリギリの距離で発射されたため、F-15Jは容易にこれを躱したが、攻撃は諦めざるを得ない。
結局、この戦闘は自衛隊側の圧勝で終わった。
韓国空軍の致命的失敗は、AGM-84の射程を限界まで稼ぐために、飛翔コースを高高度に設定していたことであろう。敵方にイージス艦が存在する以上、200㎞以内に近づけば攻撃を受ける可能性が高いからそうしたのだろうが、ここはリスクを取ってでも接近し、超低空を飛翔するシースキマーモードで発射するべきであった。そうすれば、護衛艦1隻ないし2隻程度に致命的なダメージを与えられたであろう。
だがそうはならなかった。この日、韓国空軍は最終的にKF-16を8機、F-15Kを3機喪失した。その上、作戦目標は達成出来ていない。
対する陸海空自衛隊は翌日の7日、反撃作戦を竹島方面で発動した。
(※1引用元 韓国空軍公式HP ENG http://www.airforce.mil.kr:8081/user/indexSub.action?codyMenuSeq=56580&siteId=airforce-eng&menuUIType=sub&dum=dum&boardId=O_19686&page=1&command=albumView&boardSeq=O_36811&chkBoxSeq=&categoryId=&categoryDepth=)




